第2話 瑠花のいない日

あれから少しして学校の手続が終わり通い始めることに。


たまたま瑠花はクラスが同じで行き帰り僕から声をかけて。送り迎えしていた。


勉強は当然瑠花の方ができて、テストの返却の度に瑠花付きで母へ出していた。


でも叱ったりしなかった。

10点であろうが、20点であろうが、


叱ることはなく、僕が泣きながら瑠花に教えて貰ってるのを見ていたから。

この頃僕のパニックを抑えられたの母さんと瑠花。


勉強し始めると頭を使う。

理解が難しくなると

「わかんない!」と頭を抱え泣き出す。


すると、母さんが横で見ながら瑠花が僕の背中をさすって、


「1個ずつみて。これとこれね。わかる?」

「うん」

「次これとこれ」

「うん」

「で、最後これとこれ。」

「うん。でもひとりじゃ出来ない。」

「何回もやれば覚える。ひらがなや漢字と同じ。涼太、漢字はあたしよりできる。…ママ見て。涼太、漢字全部合ってる。ほら。」


「本当だ。賢いんでしょ。えらいえらい。」


僕は悲しくて母さんに抱きついた。


「頭悪くてごめんなさい。」

「お勉強できなくても、母さんは涼太のこと大好きだよ。瑠花だって教えてくれてる。ちょっとずつでいいの。」


不安になると母さんに抱きついて匂いかぐ。

この秘密を知るのも瑠花だけ。


母さんがパートで居ない日は、祖父母の家で瑠花と遊んだり、宿題したりしてた。


でもやっぱり不安定になると、母さんを求める。でも当然仕事なのでいない。


僕はある時、瑠花に抱き着いてみた。

突き飛ばされたらやめればいいと思ったから。


すると瑠花は抱き締め返してくれた。

「いい子、いい子。大丈夫。ゆっくりやろ。」

「…匂い、いい?」

「いいよ。」

「嫌ならしない。」


僕は母にするのと同じ様に、首に鼻をつけて匂いをかいだ。


「…母ちゃんと同じ匂いする。」

「え?そうなの?」

「うん…。」

「よかった。」

「なんで?」

「うん?内緒。」

「なんだよそれ。」

「内緒は内緒。」


僕が瑠花の目を見ると瑠花は僕にキスした。


「いつか教えてあげる。」

「うん」



瑠花も変わらず父親から性虐待を受けていた。

そのままされるので、そのうち子供が出来るかもと怯えていた。


だから、僕と母を見て

「やるのは自由だけど絶対コンドームだけはしなよ。出来たらわけわかんなくなるから。子供だって迷惑だし。」


と日頃から釘を刺されていた。



そんなある日、僕は学校で中程度のパニックを起こした。

友達との会話のなにかの弾みで、

『涼太ってマザコンなの?』って流れになったと感じたから。でも今思うとただの被害妄想。


『母さんと二人だもんな。そりゃ仲良いはずだよな。』が正しい会話。この『仲良い』を敏感に感じ取ってしまって、会話の後耐えてはいたが授業中に頭の中をぐるぐると言葉だけが回り始め、静かに教室を出て、保健室へ。


無言でソファーに座って頭を抱えて、


『マザコンじゃない。俺はマザコンじゃない』と繰り返していた。保健の先生はたまたま僕の事を1年生の頃から見ていてくれた人でたまたま転勤でこの学校に来ていて僕の事を知っていたので様子を見ててくれた。


すると、瑠花が来て僕の隣に座って僕を抱きしめてくれた。


「大丈夫。あんたはマザコンじゃない。ただ。ママが好きなだけ。ママだってあんたが好き。それに誰もあんたを『マザコン』なんて言ってない。『仲良い』って言っただけ。だから安心して。あんたを馬鹿にするやつは居ない。居たらあたしがぶん殴るから。大丈夫。」


僕は瑠花の首に鼻をつけて落ち着こうとしていた。

やはり暫くすると、落ち着きを取り戻して瑠花に身を預けていた。


「大丈夫。あたしいる。誰もあんたの敵じゃない。」

「うん。」

「でもさ、マザコンだって悪い事じゃない。いらいらるからってママに反抗してる方がカッコ悪い。素直に好きなら好きって言ってる方が可愛い息子だと思うよ。だからママはあんたが好きなんだから。でしょ?」

