5. 竜騎士の歓迎


「お待ちしておりました、世界一エライ人族のラーラ様!」


 目の前に屈強な竜騎士がずらり。

 一言違わず一斉に、ゼレンセン王国に到着したラーラへ歓迎の言葉で迎えた。


「ご、ご歓迎いただき、感謝いたします……?」


 ワイバーン車から降りて見た最初の光景にラーラは圧倒される。

 恐らくゼレンセン王国の精鋭が揃っているのだろう、身につけている騎士服は洗練されていて不必要な金具などは見当たらない。

 ラーラの後から車を降りたクリスに全竜騎士が片膝をつく。


(本当に竜王様なんですね……)


 お姫様抱っこ飛行されたときやワイバーン車内での可愛らしく表情をコロコロ変える──王様というより好きな女の子の前でドキドキしてしまうただの好青年に見えた──彼の姿はどこへやら、鋭い目つきで竜騎士を見下ろしている。


「出迎えご苦労」


 クリスの他を寄せ付けない深い闇のような黒髪が揺れ、竜族を示す縦に割れた唯一無二の金色の瞳が竜騎士の精鋭を見定める。

 その姿は紛れもなく竜王の風格で、竜騎士たちは竜王の膨大な魔力の威圧感に呑まれつつあった。


(私の前ではあんなにお優しいのに、竜騎士の皆様にはやはり堂々としていらっしゃる)


 チリチリとラーラの肌に、懐かしくもある竜王の魔力が伝わる。


(やはり彼はあの、未来の邪竜王に──)


 そして竜王クリスは次の瞬間、ニパッと牙を見せるような拍子抜けするあの笑顔を見せた。


「練習した通りにラーラへ挨拶ができたな、お前たち! 褒めて遣わす!」


 フッとクリスの魔力に抑えつけられていたのが一瞬にして無くなり、竜騎士たちは揃って立ち上がることができた。

 一人の体格の良い、他とは違う赤い騎士服を着た竜騎士がクリスの前で最上位の礼をする。


「はっ、竜王陛下の仰せの通りラーラ様への歓待は準備を万全に整えております!」

「よくやった」


 そして赤い竜騎士はラーラにも膝をついてこう言った。


「世界一エライ人族のラーラ様、長旅お疲れさまでした。どうかこのコーネリア城でごゆるりとお休みください!」

「あの……その、世界一エライ人族っていうのは一体なんなのでしょう」


 ラーラは若干、いやかなり困惑していた。

 いきなり王都へ着いて王城の中に入るとこのような呼び方をされたのだから、さしものループに疲れ果てているラーラもびっくりしてしまう。

 赤き竜騎士、そしてこれまた赤く立ち上げた髪に爽やかな笑みを見せる兄貴肌の男はこう言った。


「すべては竜王クリス様から聞いております。呼び名も竜王様が決められました。ラーラ様がこの世界で起きているループの起点、そして被害者であることを我々竜族の皆が知っているのです。そのため心を打たれた竜騎士の皆でこの日のために口上の訓練をしていました」

「数百回のループ分の訓練の成果だ。やっと披露できて俺も嬉しい」


 衝撃的なことをクリスがとても自慢げに喋る。


「数百回もの歓待の口上の訓練を、私のために……?」


 信じられないという表情を隠しきれないラーラに、クリスは少し屈んで彼女に伝える。


「俺が命じた。あ、『私なんかのために』ってまた自分を否定するんじゃないぞ、俺がラーラにしたかったんだ」


 俺が勝手にやったことだから君は悪くないからな、と続けるクリス。

 ハッハッハ、と赤の竜騎士が快活そうに声を上げて「流石は竜王陛下!」と笑った。クリスも満更でもなさそうにしている。

 そして赤の竜騎士はラーラに向き直った。


「貴方様のご来城をお待ちしておりました。この騎士団長スタンが貴方様をお守りします、どうかゆっくりとお寛ぎください」


 と、騎士団長スタンが名を名乗ったところでクリスがずいっとラーラの目と鼻の先に迫る。整った顔面がラーラの視界いっぱいになって眩しい。


「スタンはああ言ってるが君を一番に守るのはこの俺だからな!」

「は、はい……ありがとう、ございます」


 胸がとくん、とくん、と鳴っている。なぜなのだろう。きっと顔の良い顔で迫られたからだろうなとラーラは思った。


「ラーラはお前に守ってもらうほどか弱くないぞ。魔力量でいえば俺と競るくらいだからな」

「……それはすごい」

「ラーラの魔力コントロールは俺以上だ。俺のように溢れ出て物を壊したりすることもない。お前たちは何となく覚えているだけだろうが彼女はループの中において勇者でもあったのだから」


 スタンの少し口元がひくついているのでラーラは訂正するように言った。


「そんなことはありません。勇者といってもお飾りで、おまけに仲間に裏切られるような信頼のない勇者でしたし私なんかは……」

「ラーラ」


 ハッとして声の主を見やれば、クリスが片目を瞑ってきた。


「それ以上言ったら俺の百回ほどのループ分の『ラーラのここがすごい!』を聞かせるからな!」

「お、おやめください、そんな恥ずかしいこと……!」


 本当だぞ、と笑顔のままのクリス。ラーラは素直に末恐ろしいと思った。


(どこまでご存知なのでしょう、冒険者だったときのヘマとか無様に死んだときとかも!?)


 赤くなったり青くなったりするラーラの顔を見て、くすりとしてしまったクリスは仕切り直すように咳払いをし、竜騎士たちの精鋭を後ろにして腕を広げた。


「これから君には平穏でまったりスローライフを過ごしてもらい、ゆっくり休んでほしい!」


 竜王クリスと騎士団長スタン、そして竜騎士たちはラーラを歓迎する。


「ようこそ、我がコーネリア城へ!」


 クリスはずっと待ち侘びていた。ラーラを守りループから抜け出させるこの大きな一歩を。

 惚けた顔をしているラーラの手を取って、クリスは心躍らせながら城内へと足を踏み入れた。

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