第12話 稲穂に情熱2

 「よーし! じゃ、新米炊くとしますか~」


 彼らが住んでいるという神殿に到着すると、ドウシン様は腕まくりをしてやる気をみなぎらせた。話し方も既に気さくな感じになっている。


「実は地上で大人気の最新炊飯器を手に入れたんや~。土鍋とか羽釜とか竈とか迷ったんやけど、やっぱ素人は最新機器に頼るに限るかな~と思って」

「は、はぁ」

「じゃ、早速精米するわ~」


 そう言うとドウシン様は何もないところから米と精米機を出現させ、いとも簡単に精米を完了させた。


「ええ!? どこから出したんですかっ?」

「ん? ああ、言ってなかったけ。僕の能力の一つに、再現ってのがあるねん~。一回見たら生き物以外は再現できるよ~。ちなみにメインの能力は神を操る能力、通称キョンシー能力やで」

「はい!?」


 私は驚愕し、そして一気に警戒を強めた。

 道士の神と言っていたが、そういうことかと合点がいった。つまり、アマテラス様やコノハナサクヤさんは、胸元に着けている札で彼に逆らえないということ……!


「大丈夫ですよ。ドウシン様ってちょっと変ですけど、悪い神様じゃないですから」


 焦る私とは対照的に、コノハナサクヤさんはにっこり微笑んで囁いた。


「あの……でも、キョンシーにされたせいで一緒に住んでおられるのですよね?」

「ふふ、いいえ。きっとニニギ様にもすぐ分かりますよ」


 楽しげにドウシン様の方へと視線を戻した彼女は、やけに自信たっぷりだ。


「んじゃ、米研いでっと~」


 ドウシン様といえばこちらの混乱などまるで気付かないまま、とにかく米に集中している。

 ……いや、集中していない! なんだそのテキトーは!


「米は最初にふれる水を一番吸収します! なので水にはこだわった方が良いです! それからこちらの米はかなりしっかり精米されているようですから、研ぐというより残った汚れをすすぐくらいのイメージで良いかと思います! 計量はきっちり行い、洗いは手早く、その後冷えた場所で一時間程水に浸してから炊くと良いでしょう!」

「は、はい!」


 直後、ドウシン様の返事にハッとして、またやってしまったと落ち込む。


「す、すみません。差し出がましいことを……」


 米に対して異常に熱くなってしまうのは、私の悪い癖なのだ。


「物知りなんですね! 素敵です!」

「うむ! 勉強になったぞ!」


 しかし引くでもなく鬱陶しがるでもなく、コノハナサクヤさんもアマテラス様もなぜか喜んでいる。こんな反応を向けられたのは初めてだ。


「ほんまやな~。テキトーにやってしまうとこやったわ~、ありがと~」

「あ……いえ、すみません。これが正しいってやり方があるわけでもないのに偉そうなことを言ってしまって。私は昔から米のことになると熱くなってしまって……」

「なぜ謝る? 良いことではないか」

「え?」

「そうですよ! それにその知識を惜しげもなく教えて下さるなんて、ニニギさんはとっても親切なんですね!」

「ええ!?」


 これは予想外すぎた。ドウシン様も使役する側のはずなのに、素直に言われた通り実践している。

 何だか調子が狂う。……でも、嬉しい。


 それからというもの、私はアマテラス様とコノハナサクヤさんに誘われるたび、ドウシン様の創ってくれた道を使って頻繁に神殿を訪れていた。しかも「もうこっちを拠点にしたら~?」というドウシン様の提案によって、私の部屋も用意してもらった。

 結局、コノハナサクヤさんの言っていたことは正しかった。ドウシン様はどうにも、すこぶる優しい神様のようだ。

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