第6話 ロート市
その日、ロートに帰ったのは昼過ぎ。
カグヤは軟禁状態におかれていた。突然フラッと現れた化け物じみた力を持つ少女の対応に戸惑っているのだ。
結局、見張りをつけて様子を見ることにしたようだ。
翌日、カグヤは幕舎に呼ばれ、羊皮紙で作った礼状と討伐報奨金を貰うことになった。
「貴殿のスモールアント討伐の武勲と功労に敬意を表し、ここにその努力を称え表彰するものとする。」
「また何かあったらよろしく頼む。」
ザルツはカグヤ近づき、手を強く握って念を押す。
「何かあったようじゃの。」
「くわしくはミューシーとテレサから聞いてくれ。」
カグヤが幕舎を出るとミューシーとテレサが外で待っていた。
「エート・・・。」
「カグヤでも良いし、呼びやすいように呼んでくれればいいのじゃ。」
「ではカグヤさん、まだ食料の報酬である情報の方をお渡ししてませんでしたので街を案内しますね。」
「そうじゃな、ギルドとか食料物資や魔物素材と武器の売り先とか、その前に宿屋が先かのう。」
「あー、泊まるところがまだでしたか。」
「風呂付きで頼むのじゃ。」
「・・・それだと貴族用の宿になりますが高いですよ。」
「当面の生活費も手に入ったしそれで良い。・・・それとじゃな、オークションのようなところはないのかのう。」
「それなら王都クルリで4月の武道会と11月の収穫祭の期間に三日ぐらいかけてやってますよ。たまに強力な武器や鎧が出品されます。大河沿いの交易都市なので商業活動も活発です。」
ミューシーが説明する。
「オークションならあと二週間後ぐらいですね。不思議な術を使うカグヤ殿なら武道会に出れば優勝も狙えるのではないでしょうか。優勝すれば爵位がいただけますよ。」
テレサが横から口を挟む。
「いや、爵位など迷惑なだけじゃな。」
「ええっ、いらないんですか?普通は欲しがるものですが。優勝できないまでもある程度活躍すれば騎士団がほっときません。」
ミューシーはなんとか出場させようと必死だ。
「何があれば出る気になります?」
と、テレサも畳み掛ける。
「そういわれてものう。それなりの金になるというのなら喜んで出るかもしれん。」
そうこうするうちに貴族がよく使うという門構えが立派な宿に着いた。
中に入って見回すと、昨夜幕舎で出会ったやんごとなき姫と目が合う。
「あっ、聖女様。」
と言いながら駆け寄ってくる。
「スモールアント退治見てました、精霊を従えて空を飛びながら凄い魔法をバーンバーンって、とってもかっこよかったです。私もあんなふうになりたいです。」
女の子はキラキラした瞳で手を差し出す。
なんとなくカグヤは差し出された手を握り返しながら
「お、おう、努力の賜物じゃ、強い意志をもって突き進むのじゃ。」
とっさにテンパった返事をする。
「はい。」
と言いながら逃げるように小走りで駆けていく。
「キャー、今日は手を洗いません。」
「よかったですね。」
などと言う声が聞こえてくる。
「あれが聖女様か?」
「あの子供がほんとに戦ったのか?」
「おう、俺も見に行ったけど魔法とかすごかったぞ。見た目で騙されるなってことだ。」
宿の手配を早々に済ませ、次に向かったのは冒険者ギルドだ。
ドアを開け、中に入ると一斉に注目を浴びる。
カグヤは、この都市ではすっかり有名人になっていた。
受付窓口に声をかけると、すぐに奥の部屋に案内された。
椅子を薦められ、後ろにミューシーとテレサが立つ。
「好待遇なのはよいが、普通に処理してもらえるとありがたいのじゃが。」
カグヤは面倒事を押し付けられるのを警戒しながら慎重に言葉を選ぶ。
「このたびは街をお救いくださり大変ありがとうございました。初めましてギルド長のエルロス・スーリオンです」
「ワシはカグヤじゃ。その顔立ちはエルフ族か。」
「・・・フルネームでお伺いしても。」
「カグヤ・ムーン・アイナリント。エルフ族には月の音色で通じるかの、遠い昔すぎて知ってる者はいないと思うが。」
「そうでしたか。アイナリント様のことは伝承として語り継がれております。我々エルフ族はカグヤ様から受けた恩は決して忘れません。」
「忘れてもらってもよいのじゃがの。」
