第68話
「レベッカ…!!!」
ラクスはただただ夢中で駆け出し、屋敷を飛び出して走り始める。
その表情には一切の安堵感も落ち着きもなく、ただただ必死にセシリアの事を見つけ出すという表情のみで満たされた。
というのもラクスは、セシリアの残したあの手紙から、これから彼女がどこでなにをしようとしているのか、うすうすではあるがその気持ちを察していた。
「(ここからいなくなったレベッカ、最初は王宮に戻るものだとばかり思っていた…。しかし、あの手紙にはグローリアとクライスにも別れの言葉が添えられ、これから会いに行く人間への言葉ではなかった。その文面から考えて、彼女が経った今王宮を目指して歩いているとは考え難い…)」
まず1か所、次に1か所と、セシリアが向かいそうで心当たりのある場所をしらみつぶしに探して回っていくラクス。
しかし、行けども行けどもそこにはセシリアはおらず、その痕跡さえもなかった。
そしてそれらの事実が少しずつ、ラクスの心を着実に苦しめていく。
「(おそらくレベッカは、今回の一件のすべてが自分のせいだと思っている…。そして同時に彼女は、その責任を果たさなければならないと思っているに違いない…。であるなら、これから彼女が何をしようとしているのか、それを阻止するにはもはや一刻の猶予も…)」
セシリアの心を考えれば考えるほど、なんの手掛かりも持ち合わせない自分の事を強く呪うラクス。
「(くそ…!こんな時、グローリアやクライスだったなら、すぐにレベッカの事を見つけ出せるのだろうか…?俺にはなにもできないのか…?やはりあいつらほどの能力の高さがなければ、レベッカの事を守り抜くことはできないというのか…?)」
ラクスはその心の中を焦りで満たしていくが、焦りの気持ちから得られることなどなにもありはしない。
むしろ今以上に自分の心を苦しめるだけであり、ラクスは自身の手で頭をかき、その感情を大いにかき乱していた。
「(どうする…!このままではレベッカの事を見つけることなど…)…どふぁっ!!!!!!!」
するとその時、ラクスは突然の自身の背後から大きな衝撃を受け、そのままその体を地に伏せ倒されてしまう。
「だ、だれだ!!!……???」
ただでさえ感情をかき乱していたところに、後ろからもたらされた突然の衝撃。
ラクスは大きな声を上げながらその場を立ち上がり、自分の背後にいる人物をその目でとらえにかかる。
しかし、顔を向けた先にはひとりの人間もいなかった。
そこにいたのは…。
「マルン…。な、なんでお前がここに…」
そこにいたのは、クライスがラクスを屋敷まで送り届けるために貸し出していた、馬のマルンであった。
屋敷に戻るという任務を果たしたのち、マルンは食事や水を与えられて手厚くもてなされていたのだったが、いつの間にか屋敷を抜け出し、こうしてラクスの事を追いかけてきてしまったらしい。
「お、おいおいどうしたっていうんだマルン。今はお前に構って遊んでいる暇はないんだ!今レベッカがいなくなってしまって、俺たちはそれを探すべく必死に……」
マルンに抗議の声を上げるラクスだったものの、次第にその語気を弱めていく。
というのも、マルンはただ遊びたくてここに来たわけではなさそうな雰囲気を醸し出し、その事をラクスは読み取って見せたためだ。
そのままマルンはラクスに向けてなにやらジェスチャーを行い、自分の考えを彼に伝えようと試みる。
「な、なんだ…?自分もレベ……セシリアの事を探したいって言ってるのか…?」
「……!!」
マルンはその首を強く縦に振り、自分の思いをラクスにはっきりと伝える。
そしてそれにとどまらず、マルンはそのまま続けてラクスにジェスチャーを行い、自分の真意を伝えようと必死になる。
「お前まさか…。セシリアの居場所が分かるって言いたいのか?俺の事をそこまで案内してやるって…?」
「……!!」
ラクスの言葉に対し、マルンは再び自身の首を激しく縦に振って答えた。
どうやらその思いは、はっきりとラクスに伝わった様子。
「ほ、ほんとにわかるのか!?お前人間のにおいか何かがわかるのか!?」
「♪♪♪」
その言葉を聞いて、ややどこか少しだけ得意げな表情を浮かべるマルン。
彼らの間で言葉が伝わっているのかは謎であるが、少なくとも互いの思いははっきりと理解しあえている様子…。
「それじゃあ決まりだ!マルン!早速このままセシリアの所まで向かってくれ!」
「!!!!」
ラクスは慣れた手つきでマルンの上にまたがると、そのままその場から彼を出発させた。
マルンはどこか本能のままに大地を駆け出し、自分が確信する彼女のいる場所を目指して突き進んでいく。
その馬上でマルンの様子を観察しながら、ラクスはその心の中にこう言葉をつぶやいた。
「(きっとこのマルン、過去にレベッカに会ったことがあるんだろうな…。その時に覚えたにおいを頼りに、こうして突き進んでいるのだろう。レベッカ、やはり君は誰からも愛される存在なのだ。それはもう動物たちからさえも…。だからこそ、俺は君の事を絶対に見つけ出して見せる…!このまま終わりになんて、絶対にさせてたまるか…!)」
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