第56話
「ただいま、マルン!」
「マルン、待たせてすまなかったね。これはほんのお土産だよ」
急ぎマルンの元まで戻ってきた二人は、商店街で買ってきたお土産をそのままマルンに差し出した。
二人が買ってきたものは二つあり、一つが栄養満点の動物用ドリンク、もう一つはマルンの好物であるフルーツの盛り合わせだ。
「!!!ガブガァブガブッツ!!!」
「ぅわあっ!!」
マルンは袋に入ったフルーツが自分のものだと知るや否や、勢いよく自分の顔を袋の中に突っ込んでそれらをむしゃむしゃとむさぼり始める。
「だ、大丈夫だって!別になくなったりしないから!」
「フルーツに夢中になってるマルン、ほんとかわいい…!」
セシリアはマルンの背中を優しく撫で、その体をいたわる。
マルンもまたセシリアの手を心地よく感じているようで、全く不快感などを示すことはなかった。
出会ってまだ1日も経っていない関係ではあるものの、その間柄はもうすでに非常に深いものになっている様子だった。
「ほら、お飲み物もどうぞ!」
「♪」
一瞬のうちにお土産のフルーツを平らげた後、セシリアから差し出されたドリンクを嬉しそうに口にしていくマルン。
瞬く間にドリンクもまた空になり、それらを体に入れたマルンは非常に上機嫌な雰囲気を見せる。
「よかった!気に入ってくれたみたい!」
「(マルンがここまで機嫌を良くするなんて珍しい…。セシリアの事が相当気に入ったみたいだ)」
短い時間でかなり距離を縮めている彼女たちに驚きを感じるクラインだったものの、マルンがすべてのお土産を平らげたところを確認した後、冷静な口調でこう言葉を発した。
「さぁ、暗くなる前に王宮に戻ろう。ここで帰りが遅くなったりしたらそれこそ今までの頑張りが無駄になっちゃう」
「そ、そうだね…!」
クラインは慣れた手つきでマルンを出発させる準備を整えると、来た時と同じく自分の後ろにセシリアを乗せ、そのまま王宮を目指して駆けだしたのだった。
「落ちないようにしっかりつかまっててよ!」
「分かってるよーー!!」
「いいかいセシリア、グローリア様はきっとまだ王宮にはお戻りになっていないはずだから、今日の事は僕たちだけの秘密だよ??」
「なんだか私たち、悪いことをしてるみたい!」
「えぇ!?悪いこと!?」
「大丈夫!絶対秘密にするから!!」
行きの時はマルンのスピードの前にびくびくしていたセシリアだったものの、帰りの時はかなり慣れてきたのか、そのスピードを心地よく感じていた。
彼女はそのスピードに振り落とされないよう、自身の両手をクラインの腰に回してつかまりながら、大きな声でこう言葉を続けた。
「クライン!今日はすっごく楽しかった!ありがとう!!」
「っ!!」
底なしの笑みを浮かべながらそう言葉を発するセシリアの姿に、クラインは言葉での返事をすることができなかったが、その代わり、その顔を恥ずかしそうにやや赤く染めていた。
――――
マルンを元いた馬小屋に戻し、計画通りに王宮に舞い戻ってくることに成功した二人。
あとは普段通りの生活に戻って溶け込むだけったものの、計画通りに事が進んだのはそこまでだった…。
「で、お前たち二人だけで街まで遊びに行った、と?」
「「……」」
…二人はたった今、グローリアの前で正座で詰められている。
命を懸け、敵対勢力との戦いを繰り返すグローリアの前では、どんな小細工も
「グ、グローリア様!!僕が勝手にセシリアを連れ出したのです!!悪いのは全部僕で」
「そ、それは違うのお父様!!クラインは私のわがままに付き合ってくれて」
「うるさーーーい!!お前たち自分が今どんな状況にいるのかちゃんと分っているのか!!下手をすれば大げさでなく、命さえ落とすかもしれない状況にあるんだぞ!!二人そろってしっかり反省しなさい!!!」
「「ご、ごめんなさい!!!!」」
…完全に、二人はグローリアに怒られた。
それはもう、完膚なきまでにと形容してもいいほどの怒られっぷりだった。
その後、かなりの時間をかけて二人はグローリアにこってり絞られたものの、最終的には二人ともグローリアからの許しを得ることができた。
どうしてグローリアは二人の事を許すこととしたのかというと…。
「…それで、街はどうだったのだ?楽しむことはできたか?」
「はい!!すっごく楽しかったです!!!」
「やれやれ…。まぁそれならば…」
それまで盛大に怒られていながらも、その話題になった途端に明るい表情を浮かべて見せるセシリア。
そんな彼女の姿を見せられては、これ以上何を言う必要もないと、グローリアはどこか苦笑いを浮かべながら感じたことだろう。
グローリアは最後、二人に対してこう言葉を発した。
「まぁいい。セシリア、今後お前がどれだけ遠いとことに言ったとしても、必ず私のもとに帰ってくるのだぞ?」
「はい!お父様!」
「クライン、そんなセシリアの事を、どこまでも守ってやってくれよ?」
「はい!!もちろんです!!」
最後にはどこか和やかな雰囲気に包まれる形で、今回の一件は無事に終わりを迎えたのだった。
――――
…
……
そんな記憶に導かれるように、私は少しづつ意識を体に戻していく。
夢の世界から現実の世界に感覚が戻っていくにつれ、今の自分が置かれている状況を少しづつ理解していく。
慣れ親しんだベッドの上に横たわっている感覚と、私に心の安堵感をもたらしてくれるこの天井の光景が目に入る。
「(…私、あれからどうなって…)」
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