第8話 絶世の美女3

「実は今日この辺りで夜桜を楽しむお祭りが開かれるのですが、アーちゃんとドウシンさんも一緒に楽しみませんか?」

「へ~。お祭りかぁ。ええな~」


 ドウシンは随分と乗り気だ。


「屋台も出ますし、花火もとってもキレイなんですよ!」


 サーちゃんの目もキラキラしている。我もわくわくしてきた。

 その後、暗くなったら開かれるというその祭りまでまだ時間があったので、サーちゃんに近くを案内してもらった。


 近くの池には紅白色の魚が泳いでおり、口をパクパクさせている。ちょっと顔が面白い。黄色い蝶がサーちゃんの頭にとまったときは髪飾りのように美しかった。

 天気が良かったので川のせせらぎが穏やかで心地よい――と思っていたら子供が喧嘩し始めてその声にかき消された。ぐぬぬ。

 しかし直後にはもう仲直りしている。いつしたんだ……不思議だ。

 そんな楽しい時間を過ごしていると、あっという間に時は流れ、辺りが暗くなってきた。


「そろそろですね。お祭りに行きましょう!」

「うむ!」

「はーい」


 我らは人の気配のない場所で地上でも視認される姿になった。お祭りはやはり見るだけではなくめいっぱい楽しまなくては! ということだ。

 全員やる気満々である。

 祭り会場に到着すると、辺りは活気に満ちていた。笛や太鼓の音が鳴り響き、屋台の明かりと提灯の明かりがにぎやかさを加速させている。しかしなんだろう、妙に視線を感じる。祭りに来ている人々が皆みな一様にこっちを見てくるのだ。

 そしてふと、ドウシンとサーちゃんに目をやると理由が分かった。


 ――も・の・す・ご・く、目立っている。

 我はまだこの辺りの人間たちと似た容姿をしているが、ドウシンは白金色の髪にこの辺りではめずらしい長身。しかも容姿端麗だ。サーちゃんに至っては淡い桜色の髪に絶世の美女ときた。……注目されないわけがない。


「ここらじゃ見ないね~、異国の人かい?」


 いか焼き屋の店主が話し掛けてきた。我はあわあわするが、旅慣れしているドウシンは冷静なものだ。


「そんなとこです~。ここはええとこですね~」

「おお! 言葉上手だね~! そうだろ! 俺たちの自慢の場所さね~」


 店主は上機嫌だ。


「よし! いか焼きサービスしてやるよ! まずは褒め上手のあんちゃん、で、可愛い嬢ちゃん! それから……美しいお嬢さんに」


 ……最後だけ声が男前になっている店主に若干目を細める。分かりやすくサーちゃんのいか焼きだけ大盛りだった。

 いか焼き屋を後にしてもすぐ次の屋台に捕まった。そしてその焼きトウモロコシ屋も、ここも同じサーちゃん狙い。その次のわたがし屋のその次のラムネ屋もそうだった。次の団子屋は……ドウシン狙いだった。

 さすがにもう持ちきれないため、我らは階段に腰を落ち着け一息つく。人気者のお陰でいっぱい貰ってしまった。冷めてしまう前に頂こう。


「うむ、おいしい!」


 いか焼きとやら、実に濃い味で美味である。


「ふふ、良かったです! いか焼きってこの甘辛いソースの味がクセになりますよね! 私も随分と久しぶりに食べました!」


 サーちゃんも満足そうだ。


「ほんまや~おいしいな~。これは初めて食べたわ~」


 そう言ってドウシンはニコニコしながら持っていたハンカチで我の口を拭う。どうやらソースが付いていたらしい。


「む、すまぬ……」

「ええよええよ~」


 ここ数日で分かったが、彼は実に面倒見が良い。キョンシーとして使役される側だというのにこれではお世話されているようで調子が狂う。


 とにかく焼きトウモロコシも香ばしい味わいでおいしかったし、わたがしは桃のケーキよりも甘く、口に入れると一瞬で消えた。ラムネはシュワシュワと口内を刺激し、なんとも奇怪な飲み物だった。団子屋では団子ではなく桜餅を貰ったのだが、甘い餡子がもちっとした桜色の生地に包まれ、その周りを塩味の効いた桜の葉が覆っていた。実に美味だったが、我は葉は無くてもいいな、なんて思ったのだった。


 そしてひとしきり食べつくし、身軽になったところで先ほどの店主たちに再び礼を言いに行った後、別の屋台を見て回る。くるくる回る風車(かざぐるま)、金魚すくい、飴細工、見たことのないものでいっぱいだ。しかし金魚を取るために和紙で追い掛け回すこの金魚すくいというものは、一体何が面白いのだ? 人間とは不思議だ。

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