第5話 天照らす神5
「よし、じゃあ次は『ゲーム』で遊ぼ!」
「げえむ?」
けん玉とかコマ回しとかだろうか。
「あ、やっぱり初やな? ゲームって言っても今日するんはテレビゲームってやつでな、地上で流行ってて~、色々種類あるんやけど、取り敢あえずこのブロック並べて消していくやつしよう!」
……てれびげえむ? 最近の地上で出て来たものだろうか。地上はすぐに多くが移ろうから覚えきれない。
「これをここにセットしてっと、よしっ、このコントローラー持って?」
何やら様々なボタンのついたコントローラーなるものを渡された。それは彼に促うながされるがまま両手で持つと安定して持ちやすくなった。
「この画面見とったら色んな形のブロックが落ちてくるから、このボタン押してブロックの向きとか変えて並べていくねん。そんで、列が揃ったら消えるんやけど、上手くできひんくて上まで積み重なってしもたら負けやねん。ま、百聞は一見に如しかず、取り敢えずやってみよ~」
軽く説明を受け、早速実践してみることに。ドウシンとの対決という形だ。
「むむむ」
しかしこれが単純に見えてなかなかに難しい。そして案外奥深く、中毒性がある。つまり何が言いたいかと言うと……楽しいっ!
「ドウシン! もう一回!」
「ええよ~」
それから何度かもう一回を繰り返し、少し集中力が切れてきた頃だ。
「ふ~。そろそろ休憩しよっか。朝言ってた桃のケーキ食べよ」
そうだ、ゲームに夢中になりすぎて忘れていたが、ケーキが待っているのだった!
「じゃあ庭で食べよっか」
ドウシンはクスクス笑いながらしばらく歩き、我らは庭の休憩スペースの椅子に腰かける。そして目の前のテーブルに約束通り桃のケーキは創造された。
「おおお!」
柔らかそうな生地は白いクリームで着飾られ、上にはつやつやの桃が惜しげもなくたっぷり乗せられている。なんと美しい光景に、甘い香りなのだ。
「飲み物は、温かいアッサムティーにしよう。クセが少なくて口当たりもええからきっとこのケーキに合うで~」
今度は白く装飾の控え目なティーポットとカップが出てきて、カップにティーが注がれる。うーん、なんとも落ち着く良い香りだ。
「おまちどうさま。じゃあ食べよっか」
我はそれにかぶりつく。
――な、なんだこれは! 口いっぱいに広がるこの感覚は! ティーも合う!
口はもう、止まらなかった。またもやお気に入りが増えてしまったようだ。
庭から神殿内に戻ってくると、ドウシンとともに正面の扉から大広間を越えた少し先の部屋まで進む。そこには寝台より少しだけ小さいクッションがいくつか置かれていた。クッションにしては大きく、ドウシンが寝そべってもまだ余裕のある。
同じく寝そべり天井に目をやると空が見えた。だが変わっている。その空には魚が泳いでいるのだ。……綺麗だ。
「おやつも食べたし、後はもうごろごろして過ごそ~」
……ごろごろ?
「ごろごろとはなんだ」
「ごろごろはな~、寝っ転がってぼーっとしたり、ダラダラするんや~。息抜き、息抜き~」
そう言ってドウシンは見本を見せるかのように仰向けでクッションにダイブした。
「このごろごろがな~、大事なんやで~」
ほぅ、ごろごろは大事なのか。
我は隣の巨大クッションにダイブする。……なんだこの起き上がる気力を奪う感触は。
「この部屋はな~、僕が見てきたお気に入りの景色が見れるようになってんねん~。実際の空も見れるし、映画観たり、音楽聞いたりもできるんやで~。ごろごろ部屋と命名しとくわ~。自由に使ってな~」
そう言うドウシンは力がぐでぇ~っと抜けている。ふむ、これがごろごろか。
我もぐでぇ~っと力を抜いて、再びぼ~っと天井を眺める。先ほどと同じく魚がゆっくり泳いでいる。つまりこれは空の映る水面に魚が泳いでいたのを見たのだろう。
……地上とは思った以上に面白く、美しいのかもしれない。今まで仕事ばかりであまり興味を持っていなかったが、興味が湧いてきた。
「地上か……行ってみたいな」
するとドウシンはガバッと上半身を起こすと、随分嬉しそうに微笑んできた。
「うん、行こう!」
***
数日後、我の体力がかなり回復してきたこともあって約束通り地上へ行くこととなった。だが身長を変化させる術に関してはまだ許可が下りない。慢性的な疲労状態が改善しないことには教えられないと言われてしまった……くそぅ。
「地上ってひとくちに言ってもかなり広いから、ある程度行きたいとこ絞ろっか」
そう言ってドウシンは地上の旅パンフレットなるものを見せてきた。実に用意が良い。
「あ、ここはコアラとかカンガルーとかおるとこやな~」
「ここは辛い料理食べれるで~。口から火出るかと思たわ~」「ここは開放的で陽気な人間が多かったな~」
「ここめっちゃ寒い。雪めっちゃ積もってる。地面凍ってるで」
ページをめくるたびにドウシンの感想が増えていく。どのページでも感想が途切れることは無く、地上へ行くのが好きだというのは本当のようだった。
「あ、ここは、季節によってかなり表情が変わるとこやな~。今の時期やったら桜がきれいなんちゃうかな~」
……桜か。上からだけだが何度か見たことがある。雲のようにふわふわしているが、その色は淡く赤みがかっていたように記憶している。
「見てみたいな」
ぽつりとつぶやいた言葉を彼は聞き逃さない。
「よし、じゃあ今回はここに行こか! お花見しよう~」
こうして私とドウシンによる地上への遠足地が決定したのだった。
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