第36話 エルフ族の村トンデ

 翌日、テレサ、キャロルと従者三人を連れてガル族の地トロスに転移し、ガル族グミ族ヤハ族の長たちを集める。


「近いうちに戦があるようじゃ。お主たちにはワシの配下として騎兵で参加してもらいたい。各部族から2千騎ずつ手勢を集めテミスに集合させよ。食料は十分にある。」


「はっ、できる限り集めます。」


「農作業や街作りが優先じゃ、戦と言っても狩りと変わらぬ、少なめで良いぞ。」


 グミ族とヤハ族の長たちをエアバスに乗せて出発する。昼食を摂りながら草原を走り続け、森もいくつか越えてグミ族の地サバスに到着する。


 そこで精霊の祠を作り精霊樹を植え、転移陣を作り、桑の木を植えさせてから精霊を呼び出す。


「シーブ、コダマ、この地サバスを見守るのじゃ。この者たちの農業指導と相談にも乗ってほしい。」


「はい、仰せのままに。」


「ここにも蚕を飼ってもらうとして、果物と綿が良いかの。モモにパイナップルにスイカにミカンにリンゴやイチゴとメロンにトウモロコシ、ぼろ儲けじゃなフフフフフッ。そういえばトマトにネギにダイコンと胡椒やトウガラシもあったか。」

 カグヤは皮算用を始める。


「欲張りすぎです。」

 精霊コダマが不安そうに口を挟む。


「仕方がないのう、できるところからで良い。でも全部植えるのじゃ。適地を探しておいてくれ。」


「はーい。」


「これよりこの地は精霊に守られる。また、旅人や商人たちと仲良く取引するように。」


 カグヤの領地の首都予定であるテミスに騎馬2千ほど送るよう指示すると、次の地ウルスに向かってヤハ族の長たちと共に出発する。


「それにしてもいろいろな精霊たちがいるのですね。」

 キャロルは話し相手のエインセルに話しかける。


「カグヤが生み出した精霊も多いわね。」

 キャロルの頭の上にいるエインセルが答えた。


「ウーン、ワシが生み出したわけではないが、結果的にそうなるかの。」


「精霊王と呼んでもいいぐらいよね。」


「それは断るのじゃ。」


「なんでよ。」


「それでは世界を荒らしまわる悪魔の王と変わらぬでは無いか。」


「何で悪魔なのよ。」


「では、お主、ワシと会う前は普段何をしていたのじゃ。」


「エート、ケモノをからかったり、人を脅してみたり、無駄に魔物を繁殖させてみたり、魔獣を挑発したり、森の恵みを少なくしたり、不作になるよう土地を痩せさせたり、川を氾濫させたり、雪崩や山崩れを起こしたり、森の木を枯らしたり、暇つぶしに旅人を襲ったり、意味も無く穴を掘ったり、火山を噴火させてみたり・・・。」


「やはり悪魔の所業じゃな。」


「あっれぇー???」

 エインセルは首を捻る。


「自覚症状は無いのですね・・・。」

 聞いていたテレサもやや引き気味だ。


 やがてヤハ族の暮らす地に到着する。


「ずいぶんと海に近いのですね。」


「ここでは洪水や津波が来たときに町ごと流されてしまうのじゃ。もう少し小高いところを中心としたほうが良い。」


 カグヤはなだらかな山の中腹に祠を作り精霊を呼び出す。


「キジムナー、ナーイアスとネイレスが良いかの。魔法を使える者はおるか?」


 控えていた族長イムチに聞く。


「はい、初級程度なら10名ほどおります。」


「十分じゃ。精霊ネイレスと相談し、ここに港を作るのじゃ。」


「港ですか?」


「ウム、海上ルートで交易しながら海の恵みもいただくのじゃ。海産物だけではなく塩も取れるし、忙しくなるぞ。わかっていると思うが旅人や他の村や町を襲っての略奪は禁止じゃ」

