第7話

 しばらくそのままにしておいたら、めぐるは勝手に復活した。一時的なものだったらしい。理由を聞いたら、はぐらかされた。白鳥家に帰ってきたから割とはぐらかせてばっかりな気がする。

 めぐるがWiiの機械にディスクを入れる。「Wiiスポーツ」というスポーツゲームらしきゲームが始まった。

「私、これの野球得意なんやって」

「ほんと? じゃあ勝負する?」

「ええよ!」

 ということで勝負した。

 結果は0-13。しかも、3イニングで。

「私の名前が栞だからか……。本っ子だからか……」

「それは関係ないんやない?」

 ピュア〜な瞳で見つめられる。初めてですよ、こんなにも小ボケが通じない関西人さんは。

「でもさ、実際はめぐるの方が本好きだよね」

「そうやね。こしみ……栞は……なんか、はずいな。栞はどっか運動部入ったったやろ?」

「そうそう、私中学から女バスなんだよ。これ、完全に名前反対だよね。『めぐる』って外を巡る、みたいなイメージだし。栞はもろ本だし」

 さっき私は本っ子だと言ったけど、あれは真っ赤な嘘だ。実際にはよくいるスマホっ子である。かくいう今、めぐるが何のスポーツを次にやるか決めている間もスマホをいじっている。

「本はええよ」

「読んでるの偉いよね」

「偉いっていう感覚は全然ないけど、現代文的にはそうやな。それより、それ! なんとかせなあかんよ」

 Wiiのコントローラーを片手で使いながら、空いた方の手で私のスマホを指差してくる。

「絶対した方がええ。デジタルデトックス」

「私には絶対無理だなー……」

 空を仰ぐ。スマホの画面が見えないよう手を内側に倒しながら。ほらやっぱりスマホのことを考えている。

 けどそれは一旦しまって、私たちはゲームに熱中した。古いゲームだけどよくできていて今遊んでも楽しい。特にボウリングが盛り上がって、さっきよりずいぶん会話の量も増えた。

「めぐるの部屋には何があるの?」

「本、とか」

「そりゃそうだ。それ以外は?」

「ええ……? ベッドがあるやろ、デスクがあるやろ、本棚……あ」

 めぐるはわざわざ指折り数えていた。その手が一旦止まり、ゆっくりと薬指が降りていった。

「エレクトーン」

 え。

「エレクトーンや。エレクトーンがある」

「ほんとに? 習ってたの?」

「うん。ヤマハで」

「へぇ〜……」

 目をぱちくりしてWiiリモコンを持っためぐるを見つめると、めぐるはリモコンを置いて、少し寂しそうな目でこっちを見た。

「覚えてないもんやね」

「え?」

「栞もエレクトーン習っとったやろ?」

 鋭い目線だった。思わず、唾を飲み込んだ。

「なんで……」

「だって私、エレクトーンを弾く栞の姿を見て、そこに惚れたんやもん」

「え?」

「あっ」

 めぐるが口を覆う。目を右に左に動かす。

 なんで、めぐるは私がエレクトーンを習っていたことを知っているんだろう。それもそうだけど、それ以上に。

「惚れてるって言った?」

 いや、この詰め方は変か。言った後に気が付く。これは、同性が恋愛対象に入っている時の聞き方だ。私の目線だ。

 人柄とか、演奏とか、そういうことに対しての惚れ込み、ってことだろう。変に間が空くのも嫌だし訂正しよう。

 そう思った瞬間のことだった。

「もう観念するわ」

 手を口元からそっと離して、めぐるはボソッとそう呟いた。そして両手を頭の後ろに持っていき、結んでいた髪を解いた。バサッ、と両肩に黒髪が広がる。

 その後、私の目を見た。口がきゅっと窄まっていて、額には汗をかいていて、頬が赤らんでいて、それでようやく悟った。

 めぐるは。

「私、栞のことが好き」

 今、恋する女の子の顔をしている。

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