ファイル2 相棒3

修子はまっすぐに手を伸ばし手の中の銃を瀬戸の眼前に向けた。しかし瀬戸は恐れも驚きもせずじっと修子の顔を見ていた。

「それが、お前の武器か。子どもが飛び道具とはね」

「黙れよ。さっきから人を待たせすぎたり、おちょくるようなことしやがって、何様のつもりだ!新人だからってバカにするなよ!」

「何様、って、私は瀬戸サマだ」

しれっと瀬戸は言い放った。気の短い修子は迷うことなく引き金を引いた。短銃とはいえ結構な音が部屋に響き渡る。間違い無くあの距離で打った弾は瀬戸を貫通しているはずだった。が。

「お前な…天界の人にそんなもの向けたって意味がないってのは部長から聞いているだろうに。」

貫通したはずだったが、瀬戸には傷一つついていない。穴すらも空いていない。穴があいたのは家の壁だけだった。修子はまだ銃を握りしめ銃口を瀬戸に向けていた。

「わかっている。だけど!これが撃たずにいられるかっ!!」

「ま、慣れてないだけさ。そのうちここの生活にも慣れる。そうすればイライラすることもなくなるだろうよ。とにかく銃を直せ。なんともないとはいえちょっと物騒だぞ?あーあーもぉ…壁に穴があいたじゃないか。」

まぁまぁ、と瀬戸は修子をなだめる。修子も一応初対面ということもあって大人しく身を引いた。銃は修子の手の中で煙のように一瞬で消える。

「武器をいきなり見せられてしまったからな、うーん。じゃ、一応私も見せておくか」

と瀬戸は修子が座ったのを確認すると、右手を広げて、すっと前方にさしだした。すると一瞬にして長い柄に鋭い大きな刃がついた鎌が目の前に現れた。刃と持ち手の棒との繋ぎ目には瀬戸の瞳と同じような深い紫色の大きな石が付き、その石の周りには金属による装飾が施されている。

「か、鎌」

「だって死神だからな。下界では『死神』は『魂を狩る鎌』をもっているってことになっているんだろう?イメージ崩しちゃ悪いだろ。だから鎌なんだ」

修子はもはや言い返す気力を失っていた。どうやら瀬戸は下界のイメージを意識して『死神』をやっているようだ。多少のズレはあるとしても確かに瀬戸の外見は下界で一般的に言う『死神』そのものであった。彼ら、天界人の武器はそれぞれが好きなものを持っていた。修子の場合、ただ単に「かっこいいから」という理由で銃を使用している。天界では全てが意識によって作られている。武器もそれぞれの意思によって好きな物に変えられるのだ。また相手に与える威力というのも本人の意識の強さ次第でどうとでもなるという世界である。だから瀬戸は修子に打たれても平然とし、かすり傷ひとつつかなかったというわけだ。修子はこっちの世界に就職していから今まで、ずっとその『意識』をコントロールするという特訓を相川部長から受けていた。

「で、何を説明すればいいんだ。仕事の仕方なのかな。」

瀬戸は鎌を消し、ソファの背もたれから身を起こした。

「アレを持ってるか?手帳。」

「このスマホみたいなものか?」

と修子は腰につけているポーチから、少し分厚い端末を取り出した。そう、と瀬戸は頷き自分もポケットから取り出した。その手帳はまぎれもなく下界で言うスマートフォンだった。瀬戸は画面を操作しながら説明を始める。

「仕事の有無は自動的に自分の手帳に送られてくる。それは…えーと、画面にある『仕事のお知らせ』を押せばでてくる。」

言われるままに修子は画面を操作した。

「おお、すげっ。あ、何か入っている。これか?」

修子の画面には『未消化の仕事:1件』とでている。瀬戸も自分で操作をしてそれを見ると嫌な顔をした。

「…仕事があるみたいだな。その画面にある『詳細』を押すんだ。すると詳しい情報が入っている。きっと部長が簡単な仕事を入れたんだな。」

「ええと、『不法地縛・昇天妨害の罪』。霊は4人…」

「じゃ、早速行って実際の流れを理解してもらおうか。」

と、瀬戸は立ち上がった。修子も慌てて立ち上がる。しかし瀬戸は手で修子を止めた。

「?」

「着替えてくる。」

「…早くしろよ」

この期に及んでまだ着替えるのか、と修子はまたイライラしだした。勿論瀬戸がその後長い長い間、修子を待たせ続けたのは言うまでも無い。




修子は出てきた瀬戸の姿を見てため息をついた。瀬戸はそれこそ完璧な『死神』スタイルで現れたのである。濃い紫色のフードつきの長いマントをはおり、耳元には先程よりも派手で長いイアリング。そして先程とは違う髪形。しかも微妙に凝っている。そして手には鎌。紛れもなき『死神』スタイルである。

「…それで行くのかよ」

「いつもこの格好だ。」

「動きにくくないのか?悪霊と戦うんだろ?」

瀬戸はフードの奥からニヤリと笑った。それがまた不気味な美しさだった。化粧でもしたのかコイツ、と修子は眉をしかめる。

「一糸乱れず、美しく戦うのが私のポリシーだ。まぁ見てればわかる。」

「ほんとかよ」

「さぁ、行くぞ。」

と瀬戸は玄関へと颯爽と歩いていく。チャリリと耳元のイアリングが甲高い音を立てた。修子は仕方なくその後に続いた。こんな奴と仕事するのか、とげんなりしている。

「まずは、死神省へ行かなければね。そこから移動だ。」

「はぁ…」

修子の死神としての生活が幕をあけた。

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