親戚と過ごす時間は癒されます

 今日は、朝から母さんの実家、オリンソン家へ農作業を手伝いに行く。

父さんは仕事だから、母さんと俺、ティア、アルの四人で日の出直後の馬車に揺られて、ちょっとした旅行気分だ。

実家に帰るとあってか、母さんは昨日よりは調子が良さそうに見える。


 毎年、太陽の月の一週から二週目と、海と空の月の三週から四週目は、ジャガイモの作付け期で、人手が必要になるから、行ける時にはみんなで手伝う。

気候は日本の西南地方とかなり近い。


 驚くべきは連作障害を知っていることだった。

それも、害虫対策としてバジルを混植しているから、なお驚いた。

前世で、自炊を初めたことで、家庭菜園についても色々と調べたんだ。


 ジャガイモは手軽に育てられそうだし、余っていた衣装ケースで出来るんじゃないかと思って、やってみたんだよね。

だから、知っていたけれど、そうでもなければ俺も知らなかったこと。

この世界の発展の仕方は、時折ひどく不思議だ。


 母さんは四きょうだいの末っ子。

リエラ伯母さんが一番上で、母さんの八歳上。

母さんを、そのまま一回り半ほど大きくしたような感じで、明朗快活。

その中に、強さと厳しさのようなものが感じられ、キリッとしている。


 「リエラ伯母さん、おはよう!」

馬車から降りて、小走りに先頭を行くティアが、元気に挨拶をした。

「おはよう!」

母さんと俺は手を振り、アルは軽く会釈をする。

既に作業は始まっていて、リエラ伯母さんは植え付けるジャガイモを運んでいるところだ。


 母さんもだいぶ迫力あるけど、リエラ伯母さんは、収穫したジャガイモがいっぱい入った大きな麻袋を、両手に二つずつ、軽々と持ち運ぶ力持ちだ。


 ウソか誠か、牛をぶん投げたことがあるとかないとか。

なんというか豪傑感が漂っている。

魔物を一〇体くらい倒した経験があると言われても、納得できる風格だ。


 リエラ伯母さんの旦那さんは、ベルンフリートさん。通称ベルンさん。

優しくたくましい農夫って感じだ。

ベルンさんは、畑の中で作業中で、リエラ伯母さんの声に反応して手を振ってくれた。

角刈りに近いような短髪だから、虎耳が際立ち、かわいい。


 一見すると、そんなにムキムキじゃない感じに見えるけど、触ると筋肉がついていることがわかる。

脱ぐとすごいんだろうな、と、想う。

身長は、父さんより、ほんの少し大きいくらいだ。


 リエラ伯母さんとベルン伯父さんの長男フランダンは、俺より六歳上の二〇歳。

通称フラン。

フランも、ベルンさんの近くで作業をしていたから、同じタイミングで手を振ってくれた。


 フランは、父親のベルン伯父さんにそっくりで、若い分まだ細い。

決して、か細くはない。


 フランの奥さんは、同じ二〇歳の食物研究員、タチアナ。

農作業も研究の一環で、積極的に手伝っている。


 ただ、見たことのない雑草や害虫を発見すると、作業をする手が止まってしまうのが難点みたい。

根っからの研究職員だよね。

軽く会釈をしてくれたから、こちらも同様に応じた。


 母屋の方角からアーダおばあちゃんの声が飛んできた。

「よく来てくれたね。」

「アーダおばあちゃん!おはよう。」

ティアが結構な勢いで抱きついたが、アーダおばあちゃんは全く動じない。


 アーダおばあちゃんがお昼の準備をしつつ、フランとタチアナの娘ロレナの面倒を見ていた。

「ロレナ、おはよー。」

俺がロレナの頬を突くと、目がまん丸くなった。

二歳のロレナは、まだ言葉がおぼつかないけれど、一生懸命喋ろうとする。

 

