透明
結局来てしまった。
断れなかった。
「なぁ、答えたらもう関わらないって約束だろ?」
「そんな約束した覚えないなぁ~。」
真っ白な少女は防波堤の上でステップしながら答えた。
「したじゃないか。
なぜイライラしたか答えたらもう関わらないって。」
「君がそう言ったとして、私はそれにいいよって言ったの?」
確かに真っ白な少女はあの時、笑顔を見せただけだった。
「ねぇ、自分の色は嫌い?」
真っ白な少女はどこか楽しげである。
「あぁ、嫌いだよ。」
「真っ黒か~。
スゴいと思うけどな~。」
「みんなそう言うさ。
実際はあるかないかわからない色なんだ。
必要ないんだよ。」
真っ白な少女に聞かれると、どうも口が軽くなってしまう。
不思議だ。
彼女にはなんでも話してしまいそうだ。
「そうだ!
試しに色付けしてみてよ!」
真っ白な少女は防波堤から降りて、手に砂を貯めて言った。
砂に色付けをしてみてということだろう。
「本気で言ってる?」
「もちろん。」
「でも、砂が黒色なんておかしいよ。」
「そうかな。
黒い砂があったっていいと思わない?」
僕は同じように防波堤からおりた。
そして、彼女の手の中にある砂に向けて、右手で黒を作った。
砂にそっと触れる。
砂はみるみるうちに真っ黒になった。
それから、真っ白な少女の手も。
「ご、ごめん!」
真っ白な少女は真っ黒な砂を手からこぼした。
真っ白な世界に、穴ができる。
「1ヶ月もすれば、落ちると思う。
本当にごめん。」
「スゴい!
本当に真っ黒!!」
「でも、僕のは色付けじゃない。」
「それでも凄いよ!
君は私の希望だよ!」
「希望って?」
「あなたならこの世界を変えられる!」
「言っている意味がわからないよ。」
真っ白な少女はいたずらに微笑んだ。
「私の番号を教えてあげる。」
波の音がえらく強く聞こえた。
「♯ffffff。」
その色は世界を支配している色だった。
「この世界を真っ白にした張本人なんだ!」
あれから浜辺を歩いた。
「私ね、透明だったの。」
僕は後ろをついて行くことしかできない。
「誰も気付いてくれなかったの、私の存在に。」
砂を蹴る音が聞こえる。
「だからね。
皆に気付いて欲しくて、光の色を一種類にしたの。真っ白にね。
そうしたら、皆からは自分たちが真っ白に見えて、気付いてもらえるでしょ。」
真っ白な少女は歩を止めた。
「でもね、結局みんな、真っ白な人たちを気味悪がって話しかけてくれない。
透明だったころと何も変わらない。」
そして、振り向いた。
「だから終わらせることにした。
世界の色を取り戻すんだ。」
真っ白な少女は大袈裟な仕草で言った。
「そのためには君の協力が不可欠なんだよ!
だから協力して?
世界を助けると思って。」
「何を言っているのかわからないんだけど。」
僕はただただ困惑した。
「いいや。
君だったらわかるはずだよ。
わからなくてはならないんだよ。」
唖然とする中、僕の喉から滑るように言葉が絞り出された。
「僕は何をすればいいの?」
「自分でもわかってると思うけど君は物の色を消せるんだよ。
さっきの砂だって、黒くなったんじゃなくて、色が消えたんだよ。」
「つまり…。」
「そう!
私の色を完全に消せばいいんだよ。
そうすればこの世界は元通りだよ!
めでたし~めでたし~。」
「つまり僕に君を殺せと言うのかい?」
「大丈夫。
私は人間じゃないから、人殺しにはならない。」
真っ白な少女は終始陽気だった。
感情の起伏が乏しく、抜け殻のような言葉ばかりだ。
「無理だ。できるわけない。」
「でも、君はしなくちゃならない。」
「他に方法はないの?」
「あるにはあるけど、ないと思った方がいい。」
沈黙が訪れる。
波の音と鳥の甲高い鳴き声だけが響く。
「少し考えさせてほしい。」
「わかった。
明日、またここで待ってるから。」
私は夢を見る。
今よりも全然カラフルな世界で、
誰にも自分の姿は見えない、
誰にも自分の声は届かない、
誰にも触れられない。
昔の夢。
道を歩けば嫌な視線を向けられる。
話し相手は誰もいない。
私は何のために生まれたのか。
自問自答する日々をおくる。
もう終わりにしよう。
飛び込みも、
首吊りも、
服毒も、
全部したけど終われない。
そんな中現れた希望の光。
真っ黒な光。
さあ、透明な人生を黒く染めよう。
「待ってたよ。」
目の前には真っ黒な少年がいる。
律儀に約束を守って来た少年。
「じゃあ、答えを聞いてもいかな。」
少年は俯いている。
その目には覚悟の色が宿っている気がする。
「やっぱり、僕には君を殺せない。」
予想はしていた。
気弱そうな少年だったし。
何よりも会って一日の人から殺してと言われて誰がうなずけるだろうか。
「そう、わかった。」
今までみたいに陽気な声が出せない。
「じゃあね。付き合ってくれてありがとう。」
「待って。」
真っ黒な少年が呼びかける。
「だから、考えてみたんだ。
三原色が君に色付けすれば、君も死なずにこの世界は元通りになるんじゃないかって。」
確かにそうだ。
三原色が私に色付けすればこの世界は元通りになる。
けれど、
「それまで、私に孤独に過ごせと言うの?」
今までにないほど冷たい声が出た。
それほどに追い詰められていた。
「君は、だいぶエゴな人だね?」
そんなことはわかっている。
「そうだね。
私はだいぶなエゴイストだ。」
段々と涙があふれてきた。
それが悔しさからくるものなのか、悲しさなのかよくわからない。
「でもだって、しょうがないじゃん!
生まれちゃったんだもん!
誰かと繋がりたいって思ってしまったんだもの!」
「だから、僕で良ければ付き合うよ、その、三原色探し。」
「え?」
「それが何十年か何百年かかるかはわからないけど。」
真っ黒な少年の方を見ると少し照れている様だった。
「つまり、君はもう一人じゃないってこと。」
「どうして、わたしにそこまで?」
「同じ、嫌われ者同士だからかな。」
「ほんとに、いいの?」
「うん。
手始めに、赤くんと仲直りしなくちゃ。」
真っ黒な光が私を導いてくれる。
色なき世界の色々 @takamura_saita0315
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