第11話
王宮にて大きな動きがみられた一方、かつてレベッカとともに暮らしていた3人は相変わらずの生活を送っていた。
「あらマイア、また新しい服を買ったの?」
「これですか?これはきたるべきクライン様とのデートの日に備えて用意しましたの!どうです?似合ってますか?」
「あぁ、よく似合っているとも!…やっぱりレベッカとは違って、マイアは可愛らしい…。さすがはセレスティンの子だ!」
「まぁ、あなたったらお上手ですわね♪」
レベッカがいなくなったことなど何のその、3人の雰囲気は相変わらずのものだった。
「それにしてもお姉様、意外にしぶといですわねぇ…。早い段階で引き返してきて、家に入れてくださいと泣きついてくると思っておりましたのに」
マイアはつまらなさそうな表情でそう言いながら、足を組んで自分の椅子に腰かける。
レベッカがこの家から追い出されて、おおよそ一ヶ月ほどの時間が経過していた。
しかし3人はレベッカの事を心配して探しに行くどころか、今になってもなおレベッカの事を傷つけ続けていた。
「マイアの言う通り、思ったよりもしぶといなぁ。別に戻ってこないなら戻って来ないでどうでもいいが、俺たちはあいつを育てた家族なんだぞ?少しくらい感謝の言葉があってもいいよなぁ?」
「まったくですわね。そんな子どもでも分かる礼儀も知らないなんて、ほんとどこまでもかわいげのない…」
リーゲルとセレスティンもまた、マイアと大差ないリアクションを見せる。
一方的に追い出したのは自分たちの方であるというのに、その身勝手さはとどまるところを知らない様子…。
「それじゃあクイズでもしますか?お姉様が今どこで何をしているのか♪」
「そうねぇ…。あの子確か今年で13歳くらいだったかしら?体で売ればそれなりに男は寄ってきそうだけれど、あんなかわいげのない女がモテるとも思えないのよねぇ…」
「ならもう死んでるんじゃないか?あいつは捨て子だったんだから、家族なんてどこにもいやしないだろう?…実は父親がすさまじい権力者や金持ちだっていうなら話は変わってくるが、あいつに限ってそんなはずはないからな(笑)」
「まぁ、未来も希望もないなんてかわいそうねぇ(笑)」
セレスティンとリーゲルは趣味の悪い笑い方をしながら、マイアに対し言葉を返した。
そこにレベッカの身を案じるような様子はかけらもなく、むしろこの状況をこれまで以上に楽しんでいるようにさえ感じられる。
…と、その時、一人の人物が3人の元を訪れてきた。
コンコンコン
「「「?」」」
扉にノックが行われ、誰かがここに来たというメッセージが告げられる。
しかし、今日は特に誰か客人が訪れるという予定はないはずだった。
3人は互いに視線を合わせて、一体誰が来たのかに関心を集める。
「あぁ、俺が出よう。もしかしたら仕事の話かもしれないしな」
3人を代表するようにリーゲルはそう言うと、ゆっくりと椅子から腰を上げ、玄関口を目指して進み始めた。
――――
「どちらさまでしょうか?」
リーゲルは丁寧な口調でそう言葉を発しながら、客人の待つ扉を開けた。
するとそこには、あまり見慣れない防具に身を包んだ一人の男が立っていた。
しかしそのたたずまいから、兵士であるようには見受けられた。
「突然すまないが、協力してほしい。この人物を知らないだろうか?名前は”セレシア”というんだが」
そう言いながら男が差し出した紙には、一人の人物のイラストと名前が描かれていた。
…名をセレシアと紹介されたその人物のイラスト、それはまさに、幼き頃のレベッカそのものであった…。
「…知らないか?この人物について何か少しでも知っていることがあれば」
「さぁ、わからないな」
それが幼いころのレベッカであろうことは、リーゲルにも瞬時に理解できた。
…が、彼はレベッカの事については何も語らなかった。
「…そうか、わかった」
男はそう言うとリーゲルの前から去っていき、次の家を目指して歩き始めた。
その後ろ姿を見つめながら、リーゲルは心の中でこう推察を行った。
「(…あの様子から推測するに、レベッカに何かあったから情報を集めに来たといった感じか…。うちだけでなくほかの家にも聞き込みにいっているのなら、レベッカがこの家にいたことには気づいていないようだな)」
リーゲルはゆっくりと扉を閉めると、二人の待つ部屋の中へと足を進める。
…しかしなぜだか、その足取りは玄関に向かう時よりも軽快であった…。
「二人とも、どうやらクイズは俺の当たりらしいぞ♪」
高らかにそう宣言するリーゲルだったが、二人はそれを聞いて頭上に?を浮かべている。
「たった今、兵士のような男がレベッカの事を聞きに来た。それもどうやらこの家だけでなく、このあたり一帯の家に聞いて回っているらしい。…それはつまり、もうレベッカが朽ちて死んでしまったってことだろう?♪」
「あらまぁ、それは大変♪」
明るい口調でそう話すリーゲルに対し、セレスティンもまた同じような口調で言葉を返す。
「そう、もう死んじゃったのねぇ…。かわいいかわいい娘だったのに、残念だわぁ」
「仕方ないさ。あいつが勝手に出て行って勝手に死んだんだ。俺たちは必死にあいつを止めたのに、あいつはそれでも出ていった。そんな身勝手な女、誰が育てたってどうすることもできないさ」
「レベッカがわがままで問題児だったってことは周りの人たちも知っていることだし、私たちの意見がひっくり返されることはないでしょうね♪」
下品な表情を浮かべながらそう話す二人。
しかしマイアだけは、どこか不思議そうな表情を浮かべていた。
彼女は窓越しにその男の背中を見つめながら、心の中でこうつぶやいた。
「(…あの防具、クライン様も同じものを身にまとっていなかったかしら…?だとしたらあの男はグローリア様の近衛兵ってことになるけど、一体どうして……?)」
…マイアがクラインに特別な感情を抱くのには、ある理由があるのだった。
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