【モノローグ】パルヴィナから見た学校生活
あたしは、納得がいかないことは納得いくまで追究したい。
白黒はっきりさせないと気が済まない。
元々獣人は苦手。
動物なのか人間なのかよくわからないから。
でも、獣人は獣人だって、みんなは言う。
獣化と言う現象がある。
獣人の中でもごく一部の者に表れるし、当人が隠したがるから、実際にどのくらいの割合で存在しているのかはわからないらしい。
それこそ、もうただの動物じゃないか、と思う。
動物がいて、獣人がいて、人間がいる。
動物と人間の間に位置するのが獣人かと言えばそうではない。
獣人は初めから獣人だったのだという。
あたしは、それが不思議でならない。
けれど言葉に出すのはいけないことみたい。
子供の頃から何度も叱られた。
あたしに納得のいく説明をしてくれた人なんて一人もいなくて。
『それはいけないことだからやめなさい』
と、しか言われない。
子供の頃、あたしはずっとこんな風だった。
今でも内面はあまり変わらない。
油断すれば。
「そもそも、獣人ってなんなのかしら。」
しまった!
と、思った時にはもう遅い。
うっかり口に出してしまったのは、ティグと言うトラの獣人が、あまりにも獣人っぽくないからだ。
「なんだろうねぇ。不思議だよね。」
あたしは、驚きすぎて、とても間抜けな顔をしていたと思う。
「ルヴィ?どうしたの?」
あなたの反応があまりに獣人っぽくないから驚いているのよ。
「やっぱりティグは獣人っぽくないわね。」
ちょっと寂しそうな、でも、単純に寂しそうとは言い切れない表情になるティグ。
少し心が痛んだ。
「獣人っぽい、っていうのがどんなのかはわからないけどね。こう考えたらいいんじゃない?」
「?」
「獣人がわからないのと同じように、人間だってわからないよね。」
「…た、しかに。」
自分が人間だから、獣人が不思議に思えるのであって、獣人にしてみれば人間って何だろう?と言う話なのか。
「ティグは、相手の立場になって考えられるのね。」
「うーん。どうだろう。」
ティグは気のない返事をした。
「あなたは獣人なのに、人間の気持ちがわかるみたい。」
今度は困った風な顔をしている。
「…そうだね。例えば、ルヴィは、生まれ変わりって信じる?」
話が急に飛んだように感じたけれど、突っ込むにしても質問に答えてからにしよう。
「死んだあとに、また別の存在として新たに産まれるってことなら、信じるか信じないかはさておき、あるのかもしれないとは思うわ。」
「じゃあ、そのあるかもしれない生まれ変わりで、ルヴィの前の人生が獣人だった可能性もあるよね。」
言われてハッとした。
「…」
どうして、ティグはこんな考え方ができるのだろうか。
獣人でありながら、人間でもあるような。
「それぞれの生を、それぞれが全うしようと生きている。それは魔物でも同じなんじゃないかな。」
何者でもなく、何者でもあるような。
ティグが言おうとしているのは、いま、あたしは、たまたま人間として生まれて生きているけれど、産まれる前は獣人だった可能性も、魔物だった可能性もある。
今の人生すら、人間ではなかったかもしれない可能性を持っているってこと…よね。
「ティグって、不思議ね。」
あたし、最初にティグに惹かれたのは、勘違いだろうって思っていたけれど、本当に惹かれたんだわ。
こんなの、惹かれない方がおかしい。
恋かどうかは、別として、魅力的なことには違いない。
きっと、愛の女神の加護を、一身に受けているのね。
「ルヴィは、獣人が苦手なんだよね。」
「正確には、苦手だった、ね。」
ほんの少し残っていたわだかまりも、さっきティグに言われたことで解消された。
「今は苦手じゃないんだ?」
「ええ。ティグや、ニコライ、サーシャにギデオン。みんなのおかげでね。」
あくまでも、みんなのおかげと強調した。
「そっか。よかった。」
本当にうれしそうな笑顔。
「よぉ、お二人さん。」
「あ、ニコライ。やっと来たね。」
ティグは、私たち二人がからかわれそうな空気を一瞬で変えてみせた。
「なんだ?俺が恋しかったか?」
ほら、ね。
「うん。君を待っていたよ。ギデオンと、サーシャもね。」
そうして更に華麗にかわす。
とても、同い年の男の子とは思えない。
「ふんっ。」
ニコライが不服そうな顔でティグを小突いた。
明らかに痛くなさそう。
「おそくなって、ごめんなさ~い。」
遅れてサーシャがやってきた。
いつもののんびり口調を聞くと、気が抜ける。
「手洗いを先に済ませておいた。食事の途中で席を立つのは悪いからね。」
ギデオンが手を拭きながらやってきた。
「じゃあ、食堂へ行こう。」
ティグに促されて、いつものメンバーで食堂へ向かう。
いつも、食堂の少し手前にある、広場で待ち合わせをしている。
サーシャとギデオンはマイペースでのんびりしているから、いつもこんな感じだ。
ニコライはきっちりしている方だから、今日は珍しく遅く来たわね。
大体いつもティグが一番乗りで、ニコライが一緒に居るか、あたしと同時くらいに集まる。
食べるものは結構バラバラ。
ギデオンはウサギの獣人だから、とにかく草をたくさん食べる。
獣化した姿の時は、干し草のキューブを食べている。
干し草を圧縮しているから見た目より量があって、遠征に行くときは、便利そうよね。
