獣人の生態や寿命についてお話します
動物の虎とは異なり、トラの獣人が一度にたくさんの子供を産む頻度は、人間とそれほど変わらない。
妊娠期間も、人間とほぼ同様の約二五〇日。
獣人の方が人間よりも少しだけ寿命が短いのは、元々、動物の方が寿命が短いからなのかな。
人間は七〇歳まで生きれば長生き。
トラの獣人なら六〇歳まで生きれば長生き、と言った具合だ。
動物の虎に比べたらだいぶ長生きだよね。
寿命に比例して、妊娠期間も多少短くなっているのだろう。
雑食性、草食性や小型や中型の獣人も、ほとんどは体の大きさで寿命が変わる。
寿命が短ければ短いほど、妊娠期間も短く、一度に産む赤ちゃんの数はより多くなる。
ネズミ算っていう言葉があるものね。
動物と同じほどとまではいかないが、ネズミ族の獣人は一度に三から五人の子供を産むようだ。
獣人の中で一番小さいネズミ族は、四〇年生きれば長い方らしい。
ネズミの獣人ほどの体格と寿命の獣人は、成人年齢を引き下げても良い気がする。
一応、人間と獣人の間に子供は生まれるけれど、人間の血の影響で体格が小さくなることが極稀にあるのだとか。
獣人の血の方が、人間の血よりも強いのは確かだ。
もともと人間よりも小さい獣人との間に生まれた子供は、小さくなりようがないけれど、大きくもならない、と、聞くから、よほど獣人の血が強いのだろう。
動物のパーツの出現具合は一定で、耳が片方しか出ないとか、しっぽが短いとかそういう異変は起きない。
見た目の上ではそれほど差はないけれど、寿命に差が出ることがあるから、獣人と人間の結婚は、周囲から一度は反対されるのだとか。
住む場所によっては、居心地の悪さを少なからず感じる可能性があるのだから、身内としては、反対するのが正常な反応、と、考えられている節はある。
ただ、どちらにしても本気で反対する気はなく、覚悟があるかを確かめようとしているだけっぽいな、と、感じた。
獣人と人間のカップルは少ないとはいえ存在している。
この世界は、偏見や差別、いじめもほとんどなくて、あっても、少しからかう程度。
許容範囲は個人によると思うけれど、泣いてしまったり、心の傷が残るような過剰なものを、少なくとも俺は見聞きしたことがない。
それだけ、この世界は平和だし、獣人と人間がみんな仲良くやっているということだと思う。
同性カップルも当たり前に存在していて、正式に結婚できる。
養子を迎えることも容易い。
エノーク伯父さんのところがそうだ。
日本では考えられないことだったけど、驚いたのは最初だけだった。
なんとなく、人間より獣人の方が増えそうに思えるけれど、どういうわけか、そうでもないらしい。
この世界の人数バランスは、常に人間と魔物と獣人と動物が、夫々およそ二五パーセントずつで保たれている、と習う。
実際どうなっているのかは定かでない。
この世界がどのくらいの大きさで、全体の人数がどれくらいで、その割合がどうなっているのかを、実際に集計をとっているのかと言うと、九九パーセントあり得ないと断言できる。
なにしろ、国土がどこまで続いているのかも分からず、他の国もあるかもしれないのに、わかる範囲だけで、多分そのくらいだと思う!と、言っている状態なんだ。
俺の予想では、魔物の数が一番多いような気がしている。
成人年齢が若いことで、必然的に結婚、出産が全体的に若い。
だから、曾祖父母まで健在の家庭が多いと印象がある。
前世だとひいおじいちゃん、ひいおばあちゃんが健在なのは貴重だし、珍しいイメージだった。
こっちの世界だと、ひいひいおじいちゃん、ひいひいおばあちゃんまでいてもそれほど珍しくはないから、俺としてはとても驚きだ。
一方で魔物を相手に危険な仕事をしている人は、若くして亡くなることが多々ある。
チェイサーギルドに登録した上で、魔物討伐依頼をこなすチェイサーが良い例だ。
一般市民が、魔物に襲われて亡くなることもあって、父方の高祖父の最初の奥さんは、子供と一緒に外を歩いていた時、魔物に襲われて亡くなったのだそうだ。
もう、一〇年くらい会っていないけれど、父方の祖父、ニエルドおじいちゃん、父さんの母、アレクシアおばあちゃんは元気だろうか。
母さんの生家であるオリンソン家は、王都の一般街で農業を営んでいるから、会う機会が多い。
コナーおじいちゃん、アーダおばあちゃんは、俺が獣人を怖がらなくなってから、よく来てくれている。
子供が3人いると、面倒を見てくれる人が必要なこともあるからね。
時々、母さんのお兄さんも来てくれる。
母さんは、四人きょうだいの末っ子。
一番上はお姉さんで、お兄さんが二人いる。
俺が獣人を怖がらなくなったからこそ、会えるようになった人たちだ。
本当に良かったと思う。
休みの日には、農作業を手伝いに行くことがあって、仕事が終わるとみんな揃って、青空の下で食事をするんだ。
トラの獣人が農家って、面白いよね。
俺も最初は意外に感じた。
なんでも、農家で育てるような作物を主食にしている獣人だと、途中で食べちゃってうまく育てられないんだとか。
と、いうのは、学校の先生がお決まりにしているジョークで、実際のところは、農家は割と力仕事だから、体の小さい獣人より、大きくて力がある獣人の方が向いているんだって。