 カグヤは念を押す。


「はっ、血の気の多い者はテミスに送ります。」


「ウム、そうしてくれ。命令を守らせるための訓練も必要じゃからのう・・・いや、時間もあるからここで躾でもするかの。」


「・・・?」


「腕自慢の戦士を数人連れてくるのじゃ。ワシが少し手合わせしてやろう。」


 イムチは一族の屈強な兵士を呼びに行かせる。


「長い放浪の末にやっと出会えた巫女姫様に何かあったら私たちは途方に暮れます。」


「案ずるな、戦場において誰に従うべきかを今から教えこむだけじゃ。」


 しばらくすると様々な武器を持った30名ほどの戦士たちがやってくる。がたいのいい者たちがカグヤたちの前に立つ。


「戦場においてお主たちにはワシの命令に絶対服従じゃ。異論はあるかの。」


「いくら巫女姫様の言葉でもそんなことはできません。」


「じゃろうな。相手してやる、武装して馬に乗れ。」


 そういうとフェンリルを呼んで飛び乗る。


「おおー、」

「これが聖獣フェンリル。」


「さあ、最初は誰じゃ。」


「俺が相手しよう。」


「フム、ではいくぞ。」


 馬に乗った男は対峙したカグヤに向かって突進してきた。カグヤはフェンリルの上に立ち鉄扇を持ち待ち構える。すれ違いざま、突き出された剣を掻い潜って馬上の男に一撃をかまして馬上から叩き落とした。


