第13話 踊りに踊らされ1

 現在、地上で一番人気のダンサー「UZUME」。


 彼女が主に踊るのは物語の要素を含んだ演目でブレイクダンスを多用するビバップだ。帽子やフードを被ったカジュアル主体で演目中何度も変わる衣装、アップテンポな動き、激しい足さばき、スピンやジャンプといったアクロバティックな動きも取り入れたアグレッシブなそのダンスは、人々を魅了していた。

 深く被られた帽子で顔がはっきり分からないところも、ミステリアスで人気の要因の一つだ。


「やっぱりイイ!」


 そう叫ぶ彼女の正体、実は踊りの女神「アメノウズメ」である。

 なぜ人の姿でこんなことをしているのかというと、そこには彼女の悩みが隠されていた。

 実は彼女、神の姿のままだと自分の意思とは関係なくスケスケの際どい衣装で官能的な踊りしか踊れないのだ。

 人の姿だと神の力が弱まる為、自由に踊れる。だからその感覚に慣れさせて、いつかは神のままでも自由な姿で自由に踊りたいと修行中なのである。

 しかし未だにその兆し無し。


「はぁ、一体いつになったらこの身体は自由になるんだ」


 落ち込むアメノウズメの心はいざ知らず、UZUMEの人気はうなぎのぼりだ。

 そんなある日、彼女がいつものように舞台に立つと、何やら只ならぬオーラを放つ集団を見付けてしまう。


 ――え、あれ、神じゃない? 人間仕様だけど確実に神だよね?

 こんなこと初めてだった彼女は焦って心臓がバクバクだったが、プロフェッショナルは戸惑いを表には出さないもの。すました顔のまま演目を始めた。

 しかしそのうちの一柱がニニギと分かり、顔を引きつらせる。……プロフェッショナルもたまには木から落ちるというものだ。


 しっかり者のアメノウズメは、年下のニニギのことを弟のように可愛がっていた。だがやはり、自分の独特な衣装や踊りを見られたくないといった思いから、拠点を変え、それきりになっていたのだ。

 再会するのは能力をコントロールできるようになってからと決めていた彼女は大いに焦った。


 しかもニニギは驚きながらも満面の笑みでこちら見ている。

 ……あの顔、絶対気付いている! だって踊りに喜んでる顔じゃないもの! 今の演目シリアスな感じのとこだもの! 確実に喜ぶとこじゃ無いんだもの! どうする! 私!


 別に私だって会いたくなかったわけではない。実際、勘付かれない距離で元気かどうかの確認はしに行っていた。単にどうしてもこの破廉恥な姿を見られたくないだけなのだ。

 演目を今日も大成功で終えた彼女は、腹をくくりマネージャーに頼んでニニギと待ち合わせることにした。


「ひ、久しぶりだな! ニニギ」

「ああ、やっぱりアメノウズメだね! 本当に久しぶりだ! もう! ずっと帰ってこないから!」

「わ、悪かったよ。神文かみふみは送っていただろ? それで許してくれ」

「はぁ。まぁこれだけ人気なら忙しいってのも本当みたいだし。いいよ、許す。全く……何か帰りたくない理由でもあるのかと思って心配しちゃったよ」

「そ、そんなのあるわけないだろ?」

「ふ~ん。ま、いいや。とにかくやっと直接言えるよ。……アメノウズメ、 念願のダンサー、本当におめでとう! ずっと練習していたもんね! 今日の舞台も最高に素晴らしかったよ!」

「ニニギ……あ、ありがとう」


 久しぶりにニニギから賞賛を貰って嬉しさと懐かしさから感極まる。加えて罪悪感も増す……。


「あ! いたぞ!」

「ほんとです! 何も言わずにいなくなるから探しましたよ~」

「すみません! 会えると分かって居ても立っても居られず」

「ええよええよ~。あ、そちらがさっき話してくれたアメノウズメさん?」


 先ほど一緒にいた三柱もやって来た。緊張のあまり完全に頭から抜けていた。


「はい。ニニギがお世話になっております……って、ニニギ、こちら天照大御神様じゃないか!」

「あ、うん、そうだよ! でもアマテラス様は堅苦しいの好きじゃないから、もっと砕けた方がいいよ。僕……私は孫って設定だしアマテラス様って呼んでるけど、ドウシン様はアマテラスちゃんだし、コノハナサクヤさんはアーちゃんって呼んでいるよ」

「はぁ!?」


 アマテラスちゃんにアーちゃんだと? それになにより……。


「お、おい、設定とか言って大丈夫なのか?」

「ああ、うん。皆そう理解している神様だから大丈夫だよ」


 信じられない……ニニギ以外でその思想の神がいたとは。しかもアマテラス様とコノハナサクヤさんはこちらを見て目を輝かせている。


「ということは、アメノウズメさんも『仲間』なのですね!」

「ふむ! そのようだな!」

「私は絶世の美女って設定です。よろしくお願いします!」

「我は太陽神って設定だ。よろしくな!」


 どうも気に入られみたいだ。力強く光を宿した目の二柱によろしくされた。


「あ、僕はドウシン。道士の神って設定です~。よろしく~」

「二、ニニギがいつもお世話になっているようでありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします」


 ……ん? 道士の、神? そんなの初めて聞いた。比較的新しい神だろうか。


「いやいや、こちらこそやで~。せや、僕らこれから焼き芋すんねん。良かったら一緒にしよ~」

「よろしいのですか?」

「もちろんやで~。すぐそこやし早速行こ~」


 随分友好的なそのお誘いは、ニニギが懐くのもよく分かる。それは良かったとして、なぜか皆、神の姿に戻り始めた。

 すぐ近くということなのに、なぜ神の姿に戻る必要があるのか。これは不味い……しかし私の前にはあっという間に神道ができてしまった。

 こんな高度な道を創れる神なんて聞いたことがない。どれだけそれに長けていても、神界と地上への行き来が寸刻なんて無理なはずだ。


「じゃ、行こか~」


 不味い! 神界へ行くには神の姿に戻らないといけないじゃないか! それは駄目だ! 私は自分の意思と関係なく、あのハレンチな格好に戻ってしまうのだから!


「さぁさぁ! 行きましょう! ドウシン様の創る道はほんとに高度なので目的地まで寸刻しか掛からないんですよ~!」


 直後、コノハナサクヤさんは嬉しそうにこの背を押してきた。しかし止まるには時すでに遅し。もう道に入ってしまった。


「み、み、見るなー!」

「ええ!?」

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