獣人の時は、ホウレンソウとか、小松菜、キャベツ、ニンジンその他もろもろ、草と言うより野菜ね。
いつも大きなボウルに三杯はペロリと食べているわ。
サーシャは、何でもかんでもたくさん食べる。
キャベツなら一玉丸々食べることがあるし。
人参は百歩譲って丸かじり出来るかもしれないけれど、大根は…さすがにあたしは無理。
動物の熊は木の実や生魚、生肉が好きみたいだけど、獣人は生肉を食べるとお腹を壊すことがあるみたい。
魚なんて滅多に手に入らないから、もし食べる機会があったら、サーシャが喜びそう。
サーシャは、普段から、煮込み料理を好んで食べる。
特に好物なのは、マッシブチキンのホワイトシチュー。
意外にも豆乳で作ったものが好きなのよね。
どちらかと言うと、木の実とか野菜の方をたくさん食べている印象がある。
まあ、とにかく、食べる量が多いわ。
ニコライは、とにかくお肉ね。
デミグラスソースを使ったシチューが大のお気に入りで、食堂ではそればかり。
お肉はその日によって違うものを選んでいるみたい。
魔物の肉は、週一回あれば良い方。
比較的狩られる機会が多いのは、ビッグディアや、ビッグゼブラ。
食堂のメニューに並んでいる時は進んで食べているわね。
あたしは、日替わり定食を食べることが多い。
王城の食堂は、さまざまな種族に対応するため、メニューがとても多くて、人間用のメニューだけでも相当な数がある。
よほど時間と気持ちに余裕がない限りは、ちゃんと選ぼうなどと言う気が起きないほどに充実しているのよね。
今日の日替わり定食は、キノコと豚肉たっぷりのグラタンとパン、コンソメスープとサラダ。
飲み物は、水と、お湯、その日によってフルーツジュース、野菜ジュースなどが並んでいる。
紅茶とハーブティーも用意されていて、好きなだけ飲んでいい。
食事替わりに、野菜ジュースやフルーツジュースのみを摂る者もいるけれど、あたしは通常の一人前くらいは毎日しっかり食べる。
あたしは、みんなで食事をしている時間が好きだ。
他愛のない話をして、みんなで笑いあう。
でも、こんな時間はあと少しで終わる。
成人したら、それぞれ違う道に進むんだもの。
『寂しいな。』
「もうすぐ成人だから、こんな風に一緒にご飯を食べることがなくなるのよね~。」
サーシャは、あたしの気持ちを読んだかのように何かを言うことがある。
心の中を覗かれているようで、ドキリとする。
「ああ、まあ、そうだな。」
ニコライが気まずそうに、言う。
「寂しいね。」
ギデオンがしょんぼりしている。
「みんなの都合がつくときに、どこかで集まって食事をすればいいよ。」
ティグが、当たり前のことのように言って、笑った。
成人したら、みんな仕事をしたり、結婚して子供を産んだりして、生活するので精いっぱいになる。
両親が、外で友人と食事をしに出掛けた記憶などない。
皆、それほど深い付き合いをしないをしないという印象だ。
近所の人同士や、買い物で、屋台やお店の人と会話を交わすのは、とても気さくにみんながすること。
けれど、街を歩く人たちは家族かカップルが殆ど。
若者たちの集団は、大抵が兄弟か親戚同士。
成人になって、初めて見える世界があるのかもしれないけれど、なんだか、すごく分厚い壁みたいな境界線が、成人前と成人後にあるように感じる。
今日、帰ったらお母さんとお父さんに聞いてみようかしら。
あたしには妹がいるけれど、兄や姉がいない。
妹は一〇こ離れていて、親戚の子供みたいな感覚なのよね。
来年ようやく五歳になるから、あたしが成人するタイミングで、学校に通い始める。
学校に送迎することもあるのかしら。
あたしの進路は、動物研究。
もう論文は通っているから、あたしの立場は研究学生なの。
それでも、成人するまでは、授業はみんな一緒。
動物研究はフィールドワークが多いから、魔物と戦えるだけの戦闘スキルも必要なのよ。
平原で動物を観察していたら、ワイバーンが襲ってきました、なんてこともあるからね。
あたしはきっと、人間の中では戦闘力の高い方だと思う。
この四人とだって一緒に戦えるはず。
だから、チェイサーギルドに登録して、五人でパーティを組んで魔物討伐任務に就くなんて未来を、勝手に想像したことが何度もある。
実際には、別々の道を進む。
願望と言う程でもない、ただ単に想像してみただけのことだ。
だって、この四人と魔物討伐したら、楽しそうじゃない。
「一年に一回くらいなら、集まって食事することも出来るかもしれないわね。」
本当は、毎月でもしたいくらい。
あたしは、すごく現実的な事をいうポジションだって自覚がある。
けど…
「まあ、タイミングが合えば、いつでも良いんじゃないの。」
四人が妙にニヤニヤしていることには、気付かないふりをした。
「もう時間よ。早く行かなくちゃ。」
大体いつも一二時半くらいからお昼を食べ始めて、解散するのは一三半くらい。
いまは、もう一三時と、一時間の四分の三が過ぎている。
「あらぁ、本当だわぁ。」
サーシャはちっとも慌てておらず。
「げっ! マジか!」
すごく慌てるニコライに。
「食器は僕が片付けておくよ。」
と、ギデオンが声をかけた。
あたしは、心の中で。
『こんな毎日が、ずっと続いたらいいのに。』
と、密かに祈った。
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