第12話 初めて授業をサボった

 忌引の期間も過ぎ、体調もすっかり回復した私に学校に行く以外の選択肢は無かった。他に行く宛ても無く、私には音楽しか無い。ヴァイオリンケースと鞄を持って家を出た。

 「……行ってきます」

 幾分か綺麗になった玄関を振り返る。しかし相変わらず真っ暗で、誰の気配もしない。帰ってくる者は私しかいない。学校に行きたくなかった。誰の顔も見たくなかった。

 「おい、女帝だぜ」

 私が校門に差し掛かると、またひそひそ話が聞こえる。

 「聞いた? あの試験の演奏」

 「酷いよな、せっかくの選抜オケなのに」

 「学長の娘だからって素人に指揮振らせないでよ。他にもオケの指揮したい人たくさんいるのに」

 「そもそもあのオケの連中自体お情け集団なんじゃねぇの? 選抜に入るほどの実力じゃねぇって」

 「もうヴァイオリン弾けないくせに。さっさと辞めたら?」

 クスクス。クスクス。嘲笑が耳に突き刺さる。誰もが遠巻きに見る中、私は黙って進んだ。鞄の持ち手を手袋越しに握る。心なしか早足になる。

 ────うるさい。

 ────うるさいうるさいうるさい。

 彼らを振り切るように先を急ぐ。しかしどこまで進んでも、いつまでたっても、ずっと嘲笑が後を追ってきた。陰口言ってる暇があるなら練習すればいいのに。心の中で必死に彼らを見下そうとするけれど、それでも確実に私は傷ついている。

 私はこの日、初めて授業をサボった。

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