第27話

引くに引けなくなったリーゲルは、かつての仲間たちを頼り、彼らをいつもの集会所に呼び出した。

人が集まるや否や、余裕のないリーゲルはすぐに本題を話し始める。


「なんでもいい!レベッカがどこでなにをしているか知っている奴はいないか!!」


声を荒げ、焦りさえ感じさせるような様子でそう言葉を発するリーゲル。

一方、なぜリーゲルがそこまで焦っているのか状況がさっぱりわからない彼の仲間たちは、どこか不思議そうな表情で彼に言葉を返した。


「…なんだなんだリーゲル。その女は死んだんだとお前が言ったんじゃないか」

「いなくなっても何ともないとか言ってなかったか?」

「そもそも、実の娘でも何でもないんだろ?だったら放っておけばいいじゃないか」


かけられたそれらの言葉はすべて、これまでにリーゲル自身が口にしてきたものだった。

ゆえに彼らからこのような反応をされることは当然と言えば当然なのだが、そんなこと考えてなどいられないリーゲルは、自分の身に起きたことをそのまま仲間たちに打ち明けることとした。


「…じ、実はだな、少し面倒なことになった…」



――――




「な、なんだって!?お前が拾った女が皇帝の一人娘だって!?」

「しかもその女を、皇帝に仕える近衛兵たちが自ら探しに来ただと!?やったじゃねえかリーゲル!!!」

「全くうらやましいぜ!使用人代わりに適当に拾った女が皇帝令嬢だったなんて!向こうからいったいどんなお礼をもらえるんだ!?金か!?土地か!?」

「おいおい、当然俺たちにも分けてくれるんだろうな?今日はそのための会合なんだろう??」

「…え、えっと…」


リーゲルの話を聞いた彼の仲間たちは、違った方向への盛り上がりを見せていた。

失踪していた皇帝令嬢をリーゲルがかくまい、助けていたのだと理解したのだ。

だからこそ皇帝からリーゲルになにか感謝の品が送られるに違いないと考え、仲間たちは色めき立っていたのだ。

…その中心にあって、さらなる焦燥感から体を震わせる人間がひとり…。


「(い、言えるはずがない…。その女を皇帝令嬢だと見抜けず、家族ぐるみでいじめぬいていたなど…。近衛兵が来たのは感謝を告げるためでなく、我々家族を疑い、調査をしに来たのだと…。下手をすればこれから先、家族全員がどんな罰を与えられるかわからないことなど…)」


…ぜったに言えない思いを胸に秘め、リーゲルは呼吸を整え、改めて仲間に向け言葉を発した。


「そ、その通りだお前たち!だから、レベッカがどこに消えたのかを俺も調べているんだ!このまま何事もなくレベッカが消えてしまったら、俺がレベッカをかくまっていた事実は証明できず、ゆえに俺への感謝の品は送られなくなってしまう!だから俺はどうしてもレベッカの後を追わなければならないんだ!何か知っている奴はいないか!」


リーゲルは、自分自身でも震え上がりそうになるほどのハッタリをかまして見せた。

仮にレベッカの姿が見つかったとして、皇帝からリーゲルへ感謝の品など送られようはずがない。

しかし、この状況から皇帝をだまし、自分たちの勝利を勝ち取るためには、リーゲルにしてみればこれしかないという状況であった…。


「(…あのガキの様子からして、あいつらもまだレベッカの事を見つけられてはいないのだろう。奴らよりも先にレベッカを見つけて、きちんと記憶を修正してやらなければならない。レベッカは俺に拾われて人生を救われ、セレスティンやマイアからも多大な愛情を受け、4人は実の家族のような理想的な関係であったとあいつの口から証言させるんだ…。そうすれば皇帝や近衛兵たちも俺たちの言うことを信じ、俺たちの罪はすべてなかったことになる…。少なくとも、連中に先にレベッカを見つけられることだけは阻止しなければ…)」


…この期に及んで、まだレベッカを痛めつけることを考えている様子のリーゲル。

彼の頭の中には、レベッカにこれまでの自分たちの行いを謝罪をして許しを請うという選択など、一切ありはしない様子だった。

そしてその時、色めき立つ仲間たちの中から、1人の男がリーゲルに対し、こう言葉を発した。


「いなくなったことと関係あるかどうかはわからないが、前に一度だけ外でレベッカから声をかけられたことがあったぞ。教会?の場所を知っているかどうか聞かれたが、ありゃなんだったんだろうなぁ…」

「…教会?」


”教会”という単語を聞き、リーゲルはその頭の中で思いつく限りの検索を行う。


「(…教会、か…。考えてもいなかったが、レベッカが逃げ込む先としては有力候補なのか?だが、ここから歩いてあの教会まで行くとなると、正直現実的じゃない。体の細いあいつじゃ絶対に不可能だ。…となれば、その過程で力尽きて、どこかの金持ちにでも拾われた可能性が高くなるのか…?)」


腕を組み、可能か限りの推測を行っていくリーゲル。

教会を目指して家出したという現実的な可能性を前に、彼は先ほどまで抱えていた焦燥感を少し落ち着かせた様子。

そしてそんなリーゲルに対し、別の男が小さな声で耳打ちを行った。


「…お前に一つ、教えてやろう。ここから教会を目指す道中に、ランハルト家という侯爵家があるだろう?そこに最近、出自しゅつじ不明の女が招き入れられたという話だ」

「っ!?」


かけられたその情報は、リーゲルにとって願ってもないものであった。

しかし情報を提供した彼の仲間は、小さな声で警告も同時に行った。


「ただ、その女がいなくなったレベッカだという確証はない。あくまで可能性の話だ」

「…いや、十分だぜ」


リーゲルは小さな声でそう漏らすと、その心の中でこうつぶやいた。


「(…レベッカ、どうせ今頃は傷のないきれいな体をしているんだろうが、もう一度以前のような体に仕立て上げてやろうじゃないか…(笑))」

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