魔法の種類と魔法鑑定

 どの魔法を使うことが出来るのかは、本人が一番よくわかる。

自称でも、実際に使用できるのかを確認すればいい話なので、生活をする上で記録がなくとも生活は可能だ。


 だが、国の管理上、五歳の時に発行される身分証明プレートに情報を記録する決まりがある。

そのため、まずは学校で二回、簡易鑑定が行われる。


 五歳の年、最初の”稼働日”…日本で言う”平日”に一度目。

一〇歳の年、最初の平日に二度目だ。

この日ばかりは、なんらかの事情で学校に通っていない者も、簡易鑑定を受けるために訪れる。


 一五歳の年、最初の日には、王城でしん鑑定と呼ばれる最終鑑定を行い、それをもって成人の儀とされる。

だから、毎年最初の日は、成人の日で、いわゆる祝日だ。


 五歳の簡易鑑定は、魔法属性と、おおよその魔力量を把握するほかに、身分証明プレートを発行する目的もある。

身分証明プレートは、見た目には、何も記されていない金属の板のようなもので、首から下げられるようになっている。


 城の門を通る時など、身分を証明する時に必要なもので、ギルドに登録する際や、雇用契約を結ぶ際にも使われる。

魔法で情報を記録し、専用の魔法道具で読み取る仕組みだ。

だから、魔力を含んだ金属でできている。

 

 俺は五歳の鑑定で、火属性、光属性の二種類が確認できた。

ティアは太陽の月産まれで、火属性。


 魔法の属性が、二属性までならそれほど珍しくはない。

だが、俺は、七歳の時には、精神魔法を使えるようになっていた。


  ある時、無意識に相手の心を操作してしまい、それが精神魔法だと後から気付いた。

けれど、一〇歳の簡易鑑定までは、心の中にしまっておくことにした。


 珍しいことだから、一〇歳の時に、精神魔法を使えることが知られたら、転生について何かわかるかもしれない。

と、期待と不安の入り混じる想いを抱えていた。

が、実際には何もないまま今に至る。


 魔法の属性は火、水、風、土、光、闇、無属性、全部で7つだ。

精神魔法は、どこに属すのか解明されていない魔法の一つ。

だから、三つめの属性、とは言えないところがちょっと複雑。

一〇歳当時の俺は、魔法について知識を深めようとしていた。


 「ねえ、父さん。魔法は七属性だよね。」

魔法研究者の父さんにこの話をすれば、嬉々と目を輝かせるのはわかっていた。

それでも、聞いてみたかったんだ。


 「無属性の他にも、どこに分類されるのかがわからない魔法は、どうして?」

俺は、努めて子供らしい話し方をしていた。


 「精神魔法と回復魔法、氷魔法、錬金/錬成魔法のことだな。」

眼鏡をかけ直したその動作から、スイッチが入ったことがわかる。

視界の端に、母さんが微妙な表情をしたのが見えた。


 「氷魔法は、水属性のうちに入るという説もあるが、温度変化の部分が水属性のみでは説明できないという意見が出ている。」

言われてみれば確かにそうだ。


 「風属性との混合魔法なのではないかと言う仮説を元に、風魔法と水魔法を同時に発生させて氷魔法ができるのかを実験してみたが、成功していない。」

きっと、魔法研究者は、こういう研究を日々行っているのだろう。


 「それじゃあ、火魔法と水魔法を組み合わせて、お湯ができるかを確かめてみたの?」

「え…」

母さんも同時に反応した。

家でお風呂に入る時は、まず浴槽に水を張ってから火魔法か、魔法道具でお湯を沸かす。

属性の異なる魔法は、別々に発動するというのが常識だ。


 いかん、一〇歳前の子供らしくなかったか。

「二つの属性魔法が組み合わさることで、別の魔法のようになるんだったら、いろんな二つを試した方が良いんじゃないかと思ったんだけど…」

あくまで、子供の単純な発想ですよ、アピールのつもりだが…


 「ああ…たしかに、そうだな。」

父さんは目を丸くしている。

話題を変えよう。


 「錬金/錬成魔法は?」

「ああ、それは土属性から派生しているという説と、土属性と光属性の混合魔法と言う説がある。」


 何もないところから貴金属を生み出すなんて、前世なら大金持ちだ。

この世界では、無尽蔵に生み出せるものだから、価値がないに等しい。

あれ?

価値がないに等しいものを、貴金属とは呼ばないのか。


 「後の二つは?」

当時七歳だったティアが、父さんと俺を、ぽかんと眺めていた。

「おにーたん。」

当時五歳だったアルは、俺の足に抱き着いてきたから、抱き上げて話を続けた。


 俺の気持ちを察したのか、アルはおとなしくしてくれる。

アルはどの属性が現れるだろうか、と、一瞬気が逸れた。

が、すぐに気を取り直して父さんの話を聞く。


 「回復魔法と、精神魔法には、共通する問題があるんだ。まず、回復魔法は光属性と言う説が濃厚で、光属性と風属性の混合魔法だと考える説もある。精神魔法は、闇属性あるいは無属性と言う説があるんだが…」

