Bad kitty

錦木

黒猫

 夜闇の下、路地裏に真っ赤な血が溢れていた。

 それは黒いペンキをぶちまけたように見える。

 死体が血の海に沈むように倒れている。


 黒髪、黒フードの少年が傍らに立っていた。

 血に塗れたナイフを振って飛沫を落としてから仕舞う。

 そして、路地裏を後にした。



 中華チャイナタウンにやってくると中華料理店のカウンター席に座る。

 少年の髪は銀色に光っている。

 黒髪は身元をごまかすため地毛を染めた色で、シャワーを浴びて殺人の証拠ごと洗い流してきたのだ。


「ハイ!」


 馴染みの店主が声をかけてきた。

 無愛想に、銀髪の少年は言う。


「……今日のオススメ」

「ハイヨー!」


 厨房に戻っていった。

 身じろぎもせずに待つ少年はその白磁の肌、青く透き通るような瞳も相まって西洋人形のようだった。

 そこに賑やかな声がかかる。 


「ごめんね、シルヴィー。遅れた!」


 ひょろ長い黒髪黒目の男が現れた。

 服まで黒ずくめ、しかもそれが神父服なのでこの場からすごく浮いている。


「ハイ!ナニタベル?」


 発音が怪しい言葉でそう言う店主に神父服の男は言った。


「シルヴィーはなに頼んだの?」

「……今日のオススメ」

「じゃ、僕もそれでー!」

「ハイヨー!いっちょツイカ」


 そう言って店主は中華鍋をふるい始める。

 熱気が店内に広がった。


「それで今日の仕事はどうだったシルヴィー?」


 軽い口調で神父服の男は言う。


「べつニ。特に問題ナシ」


 シルヴィーはどことなく発音がはずれた日本語でそう答える。


「そっかー。そりゃよかった!あっ、もちろんここは僕の奢りだからね」


 テンション高くそう言う神父服の男にふん、と鼻を慣らす。


「ハイヨー!オマタセ!」


 ドン!と二人の前に大皿とご飯茶碗を店主は置いた。


「今日のヒガワリ!油淋鶏ユーリンチーヨ!」

「トリ……ナニ……?」


 初めて見た料理のようで、シルヴィーは不思議そうに見た。


「ご飯はオオモリオカワリ自由だからネー」


 そう言って店主は引っ込んでいった。


「じゃ、食べようか」

「ブルー」


 シルヴィーは神父服の男、ブルーにそう声をかける。


「なに?」

「今回の支払いもキャッシュにシロ、と伝えてオケ」


 パチンと割り箸を割るとシルヴィーは料理を食べはじめた。


「わかってるって。シルヴィーはそういうところ抜け目ないなあ」


 ブルーもシルヴィーといっしょに料理に口をつける。


「なにこれうまっ!ハオチー!」


 ブルーが親指を立ててグッジョブサインをすると、店主も親指をたてて返した。

 冷めた目でそれを見て、しかしシルヴィーは食事する手を止めない。

 どうやら気に入ったようだ。

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