第14話 踊りに踊らされ2

「……落ち着いた~?」


 醜態にパニックを起こした私は、神殿の客間でうな垂れていた。ドウシン様がすぐさま上着を掛けてくれたからがっつり見られたわけではないが、これは落ち込む。


「ご迷惑をお掛けしてすみません。……実は、自分の意思とは関係なく神の姿だとああいった際どい衣装になってしまうんです。しかも躍りも官能的なものしか踊れなくて……」

「ご、ごめんなさい! 私ったら!」

「いえ! 私が言っていなかったせいなので! むしろ気にさせてしまってすみません」

 コノハナサクヤさんには悪いことをしてしまった……。

「アメノウズメ……もしかして、ずっと帰ってこなかったのって」

「あ、ああ。ごめんな。ニニギ。あんな姿、見られたくなかったんだ……」

「そ、相談してくれよ! ずっと、ずっと心配してたんだからな!」

「……ごめん」

「あ、いや。こっちこそごめん。誰でも言いにくいことってあるよね……。そういえば昔から踊りの練習は隠れてしてたっけ。でも昔の服ってそんなだった?」

「いや。昔はもっとマシだったんだ。でも踊りが上達すればするほど肌を覆う面積が減っていってな。今じゃこの有様だ。人の姿なら力が収まるんだが、神のままだとまだコントロールできないんだ」

「そっか……」


 ニニギはこちらの気持ちに寄り添うように、悲しげな表情を浮かべる。そんな顔をさせたいわけじゃなかったのに……。そんな空気を一変させたのは、コノハナサクヤさんから放たれたこの発言。


「それなら、ドウシン様のキョンシーになればいいのではないですか?」

「は?」


 屈託のない笑みを浮かべ、彼女の中ではもう問題解決といった表情だ。


「うむ。我もそれが良いと思うぞ」


 ……ア、アマテラス様まで。先ほどドウシン様についてやキョンシーの件で説明は受けたが、しかし抵抗があるというか。


「せやな~。力ちょっと抑えるくらいならそこまで時間も掛からんやろうし、今日中にはキョンシー化できると思うで~。一回試してみる? いらんってなったら解除すればええだけやし」


 え、キョンシー化ってそんな軽い感じでやっちゃえるものなのか? 一応の主従契約のはずだが……。

 だがもし本当に神の姿でも自由な姿で自由に踊れるのだとしたら、それは喉から手が出るほどに欲した現実だ。それに、そもそもこの神の規格外の力なら、同意を得ずともキョンシー化することは可能だろう。それをしていない時点でやはり皆の言う通り、害のない神と判断して良いのではないか。


「まぁ、気が向いたらでええからな~」

「そうだね、焦って決めることないよ。実際私もキョンシーではないしね」


 確かにニニギは違うようだ。札が貼られていない。それにしても相変わらず素直で毒のない顔だ。もう……ずっと隠れたままなんて嫌だ。


「ニニギ……私はこのハレンチ衣装とおさらばするぞ」

「え? うん。思い切りが良いね。よし、おさらばしよう」

「……ああ。ドウシン様、ぜひ今! お願いします!」

「うん、ええよ~」


 ――次の日、私はコノハナサクヤさんの部屋で彼女の服をいくつか着させてもらっていた。


「コノハナサクヤさん」

「アメノウズメさん!」


 私たちは手を取っていた。急いで部屋を出ると、前で待ってくれていたアマテラス様とニニギにもその姿を見せる。


「やったな!」

「うん、うん!」


 ニニギなんて少し涙ぐんでいる。大広間に下りるとドウシン様はいつもの糸目で「どうやった~」と声を掛けてきた。


「ドウシン様! ありがとうございます!」

「あ~良かった良かった。やっぱり一晩で上手くいったみたいやな~」

「神の姿で自由に衣装を着られる日が本当に来るなんて!」

「うんうん。とりあえずその状態で、気長にコントロールできるようになってったらええよ~。解除はいつでもできるから~」


 ドウシン様ややはり良い神様のようだ。そして……何だか温かく居心地の良いその場所に、ニニギ同様私が加わるのも、そう時間は掛からなかった。

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