ファイル2 相棒7
「(どうした?それで終わりか?)」
霊は笑いながら言った。修子は笑っている間にも引き金を引いた。しかし
「!!」
「(どこを狙っている?私はここだ!)」
と気がつけば修子の後ろにいた。修子は慌てて身を翻し敵に向って引き金を引く。しかしその弾丸は空を切り、狙った先に敵はいなかった。修子は慌てて周りを見回す。敵は余裕でいろいろな場所に突然現れては消え、修子を翻弄している。修子もそのたびに撃ち、イライラが頂点にきかかっていた。しかしそれと同時に疲れも感じてきていた。
「くっそぉ!!!」
「(無駄だ無駄だ!!当るはずがない!それに少々当ったぐらいでは私を倒せないぞ!ずっとこの場で力を得て300年だ!お前のような弱きものに私を倒せるはずがない!)」
「300っ!?」
修子は思わず後ずさった。汗が出始めていた。霊は高笑いした。
「(何度か死神省のものがきて私を連れて行こうとしたが、何度も失敗している。そうだ、失敗して私の糧となったのだ!)」
「…っ!糧って…」
「(知らないのか。喰われる前に教えてやろう。死神といえども万能ではない。霊のほうが強ければ霊に喰われてしまうのだ。死神を喰った霊は更なる力を得て強くなりまた糧を得るのだよ!)」
ヤバイ、と修子は銃を握り締める。そのとき完全に瀬戸の存在を忘れていた。ただひたすら目の前の敵にどうやって勝つかを考えていた。しかし気持ちも自分の力も完全に敵に負けていた。それもこの状況の中冷静に感じていた。
「喰われなんかしねー!!」
修子は渾身の一撃を霊に向って放った。いままでの弾丸よりも素早く霊に向って行った。しかし霊は笑いながらそれをよける。修子の渾身の一撃は闇に消えた。
「(悪あがきだな。さて、そろそろ私のほうからやらせてもらおうか)」
と青白かった物体が急に光を増し、物凄いスピードで修子に迫ってきた。修子は寸でのところで身をかわす。しかし腕に激痛が走る。みると赤く腫れていた。
「(避けたか、次はどうかな?)」
「っつ!」
修子も負けじと銃を構えるがその前に霊に弾き飛ばされてしまった。銃が虚しく空を舞い、そのまま消えていった。修子は丸腰の状態となってしまった。もはやもう一つ銃をだす気力がない。出す時間すらも与えてくれなさそうだった。次々と霊は修子に襲い掛かり、そのたびに修子は身を翻してその攻撃をよける。しかし体のあちこちが痛み、体の自由が効かなくなってきていた。
「うわ!!」
修子は霊に足払いをかけられ地面に放り出された。地面に放り出された痛みはないが、霊が足に当ったがゆえの痛みが体中を走る。体を起こし逃げようとした時にはもう目前に霊が迫っていた。白く光り、光の中に邪悪な目を持った霊の姿をはっきりと捉えることが出来た。霊は嫌な笑みを浮かべて修子の前に立っている。
「(終わりだな。がんばった方だ。)」
やられる!と修子が目をつぶって覚悟をした瞬間、光が急に遮られた。
「私の存在を忘れてもらっては困るね。」
修子がゆっくり目をあけると修子と霊の間に長い髪をたなびかせた瀬戸が立っていた。髪が霊の光に照らされて美しく光る。瀬戸はマントを脱ぎ動きやすい姿で立っていた。
「(お前は…)」
「死神省刑事課悪霊対策本部、瀬戸直樹だ。」
「(お前男か!!)」
霊は本気で驚いている。瀬戸はそんな言葉に表情一つ変えず、鎌を手に立っていた。修子はただ呆然と口をあけてその後姿を見るだけで精一杯だった。
「せっかく出来た私の相棒を喰ってもらっては困るんでね。」
「(お前も一緒に喰ってやるよ!)」
と霊はいきなり瀬戸に襲い掛かろうとする。しかしそれより早く瀬戸の鎌が霊の体を真っ二つにしていた。
「遅い。」
霊はあっけなく夜闇から姿を消した。修子はまだ地面に座っていた。やれやれと面倒臭そうにため息をつきながら瀬戸は修子の方へ向き直る。修子はよろよろと立ち上がった。
「てめー!見てたんなら助けるとかなんかしろよ!!」
「どこまでいくかなーって。」
「ふざけんなよ!!俺がどーなってもいい…」
修子はそのセリフを最後に意識が途絶えた。そのまま瀬戸の体にまっすぐ倒れこむ。
「しょうがない奴だな。」
ため息をつくと修子の体を肩に背負い、脱いでいたマントを拾い上げてから現れたエレベーターの扉に入っていった。
「…は」
気がつくとそこは瀬戸の家のソファだった。慌てて飛び起きて周りを見回した。瀬戸はいない。しかし修子の体にはマントがかけられていた。
「…。香水くさっ」
「ここまで運ばせておいてそれはないだろう?」
タオルで頭を乾かしながらバスローブ姿で瀬戸は奥の部屋から出てきた。修子はマントを乱暴にぐちゃぐちゃっとまとめるとソファの端に放り投げる。
「それは感謝するよ。でも!なぜもっと早く助けを出さなかった?ずっと見てただろ?」
修子はイライラした表情で瀬戸を見上げる。瀬戸はタオルドライの手を止め、タオルで髪の毛をまとめて上に固定する。
「合格だ。」
「?」
「お前がどこまで出来るか見させてもらった。一緒に組む以上はある程度強くないと困る。最後の仕事ははっきりいって初心者のやる仕事じゃないが、あえて部長に入れてもらった。あれは私ぐらいのレベルのものがやる仕事だったがその霊に対して最後まで気を抜かなかった。体力不足は修行で何とかなるだろうな。そういったところから私のパートナーとしてやっていけると見極めた。」
修子は急に大人しくなった。一応、気を使っていてくれたようであるし、自分の実力が到底相棒にはかなわない現実を知ったのもある。わずかに残る傷の痕を修子は無意識に触っていた。
「そっか…」
「これで研修は終わり。次々仕事が入ることもなくなる。」
やれやれ、と瀬戸はため息をついて修子の横のソファに座り足を組んだ。
「あ、ありがとう。」
修子は素直に言った。瀬戸は特に表情も変えず軽く頷く。
「ちょっと冷や冷やさせられたな。あーそうそう、修子」
初めて名前を呼ばれ、修子は驚いた。瀬戸は優しく微笑んでいる。その微笑みをみて修子は何か嫌な予感を感じ取った。
「報告書、よろしく」
「…。」
こうしてデコボコペアは出来上がったのである。
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