 リエラ伯母さんの長女マロンナは、一八歳。

どちらかと言うとベルン伯父さんに似ている。


一〇歳になる前から、田舎くさくならないよう気を遣っていた、おしゃれなマロンナに、ティアはあこがれていた。

マロンナはいわゆるツンデレだから、ティアと似ているところがある。

ティアが気付いているかはわからないが、通じ合うものがあるのだろう。


 マロンナは、都会的な雰囲気が好きで、そういう人が好きだ、と、度々ティアに話していたらしい。

だから、絵にかいたような農家の子である、現在二〇歳のヘルマンと結婚したのは、家族全員にとって予想外だった。

おそらく、驚いたのはティアで、しばらく現実を受け入れられない様子だった。


  元は、マロンナとヘルマンも、オリンソン家に同居していたのだけれど、成人すると同時に、ヘルマンが中央街へ引っ越した。

いつも賑やかなオリンソン家は、ヘルマンには少し過ごしにくかったようだ。


 ヘルマンの家へ、マロンナが入り浸るようになった後、しばらくして二人の間に子供ができた。

獣人にとって、結婚よりも前に子供ができるのは、珍しくもないことだ。


 けれど、元々一緒に生活していた、いとこ同士の二人が、そんなことになるとは、誰も想像していなかったようで、とにかくみんなが驚いた。

最近子供が産まれたばかりで、今日は来ていない。


 「マロンナは、もっとずっと先に結婚するんだと思ってた。」

と、フランが漏らしたのは、親戚が集まって結婚のお祝いに食事会を催した時のことだ。

「俺もそう思ってたよ。」

当の結婚相手が言っている。

「それも、まさか兄貴と結婚するなんてな。」


 ヘルマンの弟オルウェンは、一五歳。

「本当、意外過ぎて何事かと思ったよ。」

オルウェンはちょっと燻っている。


 この世界にもっと選択肢があれば、きっと目を輝かせて自分の夢を見つけるだろう。

もしかしたら、オルウェンは、密かにマロンナへ好意を寄せていたのかもしれない。


 ヘルマンとオルウェンは、コナーおじいちゃんとよく似ている、ルルテ伯父さんの子供だ。

ルルテ伯父さんは、母さんより六歳上。


 ルルテ伯父さんの奥さん、ドーリン伯母さんは、もともとリエラ伯母さんと同い年の友達。

気迫に満ちて、自分の意見をはっきりと言うリエラ伯母さんと、まともに渡り合える気丈夫だ。


 「いつ何が起きるかなんて、誰にも予想がつかないものだよ。」

エノーク伯父さんが言うと、すごく説得力があった。


 母さんより三歳上の兄・エノーク伯父さんと、夫のブラム伯父さんは、中央街の中型獣人のエリアに近い場所を選んで住んでいる。


 エノーク伯父さんは、幼い頃から農業を手伝った中で、自然とついたであろうバランスの良い筋肉が美しい。

一見華奢に見えるけれど、身のこなしはとてもしなやかなのだそうだ。


 いわゆるとび職のブラム伯父さんは、ムキムキマッチョの渋いイケメンだ。

精悍な顔つきっていうのかな?