「まだ旅は続けていらっしゃるので。」
「永遠にのう。」
「スーリオン一族の名にかけて、国を敵に回しても全力でサポートさせていただきます。」
エルロスはこぶしを握り締めて強い口調で言い放つ。
・・・それは助かるが暑苦しいヤツじゃのう。
「いや、ワシはギルドカードを作ってもらいにきただけなのじゃが。」
「そうでしたか、念のために他国のカードはお持ちですか。」
カグヤはストレージからサッと出して何枚か渡す。
「聞いたこともないような国のものばかりですね。」
「海の向こうじゃからの。FクラスからSSSクラスまでいろいろじゃ。」
エルロスはカードをしばらく確認してから
「新しく作らせていただきます。他国に負けないようキンキラキンの特別製を!」
「まて、色が選べるなら若草色が良いぞ。」
「それではCクラスになってしまいます。規則ですから。」
「いや、身分証替わりと素材を売りたいだけなのでCクラスで良い。」
「なるほど魔物の素材ですか、どんなものがあるのですか。」
「まだ
「まるで、裏山に行ってちょっと取ってきた、みたいなノリですね。」
「肉は油がのっていてなかなかうまいのじゃが一人では食べきれんし、解体するとすぐに腐り始めるのが難点なのじゃ。」
「それは貴重な珍味ですね。貴族たちが喜んで買うと思いますよ。」
そんな話をしているとドアがノックされ、女性職員が箱に乗せられたS級の金のカードを机に置く。
「これに魔力を流してください。それで登録が終わります。」
続いて、トリシア王国の地形や冒険者たちの主な活動について聞く。
ロート市から西に行くとカズラ高原があり、その先にカズラ大森林地帯が広がっている。
カズラの大森林の北側を少し入るとエルフのトンデ村があるそうだ。エルロスギルド長はそこの出身となる。
エルフの里トンデ村はトリシア王国の庇護下にあり、冒険者たちの休息地としての役割もあるようだ。
そこには商人も出入りしていて、薬草や魔物の素材が主な主産品だ。
ところが、昨年から北方のラーマ帝国に追われた四つの部族が、魔獣が多く人の住まないカズラ高原に移住してきたらしい。
四つの部族はカズラ高原の広範囲に牧畜を営んで生活し、そのうちの一つマホ部族がロート市とトンデ村の途中に居座り、ときどき商人や冒険者を襲うようになっているらしい。
・・・今回のスモールアントの暴走もそれと何か関係があるのかもしれんな。
ガクヤはそう考えながら話を聞いていた。
「ギルドでもマホ族討伐の依頼は出しているのですが、一月前ほどにA級冒険者グループを動員して派遣したにもかかわらず荷物はすべて奪われ、怪我を追って帰ってきたところです。」
カグヤは考え込む。
「よかろう、気がかりなこともあるし、ワシがちょっと行って話し合って来るのじゃ。」
「話し合いが通じる相手ではありませんが・・・。」
「何を言っておるのじゃ。肉体言語で話すに決まっておる。」
「国に軍の派遣も依頼しておりますが、色良い返事もありません。どうか、よろしくお願いします。出発日までに同行できる冒険者もあたっておきます。」
「いらんお世話じゃな、ワシだけで十分じゃ。」
「一人では危険です。何人か連れて行ってください。」
「ご安心ください、私も同行します。」
後ろからテレサの声がする。
「私もいきますよ、民が困っているのに軍から一人も派遣しませんでした、では国王に顔向けできませんからね。」
ミューシーも会話に加わる。
「来るのか?ずいぶんヒマなんじゃのう。」
「私たちはカグヤ殿の監視役の任務を仰せつかっていますので。」
テレサはあっけらかんと話す。
・・・今、監視役って言ったぞ。
カグヤはミューシーを見る。ミューシーは露骨に目をそらす。
「まぁ良い、出発は明日の朝じゃ。」
「えー、騎士団の尋問は?」
テレサは隠す気も無いらしい。
「金は貰ったしめんどうなので却下じゃな。優先事項を
「わかりました。そう伝えておきます。」
ミューシーはそう答え考え込む。
・・・団長たちにどう話せば納得してもらえるのだろうか。
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