「どちらも、その月には出ないはずの属性が関係してるんだね。」

「そう! そうなんだ!」

父さんの興奮した様子に家族が一様に驚き、一瞬、間が開いたあと。


 「さっ、お話はそのくらいにして、ご飯にしましょう。

もうこんな時間よ!」

母さんが、タイミングよく空気を変えた。

もう少し話したかったが、潮時だろう。


 あ、時間と言えば…

「父さん、そういえば、うちの時計は、どうしたの? 街で時計を売っているのを見たことがないから、気になってたんだ。」

目がちゃんと見えるようになった一歳頃からは、なんとなくずっと時計を眺めていた。


 「これはね、一五歳の真鑑定の時に、一人一つ、国から成人祝いにもらえるんだよ。」

丸い土台上、大きさが異なる二つの円の上部一点が重なっていて、魔力を込めると光る点が円の上に表れる。

時刻合わせは自動で行われ、今の時間を示す。

ウソか誠か、魔力と反応して精霊が教えてくれるんだとか。


 「そうなんだ。じゃあ、うちにある時計は、お父さんがもらったのと、お母さんがもらったものなんだね。」

「そうだよ。」


 頂点から一日が始まり、内側の円を回りきると一二時間、その後、外側の円を回り始めて一三時間で合計二五時間となる。

円の大きさにあまり差はないから、内側の円には円の内側に。

外側の円には円の外側に一時間ごとの印が付いている。

 

 懐中時計や、腕時計のようなものはなく、外で確認したいときには街の各所に設置された時計台で確認できる。

食堂や、公衆トイレにも時計が設置されている。

そういえば、あれらは、月に応じて色が変わっているのか!

今、気が付いた。


 「二つは違う色だけど、どうして?」

二つの時計は、デザインが大きく異なっていた。

「それはね、生まれ月によって、もらう時計が決まっているからだよ。」

一つは、海と空が混ざったようなきれいなマーブル模様。

もう一方がピンク色でほんのりハートマークに見えるような見えないような柄なのはそれでなのか。


 「そうなの?じゃあ、僕がもらう時計はお父さんと同じ色と柄なんだね。」

とてもかわいらしいピンク色の時計をもらうのか。

「ああ。そうだね。」

「この時計は、持ち主が亡くなったら、届け出と一緒に国へ納める決まりなんだよ。」


 少なくとも、日本では、ピンクは女性的な色と言うイメージが強くあった。

俺自身は、前世では色にそれほどこだわりがなかったんだけど、お母さんに、男の子なんだから、こっちの色にしなさい、とか言われていたな。

前世では色覚異常があったから、俺にとっては違いがよく判らなかった。


 この世界で初めて全ての色を認識した時、なんとも言えない気持ちになった。

俺にとって、前世よりこの世界の方がずっと彩り豊かに映るのは、家族との関係性ばかりではなく、視覚的な問題もある。


 身分証明プレートには、各月を象徴する色の宝石をはめ込むから、一目で生まれ月がわかる。

宝石は、親から子へ、五歳の祝いとして贈る習わしだ。


 結婚する時に、相手に送って付け替えることもあるんだとか。

身分証明プレートに、結婚相手の情報を記録するから、そのタイミングで石を付け替えるのだろうね。


 この国の宝石の価値は、どれも似たり寄ったりだ。

大きさや色の濃さで価値が変わる。

石自体の希少価値に注目されていないのは、有り余るほど産出されるからなのか、色しか見ていないからなのか、わからない。


 ただ、これだけは明らかだ。

今、三人の中で一番高い宝石をプレートに使っているのはティア。

これは太陽の月を表す赤橙が、宝石の色として大変珍しいため。

赤、または、オレンジでいいのだけれど、理想的な色はその二つが混ざった色で、”太陽の石”と呼ぶ高級品なんだ。

こだわると高くなるのは、どの世界でも同じだよね。


 宝石も錬成魔法で生み出せるけれど、少なくともこの世界の者にはどんなの頑張っても単色の石しか生み出せないんだって。

だから、混色の宝石は貴重なんだ。

俺が出来るかどうかは、今のところ怖くて試してない。


 家族五人の中でなら、母さんの石が一番高級品だと父さんが話していた。

深海を思わせる緑がかった深い青色の石。


 前世での宝石は、色味が混ざっていたり、角度で違った色に見えたり、自然光と人工照明下で色が変わったり、そういう物が希少価値が高く、高級なイメージがある。

同じ種類の石で違う色が存在するのは、混ざっている鉱物や結晶構造が異なるからで、きれいに違う色が混ざるのは珍しいんだろうな。


 母さんのプレートについている石は、緑と深い青が混ざったような色合いだから、高級なのは頷ける。

たぶん、母さんの石はインディゴライトトルマリンだと思う。


 女神の石と呼ばれている種類の石で、その理由が、全ての女神の色が揃うから。

恐らく、女神の七色全てを揃えられるのは、俺の知る限りトルマリンくらいだ。

数が少ない物の価値が高く、数が多い物の価値が低くなる。

と、いうのは、前世と同じだ。


 前世では、動物と宝飾品は、結構関りが深かった。

フクロウは福を呼ぶとか不苦労とか、亀は長寿の生き物として、神や神の化身として捉えられている動物も多いし、動物の骨や牙を材料として装飾品や宝飾品にしているケース様々な民族に見られたことだ。


 俺自身は、動物の生息域や環境への知識を深める中で、一時的にではあるが、鉱物や鉱石にとても興味を持ったことがある。


 例えば、パンダは本来肉食性なのに、竹を食べるようになった理由とか。

動物から植物や地球環境に興味を持つきっかけは、いくらでもある。

地球では、海の生き物と、環境問題は切っても切れない問題だよね。

海の生き物が好きな人は、ほとんど漏れなく海洋プラスチックの問題を知ると思うんだ。


 動物に興味を持つと、その生き物がどんな場所で暮らしているのか、興味が涌くものだと思う。

動物園の存在意義を考えていて、俺はそこに行きついた。

そして、この世界は、明らかに地球環境ととてもよく似ている。

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