もちろん、身体が小さくても、農家をやっている獣人はいるし、出来ないということではない。
ただ、見ていてすごく大変そうなのは確かだ。
実際、オリンソン家のお隣の農家はクマの獣人一家だし、圧倒的に体格が大きく力持ちな獣人がやっていることが多いと感じる。
適材適所ってやつだね。
クマは雑食性だから、作物の種類によったらすごく食べるだろう。
食べちゃうから仕事にならないっていうのが、ただのジョークだってわかるよね。
「ただいまー。」
ティアがドアを開けておいてくれるから、お礼を言って素早く中へ入る。
俺の片手は荷物でいっぱいだ。
片方はアルと手を繋いでいる。
ティアには砂糖とバターを持ってもらい、アルには卵を持ってもらっている。
もちろん、一番重い、肉一〇キログラム、と、小麦粉五キログラムは、俺が持っている。
「母さん、ただいま。」
アルも後に続いて、ティアへの礼と帰宅のあいさつを済ませると、買い物した荷物をテーブルの上へまとめて置く。
「さ、手を洗おう。ちゃんと石鹸をつかうんだよ。」
みんなに手洗いを促すと、母さんが徐に部屋から出てきた。
「おかえりなさい。」
「母さん、体調はもういいの?」
「ええ、大丈夫よ。少し眠ったらすっきりしたわ。買い物してきてくれて、ありがとうね。」
とはいうものの、まだ少し怠そうな雰囲気。
今年に入ってからは、母さんは調子のいい日が少ない。
ものすごく体調が悪いってわけでもないから、この世界の医師にあたる”回復師”に相談するわけでもなく、今に至る。
大抵は、少し休めばよくなるみたいだから、出来ることをなるべく手伝っていた。
「肉屋のおばさんが、ミンチ串をサービスしてくれたの。おかあさんも少し食べる?」
「あら、ありがとう。私はいいわ。みんなでどうぞ。」
「はーい。」
「ティアは優しいね。」
「べ、別に…そんなんじゃないわ。」
ふふ、ツンデレさんめ。
「私はお肉を切り分けて、ミートパイの下準備をするわね。みんなは、このあとお菓子作りをするのよね?」
「母さんの作業が終わってからにするよ。先にそっちを手伝うからね。」
「ありがとう。」
「始める前にミンチ串を頂こうか。」
と、声をかけ、三人で食べ始めた。
あっという間にミンチ串を食べ終わり、夕飯の準備と、明日、母さんの実家に持っていくミートパイ作りに取り掛かる。
母さんは、もうミートパイの具を作り始めていて、今は肉を細かくしているところだ。
「お肉、ミンチじゃなくてよかったの?」
塊肉をミンチにするのはなかなかの重労働だ。
「ミンチだと、細かくなりすぎるのよ。歯ごたえが残るくらいの絶妙な加減のミンチ肉は、お店に売っていないのよね。」
「誰か、冷蔵庫から人参とトマトを持ってきてくれる?」
「私が行くわ。」
冷蔵庫は、一家に一台はない。
この官舎には、一階の厨房に大きなサイズのものが一つと、二階、三階に一つずつ。
各世帯、利用できる容量が限られているから、基本買いだめはしないんだ。
我が家では、どうしても一回では使い切れない野菜の残りを入れておく程度。
決して、食べきれないという意味ではない。
肉が主食だから、野菜はそれほど使わないのだ。
母さん特性のミートパイは、トマトと人参と肉を具材に使う。
肉の大きさはもちろんのこと、他の具材とのバランスにも絶対の拘りがあるから、野菜を切る作業も絶対に自分でやるんだ。
「パイ生地は、もう寝かせてあるんだよね?」
母さんのミートパイは、親戚のみんなも大好きなんだ。
「ええ、テーブルの上に置いてあるわ。」
パイ生地で小麦粉を使い果たしてしまったから、お菓子の分を買いに行く必要があった。
他にも買い物があったけれど、大抵いつも買い物に行くのはお肉だけで、今日は、いつもより時間がかかった。
「じゃあ、生地を伸ばして、たたんでの作業は、俺がやるよ。」
サクサクのパイ生地を仕上げるのは俺の担当だ。
今日は何層にチャレンジしようか。
「お願いするわ。」
パイ生地については俺が譲らないことを、母さんは十分承知だ。
「アルは、ティアと一緒にクッキーを作る準備をしておいてくれるかい?」
手軽に作れて、ちょうどいいお菓子と言えば、やっぱりクッキーだよね。
前世でよく作ったな。
妹の
専門学校に通った後に動物園に就職したから、真美が大学に入学したのとタイミングが一緒だった。
真美が大学一年の冬は、ちょうどお菓子作りに夢中になっていたっけ。
特に大学在学中の真美から、バレンタインにお菓子をもらった男子諸君、あれを作ったのは、俺だ!
フフ…。
エプロンを二人分とって、アルに一枚渡す。
「うん。お兄ちゃん…」
「ああ。」
アルは、首にエプロンをかけると、当たり前のように後ろの紐を俺に渡してくる。
と、そこへティアが帰ってきた。
「…」
もの言いたげに、しかし、何も言わないティア。
突っ込まれても仕方がないのは、大いに自覚している。
一度に双方が出来るからと言うアルの主張により、抱き合う格好でお互いのエプロンの紐を結びあっているから、それはさぞかし突っ込みたくもなるだろう。
うん…
なんか、ごめんよ、ティア。
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