こういう見た目のトラの獣人に、敢えて喧嘩を売る人はいないだろうなぁ…と、感じる。

が、力押しではエノーク伯父さんに勝てないんだとか。


 これは想像だけれど、舞踊と、合気道や柔術って通ずるところがあるよね。

エノーク伯父さんは、歴史研究職員として舞踊を専門的に研究をしているから、そういう身のこなしが出来るんじゃないだろうか。


 舞踊についてもっと知りたいようで、一般に広く浸透する文化としての舞踊のあり方を模索している。

エノーク伯父さんには地球での俺の知識を是非とも提供したい。


 かつて孤児院にいた二人の養女・エクレムは、肉食性の中型に属しているカラカルの獣人で一五歳。

もともと、エノーク伯父さんとブラム伯父さんは、種族違いのエクレムに出会い、彼女を養子に迎えるために、住む場所を選んで引っ越したんだって。


 エクレムは、すごく綺麗な女の子だ。

カラカルを擬人化したら正にこうなるよね!って感じがする。

あくまで俺の主観だけどね。


 「みんな、お疲れ様。」

アーダおばあちゃんが、午前中の作業を終えて集まるみんなに、声をかける。


 母さんと一緒に、二人で朝からずっと、みんなの昼食を準備してくれていた。

大きなテーブルに、たくさんの料理を並べて、みんなで食べる。


 「ブラムおじさん、顔が泥だらけだよ。」

フランが少し笑いながら言うと、みんなが注目して笑いが連鎖する。

それくらいブラムおじさんの顔は泥だらけだった。


 「お、そうか。じゃあ、顔を洗ってこよう。」

ブラムおじさんは、豪快に笑った。


 「みんなも手を洗って来てね。」

母さんがそういうと。

「はーい。」

みんな大小さまざまな声で返事をした。


 「母さん、大丈夫?」

俺は暑そうにしている母さんに声をかけた。

「なんだか、今日は特別お腹が張るのよね。」


 「あなた、先月は食欲がないって言ってなかった?」

アーダお祖母ちゃんは、何か心当たりがあるような口調で尋ねた。

「一時ね。今はすっかり元通りよ。ただ、なんだか暑くて汗がすごく出るのよね。農作業を手伝えなくてごめんなさいね。」


 アーダお祖母ちゃんとリエラ伯母さんが、顔を見合わせて何か無言の会話を交わしたように見えた。

「いいから、一旦座りなさい。ベルン、ビルキル先生を呼んできてちょうだい。」


 リエラ伯母さんが、母さんを椅子に座らせた。

やはり、何かに気が付いた様子だ。

ベルン伯父さんが、即座に反応して駆け出し、あっという間に見えなくなった。


 ビルキル先生は、近所にある回復院にいる、医療に知識が豊富なおじいちゃん回復師だ。

近所と言っても、歩いて一五分くらいはかかる。

俺も、ここで初めて農作業をした時、熱中症になってしまい、お世話になった。


 手洗いから戻ったティアが、異変に気付いて駆けてくる。

「お兄ちゃん、どうしたの?」

「リエラ伯母さんが、お母さんを心配してお医者さんを呼んでくれたんだ。」

「え?お母さん、大丈夫なの!?」

ビックリして大きな声を上げるティアに、俺が少しびっくりした。


 アルは、黙って俺の手を強く握ってくる。

「大丈夫だよ。多分、病気とかじゃないから。ね、リエラ伯母さん。」

「ええ。ただ、診てもらわないことにはね。」


 アーダお祖母ちゃんや、ドリーン伯母さんがすごく落ち着いた様子だし、きっとなんだ。

と、俺は思っていた。

だけど、これは可能性の段階で口にするのは、微妙なことだ。


 「ティア、アル、持ってきたお菓子をお皿に並べよう。」

心配する二人の気を逸らすために提案した。

「あれはおやつの時間に食べるんじゃないの?」

元々、おやつの時間に食べるためにクッキーを作ってきたものだから、アルが今食べて良いのかを気にした。


 「いいよ。お昼に食べちゃおう。今日は特に忙しいから、きっと一五時のおやつの時間も取れないと思うんだ。」

農作業の時には、一〇時と一五時におやつの時間がある。

けど、今日は忙しくて、一〇時のおやつがなかったし、このままでは食べずに終わってしまう恐れがある。


 「そっか。そうだね。私、持ってくるから、お兄ちゃんとアルは手洗ってきて。まだでしょ?」

ティアは、テキパキと行動する。

その様子は、母さんにそっくりだ。


 「うん。よろしく。アル、行こう。」

アルの顔を見ると、少し不安げにしていたが、俺の顔を見て安心したらしい。

「うん。」

笑顔を見せたアルと、手を繋いだまま、庭に設置されている水道へと向かった。

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