王都と王族

 この国、リアティネス・アベリム王国は、獣人の王家リアティネス家と、人間の王家アベリム家が、交互に即位して国を統治している。

現在の王陛下は人間で、アベリム家のお方だ。


 アベリム家の王位に就いている時は、リアティネス家が宰相に。

王がリアティネス家の時は、宰相がアベリム家となる。

リアティネス家は、ライオンの獣人。

ライオンの獣人は王家の血縁者だから、街には暮らしていない。


 王都は、一九世紀ヨーロッパのような街並みで、見るからに貴族の屋敷がたくさんある。


 「その昔、貴族がいましたが、女神歴が始まって間もなく、廃止されました。貴族のお屋敷は、豪華な調度品が全て取り外され、一般の住宅として再利用したり、学校の校舎として使われています。」

と、学校の授業で教わった。


 初等学校の授業は、基本的に担任か副担任が行う。

一年時は、日常の生活環境と近い状態でクラス分けが行われ、担任や副担任も可能な限り、生活している近所で挨拶を交わし合う獣人が受け持つ。

同種族や近縁種の方が安心できるからね。


 二年時からは、徐々に混ざり、六年時にはイヌ科とネコ科すらも混ざりあう。


 授業は、科目によってわかれておらず、話の流れを大切にしているように感じる。

歴史については、ある程度まとめて習う。


 「五〇〇年ほど前まで、およそ三〇〇年にわたり続いていた人間対獣人の戦争は、最終的には獣人が勝利しました。

人間が降伏しましたが、獣人が人間に対して求めたのは、和平ただ一つでした。」


 今でこそ、獣人と人間が仲良く平和に暮らしているが、かつては長きに渡り争っていた。

図書館にも、記録が残されている。


 「元々、人間が獣人を下に見て、支配する目的で始めた戦争でした。

ですから、悔い改めて、獣人と人間を同等の存在と認めることを求めたのです。

以来、争いの火種とならないよう、獣人と人間が交互に王位に就くようになりました。」


 一時は、王家同士、獣人と人間を結婚させるような形をとっていた。

これは、俺が図書室でいろいろと調べ物をしている時に、偶然知ったことだ。


 なんでも、国民から反感を買ったからやめたんだとか。

平和の象徴として、王家の者が犠牲になるのを許さない、と、いう訴えは、終戦後しばらくは、どうしてもお互いを受け入れられない者達がいたからだろう。


 王族の皆さんは、全く偉そうでもないし、華美な衣装を身に着けるのは祭典や式典の時くらい。

城内にある学校へは、王族の方も通う。


 公式の場に出る時の正装は、ほんの少し飾り気があるくらいで、国民とほとんど同じ品質、見た目のものだ。


『常に質素倹約に努め、誰よりも勤勉かつ謙虚であれ。』

と、言うのが王族のモットー。


 誰からも広く意見を聞き入れる姿勢だ。

そんな風だからなのか、王族を憎んだり敵視している国民は、まず、いない。


 王族の皆さんは、さすがに住んでいる場所は王族の住居だけれど、最低限の護衛をつけて、街中を国民と同じ風に歩きまわる。

国民は陛下を見かけると、嬉しそうに。


 「陛下、今日も元気そうだね。」

とか。

商店を営む者は、他の客にするのと同じように。

「今日はこんな商品がありますよ。」

なんて声をかけ、陛下もにこやかに応じる。


 噂によると、陛下は全国民の顔と名前を覚えているのだとか。

さすがに都市伝説のようなものだろうけれど、本当だと言われても驚かない。


 陛下は、一度会って言葉を交わした者の顔と名前は忘れないようで、知った顔を見かけると、必ず名前を呼んで声をかける。


 王族全員が一様にそのような雰囲気で、城も普段から広く開放されている。

当然入れないエリアはあるけれど、食堂や大浴場まで使えるから、感覚として観光地に近いんじゃないだろうか。

 

 王城の図書館は、当人が身分証明プレートを所持していれば、誰でも使えるようになっていて、俺も頻繁に訪れている。

まだ保護者の同伴が必要なうちは、許される範囲で。

一一歳になった途端、アル同伴で入り浸るようになった。


 図書館で陛下に会うこともあって、何度か話をしたことがあるから、きっと名前を憶えられているだろう。

それ以前に、父さんが仕事で陛下と関わることがあり、家庭訪問を受けているから、図書館で見かけた時、俺に声をかけてくれたのかもしれない。


 なんでも、陛下は城で働く職員の家に、必ず一度は訪問し、職員の家族と共に食事を摂るのだそうだ。

その際、家計に負担をかけないよう、自分たちの分として、食材を多めに持参。


 更には王室付きの料理人も引きつれて調理を担当させるから、王族の方の口に合う料理が作れるか!?

と、言う余分なストレスがかからない。

だから、王族の訪問は大変に喜ばれるんだ。


 日頃から、人々は食うに困ることはないし、王族が特別豪華な食事を望むわけでもないから、食材だって至って普通。

なんなら、訪問する家までの道すがら、近所の店で売っている商品を買うことだってある。


 特別豪華な食事が食べられてラッキー!

