第9話 絶世の美女4

 色々見て回っていたが、何やら色んな商品が並んだ屋台の前でサーちゃんのテンションがあからさまに上がった。


「あ! あれはっ! 今絶大的に人気のキャラクター『桜もちはん』ではないですか!」


 視線の先を見ると先ほど食べた桜餅にそっくりな、しかしよこしまなことを考えていそうな顔のついたぬいぐるみが置かれていた。大きさも柴犬くらいある。これが絶大的に人気なのか。人間とは実に不思議だ。そしてサーちゃんも不思議だ。


「私、あれ取ります!」


 意気込む彼女は銃を構えた。


「ど、どうしたのだ!」


 声にならない驚きで固まっていると、ドウシンがすかさず解説を入れてくれる。


「あれは射的って言うねん。もちろん本物の銃ちゃうで~。おもちゃ、おもちゃ。あれで欲しいもん落としたら、貰えるって遊びやねん」

「ふー。そうだったのか」


 急に銃なんて構えたから気を揉んだが、それなら安心だ。だが説明を受け終わったころには、さっきまで意気込んでいたサーちゃんはうな垂れていた。どうやらダメだったようだ。

 ……よし、我が一肌脱ぐとしよう。正直桜もちはんの魅力はよく分からないが、他ならぬサーちゃんのためだ!


 ……。

 寸刻後、うなだれる神が二柱に増えたのだった。


「あはは、取れたで~。はい、コノハナサクヤちゃん」


 直後、ドウシンはいとも簡単に桜もちはんをゲットしていた。


「きゃー! ありがとうございます!」


 桜もちはんを渡されたサーちゃんは感無量といった表情だ。よっぽどこの邪な顔のキャラクターが好きらしい。……不思議だ。


「さ、アマテラスちゃんは何欲しい?」

「え? 我もか?」

「もちろん」


 取れないという選択肢がないところは彼らしい。


「えっと、じゃああれ」


 我は「デンジャラスカート」と書かれたゲームソフトを指し示す。おじさんが車に乗っているイラストを見る限り、車を操作するゲームなのだろう。


「オッケー任せてな~」


 そう言いながらもう命中させ落としていた。……なぜ大して狙ってもいないのに当たるのだ。


「ありがとう」

「ええよええよ~」


 貰ったソフト裏の説明を読むと、対戦できると書かれている。


「ドウシン……今度一緒にしてくれるか?」

「もちろんやで~」


 ***

 

「この桜の上から見るのが一番きれいに見えるんです!」


 お祭りも終盤に近付いてきた頃、サーちゃんが花火用に穴場スポットへと連れて来てくれた。祭り会場から少しだけ離れたその場所は、人の姿では行くのは大変そうだったので神の姿に戻る。


「サーちゃんは詳しいんだな」

「ここは私の庭ですよ~」


 彼女は得意げにえっへんとドヤ顔している。

 我らはひと際大きな桜の枝に腰かけ、その瞬間を待つ。桜の中から見る空の花とはなんとも贅沢だ。

 辺りは程よい静けさに包まれ、少し冷たいが心地良い風が吹き抜けていた。

 すーっと深呼吸すると気持ちいい。


 ――ヒュ~~~~、ドーン、パラパラパラ~。


 大きな音とともに夜の空に大輪の花が咲く。


「おお!」

「綺麗ですねー!」


 実に壮観だ。地上で見るとこんなに大きいのか!

 サーちゃんも桜もちはんくらいテンションが上がっている。


「あ! あれは三色団子です!」

「おお!」


 花以外の形も上がってきた。


「あれはりんご飴です!」

「おおお!」

「あれはお煎餅!」

「おおおお!」


 面白いが食べ物ばっかりだ。


「きゃー! あれは、桜もちはんではないですかっ!」


 出た! ここでもお目にかかることになった桜もちはんは、花火だと形が歪んで、邪さに拍車が掛かっている。サーちゃんのテンションは最高潮だ。少し離れた祭り会場からも今までで一番の歓声が上がっている。

 本当に人気なんだな。不思議だ。……そこからはもう桜もちはんの連発だった。

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