第23話

王宮がついに動き始めたことなどつゆ知らず、これまでと変わらぬ気ままな生活を送っている者がここにはいた。

どこかの集会所のような場所で酒を囲み、複数の男たちが会話に花を咲かせている。

そしてその中心にいるのは、ほかでもないリーゲルであった。


「おいおい、なにか新しい仕事はないのかよ。こうも不景気が続いたんじゃつまらないぜ」

「まぁまぁ、そう焦るなよ。うまい話なんざいずれ湧いて出てくるさ、昔みたいにな(笑)」


…その会話の内容は非常に怪しいものであるが、当人たちにそんな自覚は全くない様子。

そんな時、一人の男がリーゲルに向けてある疑問を投げかけた。


「おいおい、そういえば最近お前の娘を見てないな。…妹の方はよく見るんだが、もうひとりの……名前、なんて言ったっけ?」

「あぁ、確かレベッカとか言ってなかったか?言われて見れば俺も最近見てないな…。どうなんだよリーゲル、まさか売り飛ばしたんじゃないだろうな?(笑)」


下品な笑い声に包まれながら、男たちはそう言葉を発した。

それに対してリーゲルもまた、劣らないほど下品な笑い声を発しながら返事をした。


「あぁ、もっとはやくうっぱらうべきだったかもなぁ(笑)。なにせあいつ、自分のわがままが通らないことを根に持って勝手に家出していったんだよ(笑)。親である俺たちになんの感謝の言葉もなく、まったくこまったもんだぜ……」


リーゲルは得意げにそう言いながら、酒の入ったグラスを上機嫌に口に運ぶ。

いなくなったレベッカの事を心配する様子など、やはりかけらもないようだ。

しかしその時、疑問を投げかけた男が気になる言葉を口にした。


「そのレベッカを知らないかって、うちに聞き込みが来たんだよ。ありゃ何の騒ぎだ?」

「あぁ、その聞き込みならうちにも来たぜ。変なイラストを見せてきて、この女を知らないかってな」

「なんだ、その事か……」


リーゲルにとってそれらの言葉は、なんら驚くべきものではなかった。

なぜなら彼の家にもまた、同じ聞き込みが来ていたからだ。


「たぶん、出ていった後どこかで野垂れ死んだんじゃないか?で、その死体が誰かを調べるために、近くに住んでた人間に聞きこんで回ってたんだろう。まったく、暇な連中だぜ…」

「なんだ、そういうことかよ(笑)」


リーゲルの説明を聞いて、男たちはどこか安堵したような表情を浮かべる。


「聞き込みに来た連中、王宮に関係する人間の見てくれをしていたから、もしかしたらそのレベッカが王族に関係する人間なんじゃないかと思ったぜ…(笑)」

「あ、俺も思った!まさか王族の血を引く女だったんじゃないだろうかって(笑)」


どこかほっとしたような表情を浮かべながら、ある男がそう言った。

それに対してリーゲルは、どこかからかうかのように言葉を返す。


「レベッカが王族に関係する人間??そんなわけないだろ(笑)。あんなかわいげがなくてろくでもない女が本当に王族だったら、俺は全裸になって帝都のど真ん中で踊り狂ってやるよ(笑)」

「はっはっは!そうなったら仲間たち全員連れてその姿拝みに行ってやる(笑)」


…なにがそこまで面白いのかはわからないが、会場は再び下品な笑い声に包まれる。

独特な盛り上がりを見せるその雰囲気の中で、一人の男が冷静な口調で言葉を発した。


「…まぁ、せいぜい気を付けるんだなリーゲル。昔のよしみで教えてやるが、どうやら最近王宮でなにか妙な動きがあるって話だ。それがその娘にかかわる話かどうかは知らんが…」


シリアスな表情で、まるでなにかを警告するかのような様子でそう言葉を発した男に対し、リーゲルもまた同じような雰囲気で言葉を返す。


「ククク、できるものなら見せてみろと言いたいね。もとは捨て子だったあんな女が、王宮の助けなんて得られるはずがない。例え王宮に泣きつきに行ったところで、誰からも相手にされずに放り出されるのがオチだろうさ(笑)」


レベッカの事などなんとも思っていない様子で、けらけらと笑いながらそう言葉を発するリーゲル。

しかしその余裕の表情はその直後、鳴りを潜めることとなる…。


「お、おい!さっき王宮の近衛兵らしき連中がすぐ近くを通り過ぎていったぞ!!なにか事件でもあったんじゃないか!!」


一人の男が大慌てで集会所に駆け込み、集まっている男たちに向けてそう言葉を発した。

そして集まっている男たちの視線は、当然のようにリーゲルに向けられる。


「…リーゲル、一応急いで戻った方がいいんじゃないのか?後々面倒になるかもしれないぞ?」


さきほどリーゲルに対して警告を発した男が、再び続けて警告を発する。

それに対しリーゲルは不服そうな表情を浮かべていたものの、周囲の他の者たちからも同じ視線を向けられていることを察すると、やや機嫌を損ねながらこう言った。


「チッ…。めんどくせぇなぁ…。どうせ大したことにはならないだろうに…」


酒に酔っているからか、それともレベッカの事を心底見下しているからか、全くこの状況に緊張感をもっていないリーゲル。

彼はしぶしぶ二人のもとに戻る決意をしたようだが、その雰囲気はこの状況をまったく理解はしていなかった。



…そしてこの行動が、彼を破滅へと導く第一歩となるのだった…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る