ドォーン


 男は馬から突き落とされて地面の上で気を失っていた。


「次じゃは誰じゃ。本気で掛かって来ぬと死ぬぞ。」


「よし、俺だ。」


「フム、では行くぞ。」


 今度はカグヤが突進し、一撃で馬上から叩き落す。30人ほど叩き落すとカグヤと対峙するものがいなくなった。


「ま、こんなものか。ワシの命令の元で武勲を挙げたい者だけマホ族のテミスまで来ると良い。そこで部隊編成をする。では族長イムチよ、あとは任せたぞ。」


「私にすべて一任でよろしいのでしょうか。」


「ウム、それで良い。ワシは暇ではないのじゃ。」


 転移門を通り王都クルリに帰ると執務室に向かう。そこでお茶をする。


「フー、やっと遊牧民たちを指揮下におけたの。」


「あのう、戦争が始まるのですか?」

 キャロルが聞いてくる。


「ウム、ラーマ帝国がウルン王国に攻め入ってるらしいの。思ったより早かったのじゃ。」


「エッ、両国は同盟を結んでいるでは・・・。」


「そこで産出される鉱物が目当てだと思います。」


「ラーマは大帝国ですものね。いつかはこの国も狙われるのでしょうか。」


「そうなる前に叩きのめすのよ ・・・カグヤが。」

 キャロルの頭の上のエインセルが拳を振り上げ威勢良く話す。


「ワシか・・・まぁ、そのつもりではあるが。」


「無理はなさらないでくださいね。」

 キャロルが心配そうに言う。


「さて、明日から治水工事に入りたいが・・・そういえばエルフたちの住むトンデ村があったのう。」


「どこの国にも属していませんね。」


「挨拶ぐらいはしておくか・・・。ウーン、昔に転移門を作ったような、作らなかったような・・・。」

 思い出そうとしているとクモガタがカグヤの意識の中で話す。


「作りました。破壊されてなければ残ってるはずです。」


「そうじゃったか、明日試してみるか。」



 翌日、朝食を食べてから転移門前に集合。

「今日はトンデ村に行くのじゃ。」

「あのう、転移陣は何時作ったのですか?」

「覚えてないのじゃ。破壊されていれば転移できないだけなので心配はないのじゃ。」


「ほんとでしょうね?」

 キョロルの頭の上にいる精霊エインセルが戸惑いながら騒ぎ出す。


「では転移じゃ。」


「ちょっと待てぇーい。」


 一瞬で景色が変わり、何かの祠の裏側に転移したようだ。


「何か用かの?」

 カグヤがエインセルに話しかける。


「もういいわよ。どこよここ。」


 あたりを見回すと白い肌の線の細そうな人々が祠の前でお祈りをしていた。そのうちの数人がこちらに近づいてくる。


「あの、あなた方は?」


「ワシはカグヤ・ムーン・アイナリントじゃ。挨拶に来た。」


「おおー、まさしくカグヤ様じゃ。」


「数百年も前になると思うがわかるのかの?」


「これとそっくりね。」


 エインセルが指を差す先には着物を着て鉄扇を振るうカグヤの銅像があり、その横で炎と土の精霊ラーヴァがヒザを突いて控えていた。


「ああなるほど、そういえばラーヴァに、この山脈の噴火を抑えるよう頼んだのじゃったの。」


「はい、カグヤ様にはお変わりなく、またお会いできて光栄にございます。」


「エルフたちとはうまくやっているようじゃの。」


「はい、私の手足となって働いてくれます。」


「我等はラーヴァ様と共にあります。」


「数年後には大量の魔素が噴出して大規模なスタンビートが発生する。一時避難してもらうことになるので準備しておいてくれ。山頂のドラゴンたちには伝えてある。」


「異変は感じておりましたが、カグヤ様がおられるならば心強い。何なりとお申し付けください。」


「今回はカズラ高原に追われた遊牧民を入植させるので挨拶に来たのじゃ。ついでに森林の形を変えるので許可を得にきた。」


「まずは歓待させてくだされ。皆喜びましょう。」



 祝いの席が用意され、第一王女のキャロルを紹介する。


「これは薬膳酒か、うまいのう。」


「はい、カグヤ様が我等の先祖に伝授された物をさらに改良した物でございます。ときどきトリシア王国の商人たちも買い付けに来るので生活には困りません。」


「直接売りに行けば儲かるじゃろうに。」


「我ら森の民はほどほど生活できればよいのです。欲を掻くと碌なことにならない、というカグヤ様の教えを守っております。」


「律儀なことじゃな。ま、ヒューマンの欲からくる悪意に勝てる種族はおらん。ほどほどに儲けさせて地味に生活することじゃ。」


「対等というわけにはいきませんか?」


「やめておけ、数で蹂躙されるだけじゃ。」


 しばらくするとエルフの族長が現れる。


「ずいぶんお久しぶりにございます。この村の長でクルゴン・クーサミオンと申します。」


「すまぬが覚えてはおらぬ。過去に訪れたのはずいぶん昔だと思っていたが、まだ生きている者もおったか。」


「はい、すでに500年以上経過してございます。我等をこの地に導いてくださったカグヤ様はあの頃とお変わりありませんな。あれからドワーフや背中に羽を持つホルス族とワータイガー族が近くに住んでおります。」


「フム、ドラゴンたちともうまくやれているようじゃな。」


「はい、ドラゴンたちに捧げる薬膳酒は大変好評です。」


「無茶は言うておらぬか?」


「いいえ、ときどき危険な魔獣を退治するため見回ってくださっております。」


「そうか、それなら良い。さて、今回ここにきた目的じゃが、カズラ高原に避難民たちの村を作り、スタンビートに備えて大河の堀を作りたいと思う。ついでにこの村の結界も強化する予定じゃ。結界は拉致対策じゃな。」


 カグヤは大まかな地図を出してエルフの各長たちに計画を知らせておく。


「そのあたりなら特に影響はなさそうですが、海まで1000kmはありますぞ。それを3本も作るのですか。」


「水の通り道を作りながら資源を確保するだけじゃ。たいしたことではない。一月もあればなんとかなるじゃろ。掘った資源は持っておくといろいろ便利なのじゃ。」


 その後トンデ村の奥に魔力の多いエルフしか入れない結界を張り、万が一に備えた結界も張っておく。


「そういえば冒険者や旅商人も来ておるようじゃな。」


「はい、困ったことに冒険者に憧れて村から出ていく者もときどきおります。」


「フフフ、若いうちは街や冒険に憧れるものじゃ、自由にさせてやると良いのじゃ。他の大陸ではいろんな種族が交わる国もあるのだぞ。」


「いいように利用されるだけでは・・・。」


「心配しすぎじゃ。なるようにしかならんのじゃ。お主たちには恵まれ過ぎた地を与えてしまったかのう。この地は誰の物でもでもないことも念頭にいれておくのじゃ。いつか決断しなければならないときがくる。」


 排他的な考え方をしそうなエルフたちに危うさを感じながら話を終える。

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