君と見たあの日の夢にそめられて

HAL

第1話 いつからだろう



僕の名前は、碧颯斗あおいはやと



高校2年、17歳。



身長は、170cm、中肉中背。



50m10秒台、体力テストは、学年で

ビリを争うレベルの運動音痴。



世間体を気にする親の尻を叩かれ、

嫌々ながら勉強した結果、



偏差値60位の、地方に住む田舎の人達の

限られた世界の人達には通じるだろう、

進学校にギリギリ合格。



だけど、身の丈に合う場所じゃなかった。



入学早々の抜き打ちテストで、化けの皮が剥がされ、

300人中290位。



授業のスピードに、ついていくのに、精一杯。



だから、途中で諦め、適当に、聞き流す事にした。



部活は、数ヶ月で退部。



練習についていけず、一体何の為に、やっているのか、

そもそも、センスも無ければ、身体能力もないのだ。



急に、虚しく、バカバカしくなった。



何を、バカみたいに夢中になってるの?



3年間しかない、高校生の青春の1ページ。



それを自ら、破り捨てた。



別に、後悔はないよ。



わざわざ、黒塗りしてまで、黒歴史にする必要はない。



それと、デキない自分を他の人達に、

哀れな目で見られるのも嫌だったし、

縁の下の力持ちになれる性格でもない。



正直、恥を晒したくなかっただけ。



クラス内でも、40人のクラスメイト達と

仲良くなれず、未だ、馴染めた試しがない。



学生特有のノリが、肌に合わない。



というより、大っ嫌いだ。



一部の野球部やサッカー部の連中が、

声だけは無駄にデカくて、張り上げては、

クラスの中心で、牛耳っている。



正直、鬱陶しい。



たまに、無茶ブリ的なモノをやらされ、

無い頭を絞った所で、失笑される。



いや、あれは、嘲笑だったな。



そもそも、お笑い芸人でもないクセに、

二番煎じ以下の、劣化コピーで、ウケ狙い、

しかも、何ら捻りのない弄りだ。



侮辱以外の何でもない。



ああいったムラ社会の狭い世界で

大将気取りのタイプが嫌いだ。



そこに、虎の威を借りる、太鼓持ちが、

手を叩きながら、バカにしてくるのも苦痛。



だから、グループで固まろうとする集団に

交わる気はないし、こちらから話しかける

理由も義理もない。



かといって、真面目に勉強する優等生タイプや

アニメやゲームが好きな、独自の世界観のある

タイプとも、交流を持てない。



どうしても、話が合わないからだ。



一応、挨拶を交わす間柄の知人はいるが、

心を通わす会話をした試しはない。



そんな面倒くさい僕だから、恋愛もからっきし。



誰かに、恋愛感情を抱かれた事はもちろん、

抱いた試しもない。



クラスの中心にいる、男性受けの良い、

今でいう、あざとい女子生徒は苦手。



ああいう、自分が可愛いとわかって、

とっかえひっかえ、男を入れ替え、

コレクション感覚でいるのが、気に食わない。



それは、男も同じで、耳に聞こえる様に、

昨日は、○○とやったとか、プリクラ自慢、

デートにいったとか、



マウントをとって、スクールカーストの

上位を位置せんとする、底辺な性根。



将来、ハゲてしまえばいいのにと、

モテない、負け犬の遠吠えはしてみる。



青春のど真ん中を謳歌するアイツらには、

痛くも痒くもない、戯言に過ぎないけどね。



登校も下校も、たった一人。



お昼ご飯も、一人、机の上で黙って食事。



高校生活の3分の1のハイライトは、

セピア色の染まった変わり映えのしない日々。



ただ、通学バスの窓から眺める景色だけが、

僕の心の隙間を埋めてくれる、貴重な時間。



「あの頃は楽しかった。」



たまに、テレビで、そう言っている

芸能人とか、SNSの人気インフルエンサー等の

青春時代に、全く共感できない。



逆に、今を楽しめていない人間が、

そんな過去をバラしたら、夢がないじゃんと

ツッコミを入れちゃう。



それを、現在進行形で、学生生活を送る

僕が言うのは、説得力に欠けるけどね。



いつからだろう。



こんなにも、心にポッカリと穴が空いている事を

自覚して、生きているのを実感したのか。



いつからだろう。



目の前の映る景色に、色を感じなくなったのか。



いつからだろう。



他人の言葉に、僕の心は響かなくなったのか。



いつからだろう。



僕の人生に、夢や希望が見えなくなってしまったのか。



こんな事を考えている時点で、

かなり拗らせた、捻くれ者の

ませた子供なのだろうね。



物心がついた時から、周りの人間達の言葉に

違和感を覚えていた。



親の言っている事さえ、くだらない。



両親の望む進路に行っても、僕の心は、

満たされる事はなかった。



満たされたのは、あの人達のエゴ。



自分達の言う通りに動くだけで、満足する。



高校2年に進級したばかりだけど、

もう、大学の話すら出てくる始末。



制服が少し崩れただけで、過剰な心配を見せる。



僕が、あの人達の望む道から外れるならば、

わずかな可能性でもあるならば、徹底的な排除。



だから、僕は、演じている。



仮初のあの人達の望む、僕の像。



それで、家族の平穏が、保たれるならば、安いもの。



仮面を被った僕の心は、表の僕は、偽者。



嘘も方便。



それが、僕の生きている世界なのかもね。



ーーキーンコーンカーンコーン。



今日のクラスのホームルームの時間が終わり、

放課後を迎えるチャイムが聞こえてきた。



「それでは、気をつけて帰ってください。」



担当の教師がそう告げて、教室を去った。



ーー終わったー!



ーー宿題、メンドー!



ーー部活行くかー!



授業を終えたクラスメイト達が、

解放感タップリに、各々会話する

声が聞こえてくる。



僕は、ずっと、教室の窓を外を

ボーッと、眺めて、物思いに耽っていた。



夕暮れのグラウンドを、ただ見るだけ。



それだけでも、現実逃避には、十分だった。



彼らの言葉は、僕の耳をそのまま通過。



興味もないから、当然か。



そして、誰も僕に、話しかけてこない。



その方が、僕にとっても、都合がいい。



ーーガラッ!



僕だけが、取り残された事を確認して、

ようやく、椅子から、腰を上げた。



「帰ろっかな...。」



でも、帰宅した所で、また、演じなきゃいけない。



「いつもの場所に行くか。」



最近、誰にも邪魔されない空間で、

たまたま、図書室というスポットを見つけた。



テスト期間以外、誰一人いない。



だから、完全下校時間まで、図書室で過ごすのが

僕のルーティーンとなっている。



カバンを持ち、廊下へ出ていく。



隣も、奥の教室にも、僕以外の生徒はいない。



夕暮れになった、薄暗い、寝静まった様な

廊下の雰囲気が、僕に寄り添ってくれている。



「今日は、何を読もうかな...。」



別に、読書の趣味は、ない。



だけど、ちょうどいい、暇潰しの趣味もない。



スマホは持っているけれど、流行りの

アプリのゲームをやる程の熱中さもない。



そう考え、並べられた本棚達を想像しながら、

教室の電気を消し、廊下を歩いていく。



こうして、今日も、1日が終わろうとしていた。



ーーポロン。


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