第28話
リーゲルが謎の自信をその心に抱えていた一方、調査を終えて王宮に帰還したクラインは、早速得られた情報をグローリアに報告していた。
「グローリア様、ただいま戻りました」
「待っていたぞクライン!それで、セシリアは見つかったか!?」
グローリアは期待のまなざしで両目を輝かせ、クラインにそう言葉を投げかける。
それに対してクラインは、冷静な表情を変えずにこう答えた。
「いえ、見つけることはかないませんでした。しかし、多くの証拠を得ることはできました。やはり、我々の見立ては間違ってはいなかったようです」
今日にもセシリアに再会できるのではないかと期待していた様子のグローリアは、クラインからの報告を聞いて少し落胆した様子を見せる。
しかし、それも一瞬だけ。
彼はすぐに態度を持ち直すと、そのまま普段と変わらぬ威厳ある雰囲気でクラインに言葉を返した。
「それで、どんな結論が得られたのだ?」
「はい。各種得られた証言や状況証拠を合わせて考えますと、セシリア様が例の家で暮らしていたことはやはり間違いないと思われます」
クラインは自信をもってグローリアにそう進言した。
グローリアはシリアスな表情でその報告を聞くと、クラインに対してこう言葉を返した。
「セシリアが一緒に暮らしていたということは、その者たちは行く当てのなかったセシリアの事を救ってくれたということか?その者たちのおかげでセシリアが元気に、健康に生きることができたというのならば、その者たちにはそれ相応の礼をしなければならないが」
戦火のさなか、その者たちは自分の最愛の娘をかくまってくれていた。
それが事実であるなら、グローリアの考えは至極当然のものである。
当のセシリアの姿はまだ見つかっていないものの、ひとまず彼女は無事に生活できていたらしいということにどこかほっとした様子のグローリアだったが、クラインは神妙な表情でこう言った。
「…落ち着いてお聞きください、グローリア様。…おそらくセシリア様は、その家で非常に過酷な生活を強いられていたものと推測されるのです…」
先ほどまでと一転、グローリアの表情もまた神妙なものとなる。
「…一体どういうことだ?セシリアの身に何があったというんだ?」
かけられたその質問に対し、クラインは心の中に覚悟を決めると、自分が見てきたことのすべてをありのままグローリアに対して話し始めた。
――――
「…おそらく、そうではないかと思われます…」
「っ!!!!ふ、ふざけるなっ!!!!」
クラインからの報告を聞いたグローリアは、普段冷静な様子からは考えられないほどに言葉を荒げ、その体を震わせ、怒りの感情をあらわにしていた。
「わ、我が最愛の娘セシリアにそんな真似を…!!絶対に許すことなどできん!今すぐに私自らがしかるべき報いを受けさせ」
「グローリア様!!!」
剣を携え、今すぐにでも出撃しようとするグローリアの事を、クラインは体を張って制止した。
「セシリア様を見つけ出すことが第一です!!あんなろくでもない連中への天罰など、いつでも与えることができます!今は連中に構っている場合ではないのです!!」
「そこをどけクライン!!許せなどするものか!セシリアを苦しめ続けてきた者たちがすぐそこにいるというのに、見逃すことなどできるものか!!」
「落ち着いてくださいグローリア様!私に考えがあるのです!!」
「…か、考えだと??」
感情を高ぶらせるグローリアは、クラインの発した言葉に少しだけ心を落ち着かせると、そのまま彼の言葉を待った。
「あの家に調査に行ったとき、私はリーゲルにセシリア様がグローリア様の娘であることをちらつかせました。それを知ったリーゲルはその表情を凍り付かせ、かなり動揺している様子でした。…であるなら、彼は自分の身を守るためになにか動きを見せてくるはずです。我々はその後を追い、セシリア様の居場所に関する情報を掴むのです…!」
「……」
クラインの懸命な説得が効いたのか、グローリアは荒ぶらせていた感情を落ち着かせ、手に取った剣をゆっくりと元あった場所に戻した。
「…なるほど、あえて泳がせるということか。確かに、冷静に考えればその方が合理的な方法だ…。すまないクライン、つい熱くなってしまった…」
グローリアはクラインの顔を見ると、どこか申し訳なさそうな表情を浮かべながら、ゆっくりと元いた自身の椅子に腰かけた。
机の上に置かれていたコップを口元まで運んで喉を潤し、一度深呼吸をした後、落ち着いた声でクラインに対しこう言った。
「…クライン、セシリアは今どこで何をしていると思う?」
そう言葉を発したグローリアの表情を見て、それが心に抱く不安から出てきたものだろうとクラインは見抜いた。
彼はグローリアを安心させるかのように、冷静な口調でこう答えた。
「大丈夫です、彼女はきっと我々のすぐ近くにいるはずです。あとは我々が彼女を探し出し、ここに連れ戻すだけなのです」
「なら、どうして我が王宮に逃げ込んでこない?それが最も安全な方法だとは思わないか?」
「…きっと、自分から名乗りだせない何かの理由があるのでしょう…」
セシリアが自らその姿を現さない事に関して、クラインには心当たりがあった。
その過去を胸に秘めるクラインは、だからこそその心に一刻も早くセシリアを救い出したいという思いでいっぱいにしていた。
……その時だった。
「失礼します。グローリア様、怪しい人物が現れたのですが、いかがいたしましょう?」
「怪しい人物?一体誰だ?」
1人の使用人が持ち込んだその知らせ。
それだけならなんら驚くべきことなどありはしないものの、使用人が続けていった言葉の前に、二人はその心を驚きで満たす。
「はい。なんでもグローリア様に今すぐ伝えたいことがあると言っているのです。本人はリーゲルと名乗っているのですが…」
「「っ!?!?!?」」
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