ファイル2 相棒2
相川が修子を残し、瀬戸の家を出て帰ってしまった。修子はなんとなく心細い思いをしながらもそこに留まるしかなかった。目の前には女にしか見えない男がバスローブ一枚でまだ髪の毛をタオルで丁寧に拭いている。修子はただそれを呆然と見て立っているしか出来なかった。瀬戸がそれに気付く。
「座れよ。遠慮はいらない」
「あ、はぁ」
瀬戸は毛先を少し持ち上げてじっくりと見ている。
「こうやって丁寧にやらないとね、毛先が痛むんだよね。ちなみに今使っているのが『ボタニックヘア』ってブランドで。下界にあるだろ?」
「え。あ、あの?」
そう、下界でよくCMにも流れているシャンプー&コンディショナー『ボタニックヘア』である。修子は疑問に思った。何故下界の物がここにあるのだろうと。しかも修子の記憶にも新しい商品だ。
「『ルックス』も使ったけど、最近はコレだね」
「そ、それも?どうして?」
瀬戸は何が?と毛先から目を上げた。
「どうして?って?仕事の報酬に決まってるだろ。聞いてないのか?」
「『相棒に聞け』と言われたので何も」
やれやれ、と瀬戸はため息をついた。
「そうか、説明を全部私に押しつける気だな。まったく、部長も人使いが荒い。わかった、説明してやろう。着替えてくるからしばらく待っていろ」
そう言って瀬戸はゆっくり立ち上がると、奥の部屋へと消えていった。修子はただその後姿を見送るだけで何もいえなかった。
(なんかエラそうな奴。でも一応仕事はしてくれそうだな)
瀬戸が消えてから修子はふうっと大きなため息をついた。そしてソファに遠慮がちにもたれる。ソファはとても座り心地が良かった。思わず眠たくなってしまいそうだった。これも報酬で手に入れた物なのか?と修子は思った。そして改めて部屋の中を見回す。今座っているソファの前に机があり、その向かいにさっきまで瀬戸が座っていたソファがある。そして修子の座っているソファの右側にもサイズの小さいソファがあり、その正面、修子の左側にやたらと画面の大きなテレビがあった。
(テレビ……?何が映るんだここは)
修子はちょっと生きている時に見ていたアニメを思い出した。少し続きが気になったようである。それから見回すとさらに奥に瀬戸の消えていったドア。ドアの隣には階段があってどうやら2階へと続いている様だった。またシステムキッチンとダイニングテーブルが置かれ、まさにモデルルームだった。机の上には何も無駄なものはなく美しいし、部屋のさりげない所に観葉植物がおいてある。
(……こいつ一人暮らしだよな?一人にしては大きすぎる気がするが?パーティをしょっちゅうやるとか?)
そんな疑問を抱えつつも、部屋を探索するわけにもいかず、ただじっと瀬戸が来るのを待っていた。
(っていうか……遅い!!!)
瀬戸はいつまでたってもやって来る気配はなかった。しかし部屋をのぞこうにも初対面でさすがにそれはまずいと思い、動くことが出来ない。動くことが出来ないままかなりの時間が過ぎ、修子はいつのまにかソファで眠り込んでしまった。
「待たせたね」
修子はその声にはっと目を覚まし、いつのまにか横になっていた体を勢いよく起こした。そして慌てて目をこすり声のするほうに目を向けた。修子の目を擦る行為が無駄なくらい、瀬戸の姿を見た途端一気に目がさめる。修子は開いた口が塞がらなかった。
「……な」
それはもう丁寧すぎるくらいに結われた髪。頭のかなり高い部分でくくられ、ポニーテールとなっている。それとは別に故意におろした数束の横の髪の毛はこれまた丁寧に編みこんであり、何かしらアクセサリーもついている。ついているのは髪だけではなかった。耳にはジャラジャラと長くたくさんの飾りがついた耳飾りが揺れている。下界でいうアジア系のデザインのものだった。そしてラフに着ている濃い夜の空のような紫色のシャツと黒のズボンといういでたちだった。
「いいだろ?この耳飾り。死神って感じで」
「死神ってかんじ……ですか。まさか今までこれに時間をかけて……」
「当たり前だ。やはり美しく見せるためには時間と手間を惜しんではいけない」
瀬戸はソファに座ると長い足を無造作に組んだ。修子は呆然と瀬戸を見つめていた。
「今日は初めてだし、そんなに手はかけてないんだけどねー」
(それでかっ!?)
「あ……あのもしやこれは毎回」
「当たり前だろう?それよりもこの耳飾りはどうだ?下界から来た者として、下界のイメージとあってるかどうか聞きたいね」
修子は短気だった。
「ざけんじゃねーーーーーーーーー!!!!人をアレだけ待たせておいてその態度はねーだろ!?」
怒鳴りながら立ち上がった修子を瀬戸は冷静に自分の髪の毛をいじりながら見ていた。
「いいじゃないか、時間なんてあってないようなものだし。少しくらい待っても損はないぞ?むしろ美しい私が拝めるのだから得ではないか」
「俺は気が短いから待ちたくないんだ!」
「短気は損気、そういう言葉があるじゃないか。まぁ確かに下界からきて間もないから、時間を気にするのはしょうがないといえばしょうがないか」
相変わらず瀬戸は足を組み、冷ややかな目線で修子を見ている。いつまでたってもそんな態度の瀬戸にとうとうキレて、修子は自分の武器を取り出した。
「それ以上ナメた態度を取ったら、撃つぞ」
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