第37話
グローリアからの命を果たすのだと叫び、周囲を躍起にさせたノルドを先頭にして、ランハルト家の中に立ち入っていく近衛兵たち。
そんな彼らの前に最初に姿を現したのは、他でもないラクスの父であるレベルクであった。
「…我がランハルト家に土足で上がり込むとは、それなりの覚悟があってのことだろうな…?」
「うっ…!?」
すさまじい殺気を放つレベルクを前に、近衛兵たちはその心を震え上がらせる。
…今の彼は、ラクスやレベッカと接するときの穏やかな様子は全く感じさせず、それどころか人を殺すことさえためらわないようなオーラを放ち、その雰囲気は大いに相手を圧倒する。
「答えろ!お前たち誰の許しを得てこの場に足を踏み入れた!!」
「ひっ!?」
レベルクの放つすさまじい殺気を前にして、一歩、また一歩と近衛兵たちは後退していく。
そのまま放っておけばいずれ兵たちを追い返してしまいそうな流れでさえあったその時、震え上がる兵たちの隙間をぬい、得意げな表情を浮かべたノルドがレベルクの前の姿を現した。
勝利を確信している様子のノルドは、レベルクに対して全く恐怖を感じてはいない様で、不気味な笑みを浮かべたままこう言葉を発した。
「誰の許しもいらないだろう?お前たちは罪なき一人の少女を誘拐し、ここで監禁しているんだからな」
「っ!?」
ノルドの発したその言葉を聞いて、レベルクはようやく近衛兵たちがなんの名目をもってこの場に乗り込んできたのかを理解した。
…そして理解したと同時に、完全に間違った行動をとっている目の前の兵たちに対し、それまで以上にすさまじい殺気を放つ。
「今もその子はここにいるんだろう?きっとお前たちが毎日のように痛めつけているから、とても俺たちには見せられない姿をしている。だから俺たちに協力することを拒んでいる。違うか?♪」
完全に自分の思い通りに事が運んでいると確信しているノルドは、自信に満ちた表情を崩さないまま言葉を続ける。
「違うというのなら会わせてくれよ。ここに閉じ込められていることはもう分かってるんだ。直接見てみればわかることだろう?」
ノルドは言葉巧みにレベルクの事を挑発しにかかる。
しかしレベルクとて、ただの男ではない。
ノルドがその実何を狙いにしているのかということは、すでに理解していた。
「(…我々を挑発して、レベッカの事を自分たちの前に誘い出し、そのまま彼女を連れ去ってしまおうという
そう心の中で言葉をつぶやいたレベルクに対し、ノルドもまた自身の心の中でこう言葉をつぶやいていた。
「(よしよし、リーゲルと立てた計画通りに事が運んでいる。このままレベッカにかかわるすべての罪をこいつらに擦り付けることができれば、俺もあいつも王宮内で大出世を果たすことは間違いないだろう♪)」
王宮に仕える近衛兵でありながら、古い友人であるリーゲルと結託しているノルド。
一地方貴族を葬るという簡単な仕事をこなすだけで、王宮内でかなりの出世が期待できるぞというリーゲルからの誘いに乗る形で、彼は今回の計画を引き受けていた。
自分たちの計画の成功の時が刻一刻と近づいていることを確信している様子のノルドは、湧き上がるうれしそうな表情を隠すこともなく、レベルクに対してこう言葉を放った。
「さぁさぁ、そろそろ答えをいただきたいですねぇ。我々に協力して”彼女”の事を差し出すのか、それともあなた方はこのまま彼女と心中するのか♪」
変わらず挑発的な言葉を続けるノルドに対し、レベルクもまた普段と変わらぬ冷静な口調で言葉を返した。
「同じことを何度も言わせるな。お前たちのような連中に協力などできるか」
「そうか…。ならば仕方がないか…」
「……?」
レベルクの言葉を聞いたノルドは、ゆっくりと自身の足を進めていく。
…彼が向かった先には一人の使用人が立っていたが、あろうことか彼は突然にその使用人を手で殴りつけ、その使用人がそれまで背にしていた部屋の扉を自身の足で乱暴に開け放った。
「な、なんのつもりだ貴様っ!!」
自分の家族ともいえる使用人を突然に殴られ、レベルクはやや冷静さを欠いたように大きな声を上げた。
それに対してノルドは、へらへらと笑いながらこう言葉を返した…。
「俺の言うことを聞かないからこうなるんだよ。別にお前が協力しようがしなかろうが、どうだっていい。協力しないというのなら、俺たちはどんな手を使っても”例の女”を探し出すだけのことなんだからな♪」
「お、お前……」
「ククク…♪」
ノルドは仲間の近衛兵たちの方へと姿勢を翻すと、彼らを扇動するようにその口を開いた。
「これだけ協力を拒否してくるからには、間違いなくここに”例の女”はとらわれている!グローリア様のお考えは当たっていたというわけだ!ならばやることは一つしかない!グローリア様を一秒でも早く安心させるために、俺たちは彼女の事を救い出すのみだ!いいな!」
ノルドは狙って”グローリア”の名を何度も何度も上げた。
グローリアに対して尋常ではない忠誠心を抱いている近衛兵たちにとって、その演説は麻薬のように作用し、乱暴な手立てをとるノルドの事を強引に受け入れさせ、そのやり方こそが皇帝のためになるのだという思いを抱かせる。
ノルドのその言葉を合図にして、ついに近衛兵たちは本格的に屋敷への調査を開始することとなった。
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