と、いうわけでもないのに、訪問が歓迎されるのは、王族の皆さんのお人柄ゆえなのだろう。

そして、図書館でよく会うということは、陛下が勤勉であることの証明だ。


 俺たち家族が住んでいる、城の職員用官舎は、貴族の屋敷を、国が主導となり改築したものだ。

三階建ての建物で、天井が高いから、身長が二メートルを超える大型獣人にとっては特に住みやすい。

元の部屋の大きさに応じて、家族向けと、独身向けにわかれている。


 二階より上に住んでいるのは、城で働く職員と、その家族。

一階部分に、孤児院と大浴場、共用キッチン、洗濯場、共用トイレがある。

庭の空間が広いから、噴水があって、屋台が多く出る。


 営業時間外は、収納しておく必要がある機材もあるから、そのための倉庫や、大型の冷蔵庫が一階部分に設置されている。

更に、屋台の運営者が寝泊まりする用に、ベッドがいくつか用意されていて、カプセルホテルみたいになっている。


 一階の共用キッチンは、独身向けの部屋に住んでいる者が自炊する時に使うんだ。

一階の共用キッチンや大浴場を利用する者に限らず、共用トイレは居住者全員が使うから、孤児院の子供たちとも自然に交流が生まれる。


 絢爛豪華な調度品は、そのまま使える場合を除き、国が全て回収し、再利用できるものはとことん再利用していて、無駄がない。

また、貴族の邸宅は庭が広く取られている作りがほとんどだから、空間を利用して庭に新しい建物が築かれる場合もある。


 どうしても噴水などの外にある装飾が残る場合には、公園として利用するなどの工夫がされている。

元々設置されていた邸宅の門は、たいてい門戸が取り払われた状態だ。


 貴族の邸宅を学校として利用している場合には、生徒が勝手に敷地外に出ないように門戸は残されている。

庭の空間は、運動場として使用されている。


 富や権力が一部に集中しないよう考えられ、今に至っているのだ、と、感じられる街並みだ。

貧民街が存在していないのは、この国の誇るべきところだろう。

収入に多少なり差はあるものの、『貧富の差』と、言う程の大きな差はないと思う。


 他の国との国交があれば、また状況が変わるのだろうけれど、この国は現時点では唯一無二の国家だ。


 王都を真上から見ると、城を中心に円形に広がっており、内側から、城下街、中央街、一般居住エリア、農業地帯と広がっていく。

農業地帯とその先の国土の境目は不規則だが、農地の終わりまでが俗に王都と呼ばれ、中央街と城下街を合わせて中心街と呼ばれている。


 一般街は、王都の中でも人口密度が少なく、過ごしやすいことから”王都の田舎”と表現されることもあるようだ。

言われる側も、好意的に捉えている。


 城と城下街の間にある城壁は高さ九メートル。

行き来するための門は東西南北の四つ。

東門が正面門で、西側が裏門だ。

俺たちの家は、東門を出て、少し南へ歩いたところにある。


 東門から南門までの間に肉食性と雑食性の大型獣人と中型獣人が。

南門から西門までの間に肉食性と雑食性の小型獣人が。

西門から東門の間には、西門寄りに草食獣人が集中しており、残りの部分は人間だ。


 北門の近くに人間専用の学校があり、西門の近くに草食獣人専用の学校。

残りのエリアは、おおよそグループ分けされた種族が住んでいるエリアの中心部分に、それぞれの学校がある。


 一一歳から通う学校は城下街の一つ外側に位置する中央街の南門近くに建てられている。

一般街に暮らす者と、城下街に暮らす者が、通学時間の大差なく通えるよう、中間地点である中央街に建てられたらしい。

城下街と中央街を区切る石壁は高さ六メートル。


 門は東西南北に加え、それぞれの中間に位置する部分に四か所あり、計八か所だ。

門番は立っているが、扉は常時解放されており、特に怪しい様子がなければ誰でも自由に行き来できる。


 中央街と一般街の境目にある城壁は三メートル。

門は更に増えて一六か所に。

門番はおらず、誰でも行き来可能な代わりに、自警団のような存在がいる。


 持ち回りで、門の開閉担当をしていて、有事の際には門を閉めることになっている。

ここまで、全て馬車が余裕で通れる門だ。


 一般街と農業地帯の境目には、石壁の残骸がところどころ残っていて、その隙間を縫うように、木の柵が設置されている。

石壁が壊れているのは、過去に魔物が襲ってきた爪痕らしい。


 それぞれの城壁に沿って水路があり、城と城下街の間、城下街と中央街の間については、橋を上げれば通行不可になる。

中央街と一般街の間にかかる橋は、固定されているため、いざと言う時には破壊するらしい。


 一般街には多くの農家が住んでいて、自分の農地に行き来しやすい門を各家庭が設置しているため、数は不明。

馬車が通れる場所は確保していて、その部分には柵がない状態だ。


 母さんの両親は一般街に住んでいるから、徒歩でも行き来できる距離。

それでも、城下街の我が家から、四〇分くらいはかかる。


 一般街の門から、まっすぐ城門まで往復する馬車が四か所で稼働していて、それを使えば少し楽に行き来できる。

当然、お金がかかるからみんなあまり使いたがらない。


 一四歳以下の子供が馬車に乗る時は半額に。

五歳以下と六〇歳以上と妊婦さんや、足を失くしている人などは無料だから、主にそのあたりの人が使ってる。


 一般街には、農家の住宅のほか、商店や、生産業者が立ち並んでいる。

中央街、城下街にも商店や、家具屋などがあるけれど、特に城下街は元々貴族街だったから、城に近付くつれ店の数は少なくなる。

城下街は、店の少なさを屋台や、青空市場のような日時限定の市場を開くことでカバーしているんだ。


 一般街の一番大きな特徴は、三分の一ほどのスペースに、安全な森林エリアがあることだ。

柵で囲われており、そこには主に草食動物が生息している。


 王都の外にある大森林にも、通常の動物がいるが、魔物に食べられたり殺される為、かなり貴重な存在だ。


 幸運にも大森林で通常の動物を捕獲した場合には、連れ帰り、森林エリアに放す。

国が管理している森林だから、勝手に木を切ったり、動物を狩ってはいけない。

森林エリアの木を伐採し、木材にすることもあるけど、ごくわずかな資源だから、木はとても貴重なのだ、と、これも学校で教わったことだ。

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