第38話
ガッシャーーーン!!!!!
バリイィィィィンン!!!
毎日のように穏やかな雰囲気に包まれていた侯爵家には、全く似つかわしいような乱暴な物音が、屋敷の中に何度も何度も響き渡る。
「こ、ここにはほかに誰もいません!!ですのでもうこれ以上は」
「信じられないな。いいから邪魔をするなっ!!」
「ひぐっ!?!?」
侯爵家に仕える純粋な使用人が一人、また一人とその体を痛めつけられる。
そして部屋の中に押し入った兵たちは食器や書物、鏡から机に至るまで、ありとあらゆるものを端から端までひっくり返し、まるで宝探しでも行っているかのようなやり方で目的の物を探しにかかる。
「どこかに隠れているに決まっている!!グローリア様のためだ!必ず姫様を探し出せよ!!」
そんな兵たちを束ね、彼らを突き動かしているのは当然、ノルドであった。
ありもしないグローリアに対する忠誠心を盾にして、兵たちを強い言葉で強引に扇動する。
無駄に大きな声を上げて仲間の兵たちから罪悪感を取っ払い、彼らの背中を強く押して調査を続けさせる。
時間を経ずして、侯爵家屋敷の中はますます地獄絵図と化していく。
レベルクは自らの大切な屋敷が乱暴に破壊されていく様を横目に見つめながら、痛む体を背中合わせに壁に立てかけ、心の中でこうつぶやいた。
「(こ、こいつら…。まさか、ラクスをもうすでに…)」
「レベルク様!!!」
そんな彼のもとに、一人の女性が心から心配そうな表情を浮かべ、姿を現した。
「エ、エリカか…。レベッカはどうだ?無事に隠れているか?」
「はい、すべて私が見届けましたので、ご安心ください」
「ほっ…。そうか…」
この状況にあって、レベルクは少しだけ
彼にとっては、それが何よりも大事なことであった。
「…それよりレベルク様、ラクス様をご存じありませんか?どこにもお姿が…」
「……」
屋敷中を探したが、見つからなかった。
エリカがもたらしたその知らせは、ラクスがどうなっているかをレベルクに確信させるには十分なものだった。
「…おそらく、こいつらによって連行されたのだろう…」
「っ!?!?」
「行き場は……きっと、王宮だろうな…」
ラクスは王宮に連れていかれた。
それが何を意味するかという事は、当然エリカにも理解できた。
「そ、そんな…。そ、それじゃあラクスは……」
「……」
普段はいつも冷静で、その表情をあまり変化させることのないエリカ。
…そんな彼女が今、その両目にうっすらと涙を浮かべ、
「ラ、ラクスは……またここに帰ってきますよね…?」
「……」
「………ねぇ、か、帰ってくるって…」
「……」
レベルクはエリカの言葉には答えず、彼女から目をそらすように、自身の顔をゆっくりとその場に伏せた。
それは、ラクスの今後をエリカに絶望視させるには十分すぎるほどの姿だった…。
「…わ、私は諦めませんから…。ラ、ラクスは絶対に」「おいおいおい、何をあきらめないって???」
レベルクとエリカが小さな声で話をしていたその場に、一人の男が楽し気な表情で割って入ってくる。
他でもない、この惨状を引き起こした張本人であるノルドであった。
「二人だけで秘密のお話か?俺にも聞かせてくれよー♪」
「…」
「…」
わざと相手をイラつかせるような口調でそう言葉を放つノルドに対し、二人は何も言葉を返さない。
…するとノルドは、先ほどまでよりもやや口調を低くし、こう言葉をつづけた。
「…おいおい、勘違いされても困るな?俺は”お願い”してるわけじゃないんだぜ??」
「「っ!?!?!?」」
ノルドはそう言葉を放ちながらゆっくりとエリカの元まで歩み寄ると、彼女の髪の毛を乱暴に手で掴んで引っ張り上げた。
「ひぐっ!!??」
「お、お前何を…!!!」
苦悶の声を上げるエリカを見て、即座に立ち上がろうとするレベルクだったものの、先ほど痛めつけられた部分が彼の言葉を遮り、その姿勢を崩させる。
「おらおら、姫様は一体どこに隠してるんだ。さっさと言えって言ってるだろっ!!!」
バタン!!と大きな音とともに、エリカはその体を床に向けて投げつけられる。
その衝撃で、彼女が耳につけていたイヤリングがカランと床に落ち、ノルドの足元に転がった。
「…ったく、目障りな…」
イライラを隠せない様子のノルドは、足元に落ちた彼女のイヤリングを自身の右足で蹴り上げた。
イヤリングはそのまま高速で壁に向かって飛んでいき、ぶつかった衝撃でつなぎ目の部分が割れ、乾いた音を立てて床に散乱した。
…レベッカからプレゼントされたイヤリングの無残なその姿を目にして、エリカはその両目に涙をあふれさせ、出血してしまいそうな強さで歯をかみしめる。
同じくレベルクもまた、すさまじい殺気を孕んだ瞳でノルドの事を射抜く。
しかし当のノルドは、そんな雰囲気さえ楽しくて仕方がないといった表情を浮かべ、二人に対してこう言ってのけた。
「おー怖い怖い(笑)。ならもうかくれんぼはやめようぜ?俺だって好きでこんなことをやってるわけじゃないんだよ。わかるだろう?(笑)」
この場に限らず、屋敷のあちこちから大きな音や悲鳴が聞こえ続けている。
…屋敷の誰もが絶望し、この惨状がいったいいつまで続くのかに思われた、その時だった。
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