「かな?俺は、ママが好き。ずっと好き。」

「それでいいんだよ。」


僕が落ち着いたのを見ると、瑠花は僕の手を引いて、一緒に教室へ戻ってくれた。



幸い、転校後も瑠花が居てくれたので周りにすぐ溶け込めて仲良くして貰っていた。


外ではパニックを隠せるが、たまに抑えきれなくなる時もあってその時は保健室へかけこむ。

そのうち瑠花が来て話を聞いてくれる。


でも、瑠花が熱を出して休んでる時にそれが出た時が一度だけあった。その日は僕も瑠花同様熱が途中から出てきて、この日は瑠花も居ない。


フラフラしながら保健室へ。

でもこの日は保健の先生がたまたま職員室にいて閉まっていた。

僕は保健の先生の前で、


「母ちゃん…母ちゃん…」と力なく呼んでいると、他の先生が僕に気づいて声をかけてくれた。当然熱を出していて意識も乏しい。


声をかけられるが答えなくて、ただ、

「母ちゃん…母ちゃんは??…ねぇ母ちゃんどこ??…」と言うだけ。


そこにたまたま保健の先生が来ての様子を見てくれて、

すぐに「お母さん呼んでください。おばあちゃん達じゃだめなんで、職場に直接連絡してください。それとこの状態なんで救急車も呼んでください。その方が早いので。」


さすがだ。先生の判断は早かった。

この日は瑠花もいない。落ち着ける相手が居ないことをわかっていた。


僕は病院へ連れて行かれ、母さんも来てくれた。


母さんは僕を見るやいなや、

「なんで言わなかったの?!ママ、仕事休んだのに!!」と叱ってきた。

僕は力の入らないまま、


「迷惑でしょ?母ちゃんの邪魔になる。居てもいなくても迷惑かける。」

「いい加減にして!!あんたの面倒見るのもあたしの仕事なの!わかる?あんた産んだ限りは育てんのがあたしの仕事!じゃあ、あんたこの状態で母さん達と居れるの?冷静にママの事待ってられるの?」


「……だから俺なんか居なきゃいい。」


「涼太!!いい加減にしないと母さん本当に怒るよ?!」

「…産まなきゃよかったんじゃない?父さんに押し付ければよかったんじゃない?なら母さん自由になれた。俺なんか居ない方が好きに出来た。俺が母さん連れて来たからこんなことになった。」


僕は気だるい体を起こして点滴を引き抜いてベットから降りた。


「ちょっと、どこ行くの?!涼太?!」


僕はフラフラと歩き出してエレベーターを探した。母さんは追っかけてきて僕の腕をつかもうとしたが振り払った。


そのまま母さんは黙って着いてきたけど

僕は屋上へ向かった。


母さんは僕の考えに気付いてまた腕を掴んだ。


「あんた何考えてんの。」冷静だった。

「正しい事。」

「正しくない。間違ってる。」


僕はまた母さんを振りほどいて屋上の防護策の所へ向かった。


「そんなに死にたい?」

「母さんのために死んであげるから。俺がいるから母さんは辛い思いしてる。」

「勘違いしないで。あたしは…涼太が居て幸せ。涼太と生きてる事が幸せ。それに、瑠花は?あの子はどうするの。あんたが死んだらあの子もあんたの事追うよね。そんな事あんたならわかるでしょ。」

「母さん、瑠花の事嫌いじゃないの?」

「馬鹿なこと言わないで。どっから何勘違いしたらそうなるの。あんた達は2人でセットでしょ?どっちもあたしの子供。そう思ってる。」


僕の心の氷はその言葉で一瞬にしてとけた。


母さんは後ろから僕を強く抱きしめてくれた。


「あんたは私の宝物。瑠花も同じ。迷惑なんて思わないで。あんたが居るから生きていけるの。」

「ごめんなさい。」

「もう二度と言わないで。」

「わかった。ごめん。」


「…ママも一緒に謝ってあげるから。もう一回点滴してもらおう?このまま帰っても涼太しんどいだけだよ?」



僕は昔からそう。何かを勘違いし始めるととことん勘違いに進んで闇堕ちする。


そこを掬いあげられるのは母さんと瑠花だけ。

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