第10話 絶世の美女5

「はぁ~! 綺麗でしたねー!」

「うむ! 実に素晴らしかった! な、ドウシン!」


 振り返ると彼は一瞬驚いたあと、とても優しい表情をしていた。


「うん、ほんま綺麗やったな~」

 

 そしてお祭りも終わりそろそろ帰ろうかというときだ。


「コノハナサクヤちゃん、うち来る~?」


 ドウシンはサーちゃんを彼の住処である神殿に誘っていた。


「えっ?」

「お泊りしにきたら? アマテラスちゃんと一緒にごろごろ部屋でごろごろしたらええよ~」

「ご、ごろごろ部屋?」

「うむ! それは良い! ごろごろ部屋のクッションはとても気持ちが良いぞ! サーちゃんもごろごろしよう!」


 寂しさのような感情を抱いていた我は一緒になって積極的に誘う。すると彼女の顔はみるみる嬉しそうに輝いていった。


「わぁー! 広いですねー!」

「サーちゃん! ここが客間だ! こっちが調理部屋でこっちが大広間。上に我の部屋やドウシンの部屋、屋上もあるぞ! ……そしてここが、ごろごろ部屋だ!」


 意気揚々と案内すると、サーちゃんもドウシンもなぜかくすくす笑っている。


「じゃあ僕は部屋戻ってるからなんかあったら声掛けてな~」


 ごろごろ部屋に到着したところで、ドウシンは気を利かせたのか自室に戻って行った。


「ふふ」

「どうした?」

「いえ、何だか温かくていいな~と思って。アーちゃんとドウシン様は仲良しなんですね」

「……ん?」

「アーちゃん?」

「あ、すまぬ。そんなこと考えたこともなかったからな。我とドウシンって仲良しなのか?」

「あらあら。そう思いますよ~」

「そう……なのか? うーむ、いや、そういうのじゃないと思うぞ。だって我はドウシンのキョンシーだからな。関係性で言うと、ドウシンは我の主だ」

「えっ? キョ、キョンシーですか? ……アーちゃん生きてますよね!?」


 サーちゃんはなぜかとても深刻そうな顔をしている。


「うむ。神に死という概念はないからな。だから地上のいうキョンシーとはまたちょっと違うのだろうな」

「そ、そんな他人事みたいに。何か嫌なことさせられたりとかしてませんっ?」

「ああ、命じられているのは仕事をするなとか、ゲームは一日三時間までとかだな」

「そう……ですか」

 

 ***


 その夜更けた頃。ドウシンの部屋の前で、コノハナサクヤは固唾を呑んでいた。


「ああ、コノハナサクヤちゃんやな。どうぞ入ってや~」 

「夜遅くにすみません。……あの、ドウシン様」

「ええよ。どうしたん?」

「あの……アーちゃんをキョンシーにしてるって、一体どういう目的なんですか?」

「……ああ、アマテラスちゃんから聞いたんやな。目的、か。うーん。まぁ僕がアマテラスちゃんをコントロールするためやけど」

「ど、どうしてですか!」

「えっと、そうやな~。僕の言う事聞いてもらうためかな~」


 コノハナサクヤは警戒を強める。

 ドウシンが彼女を見ていたあの慈しむような目が演技とは思えなかったし、悪用する目的とはどうしても思えない……思いたくない。花火のときだって、彼は空を見ずに大喜びの彼女ばかり見ていたのだ。それなのに今はそんなことを言う。……こうなったら実際に確かめるしかない!


「ドウシン様、私もキョンシーにして下さい!」

「……え? えっと、それってもしかして……」 


 コノハナサクヤは再び固唾を呑む。ここで万が一悪い本性が出るようなら、何としても自分がアマテラスを助けなければならないからだ。


「絶世の美女って言ってしまうん直したいん?」

「……え?」

「え? 違う?」


 ……つまり、やっぱりそういうことなんじゃないかとコノハナサクヤは安堵する。命じられている内容から予想はしていたが、やはり彼女を案じてのことだ。


「いいえ、違いません! これからよろしくお願いします、ドウシン様!」

「うん、ええよ~。よろしくな~」


 こうして、神殿に住まうキョンシー仲間は一柱増えたのだった。

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