第22話
――クラインの記憶――
あれからしばらくの間、僕たちは懸命に周囲を捜索し続けた。
しかし、その結果セシリアの姿が見つかりことはなく、むしろ調べれば調べるほどセシリアがどこかへと連れ去られた可能性は高くなる一方だった…。
あらゆる証拠が予感させる事実、それは……
「…セシリア…」
きっとセシリアは、どれだけ時間が過ぎても僕がここに来ることを信じ、待ち続けていたのだと思う。
…頭の切れる彼女なら、きっと気づいていたはずだ。
このままここに残り続けたなら、危険な目にあってしまうであろうということに…。
「…僕のせいだ…」
僕があんな約束さえしていなければ…。
自分の思いを彼女に告げたいなんて、思いあがったことをしたばかりに…。
…セシリアの事を守り抜くなんて息巻いておいて、むしろ彼女の事を危険にさらすことしかしていないじゃないか…。
…いったい僕は、なんのためにここに…
「クライン!!!」
「っ!?」
自分の中で葛藤を繰り広げていたその時、グローリア様からの大きな声で僕は意識を取り戻す。
「クライン、何か知っているのだろう?すべて話してくれるな?」
「…は、はい…」
隠すことでも、ごまかすことでもない。
すべては僕の身勝手な行動が招いた結果だ。
…真実を知ったグローリア様によって、僕はあらゆる信頼を失ってしまうかもしれない。
ここから追い出されてしまうかもしれない。
…いやそれどころか、もしかしたらこの命で罪を償わなければならないかもしれない。
けれど、僕の中にはもうすでにその覚悟は整っていた。
こんな役立たずな男は、いっそのこと消えてしまった方がいいのかもしれない。
だからこそ僕は、ありのままの事実をすべてグローリア様にお話しした。
――――
「そうか」
僕の話を聞いたグローリア様は、そうか、とだけ言葉を発した。
…どんなお怒りの言葉を言われることも覚悟していた僕にとって、グローリア様のそのリアクションは意外なものだった。
「…危険な場所と分かっていながらお前を待ち続けたとは、なんともセシリアらしいな…」
「グ、グローリア様…?」
そう言葉を発するグローリア様の雰囲気は、まるで魂を抜かれた人間のようなものだった。
今までグローリア様に仕え続けてきた僕だけれど、こんな雰囲気を見たことはこれまでに一度もない。
…だからこそ、グローリア様の心に深い傷を負わせてしまったことに僕は自分で自分に強い憤りを感じ、その感情のままにグローリア様に向けて言葉を発した。
「グローリア様!!僕に命じてください!!今すぐにセシリア様を探し出して来いと!!見つかるまでここに戻ってくるなと!!僕はもうそのつもりで」
「それはダメだ、クライン」
「っ!?!?」
…僕の言葉を、グローリア様は簡単に否定した。
セシリアを探しに行くことをまさか否定されるとは思ってもいなかった僕は、やや言葉に詰まってしまう。
「ど、どうして…。た、確かに僕ではお役に立てないかもしれませんが、そ、それでも」
「違う、そうではない」
グローリア様は僕の言葉を手で制すると、そのまま静かな口調で説明を始めた。
「ここでこちらが慌てふためき、セシリアを探すべく必死に動き出したなら、セシリアにはなにか秘密があるに違いないと向こうは考えるだろう。そうなれば、セシリアはどんな目に合うかもわからない…。これほど大掛かりに戦いを続けているのだ。見せしめに処刑されてしまう可能性だってある…」
「………」
「だからこそ、今は下手に動くわけにはいかないのだ。セシリアの事を想うならな」
「………」
グローリア様の考えは極めて冷静で、論理的だった。
…ご自分の大切なご令嬢が姿を消してしまい、しかもその裏に王軍の者たちがかかわっているかもしれないというのに、それでもグローリア様は気を動転させることなく、冷静に状況を見極められている…。
…一方の僕はと言えばどうだ。
セシリアが姿を消したことに慌てふためいて、後先も考えずに無鉄砲なことばかり考えて…。
しかもその果てに、一番心に傷を負っているであろうグローリア様にたしなめられる始末…。
「…申し訳ありません、グローリア様…。僕は本当にどこまでも…」
「勘違いするなクライン、私はセシリアの事をあきらめたわけでは決してない」
グローリア様は強い口調でそう言葉を発し、僕の目を見据える。
「セシリアは我が最愛の娘。必ず私のもとに連れ戻し、これまで通りの日常を取り戻して見せる」
そして最後、グローリア様は僕の目を見つめながらこう言った。
「そのために。クライン、協力してくれるな?」
僕の返事など、決まっていた。
――――
「(あの時の誓いを、今ようやく果たすことができる。セシリア、必ず君を迎えに行くから)」
私の思いは、言葉を伝えられなかったあの時から何も変わっていない。
彼女との再会がなかったなら、あの日伝えられなかった言葉を伝えたい。
…けれど、セシリアは今も私の事を覚えてくれているだろうか…?
彼女をの事を守れなかった私の事を、恨んではいないだろうか…?
「(…いや、そんなことはどうでもいい。今はセシリアを取り戻すことだけを考えるんだ。私の個人的な感情など、この際どうでもいいのだから)」
私は深く深呼吸をした後、そのまま出発に向けての準備に取り掛かるのだった。
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