黒猫-2

「おかワリ」


 そう言って茶碗を差し出すシルヴィーを見て、ブルーは嬉しそうにする。


「いいねえ、成長期。シルヴィーはまだまだ大きくなるよ!まあその小さい姿もかわいいけどね」

「ウザい」


 そう言ってシルヴィーは小さな身体のどこに入るのかというくらいの大盛りのご飯をかきこむ。

 幼い頃から孤児であったシルヴィーは常に飢餓状態にあったためかなかなか身長が伸びなかった。

 まだまだ伸びしろはあるよとブルーは言うけどどうだか。

 それはそれで飯は食えるときにたくさん食っとくに限る。

 ご飯、おかず、ご飯、おかずのサイクルでシルヴィーは黙々と食事を続けた。



 家に帰ると再び髪を黒に染め直す。

 時間はとっくに夜といって差し支えないが今日はまだ仕事が残っていた。

 シルヴィーの住処は上下隣に誰もいないアパートの角部屋なので静かだ。

 まるでここにいる自分は幽霊ゴーストになった気分である。

 殺し屋にとってそれは本望だ。

 銃を分解して、組み立て、また分解する。

 手入れを黙々とする時間は落ち着く。

 作業をすることで感覚が研ぎ澄まされていくのがわかる。

 マガジンをカチリと入れた。

 銃と自分の手は一体だ。

 構えてみせる。


「……よし」 


 小さな声で言って腰のホルスターに収めた。

 ナイフを仕込んでジャケットを着る。

 アパートを出ると吐息が白かった。

 もう少しで雪が降るかもしれない。

 冷える夜だった。 



「待ってくれ!金なら払う!」

「……金にはキョウミない」

「なにか欲しいものがあるのか?言え!くれてやる!」

「トリあえず、死ネ」


 そう言って消音器つきの銃で相手の頭を撃ち抜いた。

 シルヴィーはため息をつく。

 犯罪都市と化した裏街では標的あくにんが多く殺しても殺してもきりがない。


「終わったゾ」


 そう言って電話をかけると、今日も呑気な返事が返ってくる。


「ほーい、お疲れ様!」


 ジュージューと背後から何かが焼ける音がする。

 そういえば、ブルーの趣味は料理だと言っていた気がする。

 まあそんなことはどうでもいい。

 シルヴィーにとってたいていのことはどうでもいいことだ。

 重要なのは仕事のことだけ。

 すなわち標的ターゲットをいかに速く、簡単に効率よく殺すか。

 実に単純でシンプルでいい。

 実際自分はそんな生き方しか知らないし、それでいいと思う。


「あーシルヴィーよかったら今夜うちに寄れない?料理作りすぎちゃってさ。余りそうなんだよねー」

「……そんナノ、そこらへんにいるヤツに恵んどけばいいダロ」


 エセとはいえ神父なのだ。

 貧者に施しをするだろう。


「あっはっは、そんなこと言って僕の誘いを断ろうとしたって無駄だよ?シルヴィーが甘いもの好きなのは知ってるんだからね?今日のは甘い料理だよ?さてなんでしょう?ドルルルゥルル……」


 勝手にドラムロールをしだしたブルーの通話を切る。

 このまま電話を投げ捨ててやろうかと思った。

 もちろん個人のものではなく支給携帯なのでそんなことはしないが。

 携帯には黒猫のストラップがぶら下がっている。

 チョンとそれを突いてみる。

 ガードレールに寄りかかりながら、シルヴィーはブルーと出会った日のことを思い出した。



 

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