第65話
「さて、まずセシリアとの出会いについて話してもらおうか」
グローリアから発せられた最初の問いかけ、それに答えたのはリーゲルだった。
「はい…。戦いが激化する中、次第に戦況が悪化していき、私が仕えていた王の敗戦が濃厚となっていっていた時の事です…。私は連戦連敗のイライラを心の中に抱え続け、なにかに当たってストレスを解消したく思っていました…。その時、あの花畑でセシリア様を見つけたのです…。毎日にイライラを感じ、全く戦利品も獲られていなかった俺にしてみれば、これは俺に神様がくれた戦利品だと思い、俺はそのまま彼女を連れ去ることにしました…」
「ほう。それで?」
「最初は売っぱらうつもりだったのですが、いっそのこと自分のもとに置いておいてタダ働きの使用人をさせる方が都合がいいのではないかと思い…そのまま、家に置くこととしました…」
もはや観念した様子のリーゲルは、自分が覚えている限りの事を素直に話していく。
「あ、あまり水も食事も与えず…。イライラすることがあれば彼女に手を上げて、私はストレスを解消していました…。これは良い拾い物をしたと、そう思いました…」
「…」
グローリアはただ黙ってリーゲルの言葉を聞いているが、その表情が非常に険しく、どこか殺気を放っているように感じ取れる…。
「そんな生活が続いていた中、私はここにいるセレスティンと出会い、そのまま結ばれました…」
「そこでようやく4人が集まったという事だな。それで、それからの生活は?」
グローリアから投げかけられたその質問に、今度は変わってセレスティンが応え始める。
「ひ、控えめに言っても…虐待と言われても仕方のない行為を繰り返していました
…。このリーゲルがよく手を上げて暴力的にいじめていたのに対し、私とマイアは一緒になって精神的に彼女の事を攻撃していました…」
「…それで、その生活が変わるきっかけなどは何もなかったのか?」
「なかったです…。私もセレスティンもマイアも、一度始めてしまったそれらの行為を改めるチャンスはなく、結果的にその生活が変化をするきっかけなどなにも…」
「そ、それは嘘です!!」
その時、マイアが大きな声でリーゲルの言葉を遮った。
「それは嘘です!私は見てました!家の近くに住む人たちが、セシリアお姉様がいめられているんじゃないかって疑問を抱いていた時があったのです!なのにお父様はあえてお姉様を連れ出して嫌な態度を演じさせて、周りの人たちにあたかもお姉様の性格が悪いことからくる自業自得かのように偽装していました!」
「お、おいマイアっ!!!」
予想外のマイアの密告を受け、反射的に言葉を発してしまうリーゲルだったものの、もはやそれを止めることなど今の彼にできるはずもない。
「わ、私はずっと胸が痛かったのですが、お父様がどうしてもそれをするというので…無理矢理に協力をさせられました…」
「ふ、ふざけるなマイア!お前だって乗り気で一緒になってやっていたではないか!それを今更全部俺だけのせいにするなんて、一体どういうつもりだ!」
「私は本当の事をグローリア様にお伝えしてるだけ!お父様には関係ないでしょ!」
「お前たち黙れ!!!!!!」
「「っ!!」」
すさまじい高圧的なオーラを放ちながら、グローリアが大きな声で2人の声を制する。
「マイア、それ以降のセシリアはどのような状態だったのか、話してみよ」
「はい…。あまり食べ物も与えられていなかったお姉様は、どんどんやせ細っていきました…。でもそれはお姉様の自業自得なのだと周囲の人からも思われ始めていって、いよいよお姉様の居場所はなくなっていったように思います…。そんな時、お父様がお姉様にこう言ったのです。もう好きにしろ、ここから出ていけ、と…」
「ほう…。セレスティンよ、それについてはどう思う?」
「はい…。たぶんこの人は、一時的にセシリア様が出ていったとしてもすぐにねを上げて戻ってくると思っていたんだと思います…。でも、待てども待てどもセシリア様は戻ってこなくて…。その事を私たちが聞いたら、どうせそのあたりで野垂れ死んだのだろうと…。だから何も心配する必要はない、と…」
「お、お前たち…どこまでもいい加減なことを…!」
マイアとセレスティンの言葉を聞き、なぜかその心の中に怒りの感情を煮えたぎらせるリーゲル。
もともとはすべて自分から始まっているという事を、どこか失念してしまっているような様子だった。
「なるほど、よくわかった。セシリア本人の証言とそれぞれの話を照らし合わせ、事実であるかどうかの検証をするとしよう」
グローリアは3人に対し、冷静な口調でそう言い放った。
…しかしその後、恐ろしいほど低い口調でこう言葉を付け加えた。
「お前たちに対する処分は追って伝える。…もっとも、ここにいる誰一人も無事では済まないだろうがな…」
「「っ!?!?」」
意味深なグローリアのその言葉に何か反論したげな3人だったが、それは許されなかった。
次の瞬間にはグローリアの合図とともに、王宮に仕える近衛兵たちが現れ、即座に口をふさがれたのちに3人をこの場から連れ出していったためだ。
…静かになった部屋の中に一人残される形となったグローリアは、その心の中に達成感を抱きながら、こう言葉をつぶやいた。
「(セシリア、もう終わる…。君に悲劇をせをわせてしまった運命も、苦しい君の現実も…。これで、ようやく……)」
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