ファイル1 採用面接2

「それって死ぬ人の魂を狩るってやつだろ?それが俺の仕事!?」

「ん~~~ちょっと違うけど人の生死にかかわるという点では同じだな」


 相川という男がなんとなく頷いた。


「まず人というのはね、最初から生きる年数が決まっている。それは全部、君たちの言う神様がだね、決めるんだよ」

「神様、いるのか?」


 修子は身をのりだした。勿論信じてはいなかったが、いざ死後の世界の人間に言われるとやはり気になった。


「そうだよ、ただ誰も見たことはない。ここの世界でも見ることは出来ない。でもその神様の意思を知る部署があってね」

(なんだ、つまらない)

「その人たちが一番特殊な仕事だねぇ……えーとまぁ天使って感じかなあ」

(なんだかもう訳がわからん)


 修子は話をいちいち理解していくことをあきらめた。その様子を認めて真ん中の男が口を開く。


「とにかく、君はここで働いてもらう。部署は死神省刑事課」

「け……刑事」


 なんだかかっちょよさそうだ、と修子はちょっと喜んだ。しかしすぐに、どうして天界に刑事課があるんだ?と疑問符を浮かべた。そして続きがあった。


「……の中の」

「の?」

「悪霊対策本部」

「……なんだそりゃ」


 修子は口をぽかんと開いてしまった。まるで今まで生きてきた世界の警察と似たような感じであったので、ちょっとした期待はずれな気持ちを抱いていた。もうちょっと『あの世』らしい何かがあるんじゃないかと多少期待はしていたのにこの有様。


「ま、あっちの世界で未だにさまよってるタチの悪いやつらを捕まえるんだね」

「捕まえる……警察みたいな」

「天界では、地上でさまようことが犯罪なのだよ。さっさと次の生を受けてもらわないとねぇ。いつまでも恨みや思念を抱いて地上にいても何にもならんのに」


 まさしく役所的な物言いで真ん中の男がつぶやいた。回りもそれに同意する。


「それで周りの関係ない、ちゃんとした寿命のある人たちを引き込んで仲間にしようってんだからほんとにもう!!」

「はぁ」


 勝手にイライラし始めたおじさん達を修子は冷めた目で見ている。


「そんな奴らを捕まえるのが君の仕事。君はその辺の事情はよくわかるだろう?地上で死んだあともさまようことがどれだけバカでこっちの世界に迷惑がかかるか……」


 なんとなく、と修子は頷いた。修子自身この世に何の未練もなく逃げてきたので、地上でさまようなんて考えはカケラもなかった。そんなさまよう魂たちに同情せず捕らえてくることが出来るであろう、という天界の人々たちのもくろみがあったようである。


「そのための訓練は後でしていってもらうから。あーちなみに、ここには時間という感覚がない。でもそれだと下界で起きたことの処理がややこしくなる。だから時間というものは存在しないが、下界のリズムにあわせて動いている。ちょっとややこしい感覚かもしれないが慣れてくれ。そんな感じで天界は下界と似たシステムになっているところがたくさんあるんだよ」

「それでこんな役所なのか……」


 妙に納得してしまった修子であった。


「それにしても……日本人しかいないのか?」


 事実目の前にいる3人は日本人の典型的なオジサン達だし、そのうちの一人も『相川』と立派な日本人の名字である。右端の男性が修子の問いに答えるべく説明をはじめた。


「もちろんそれぞれの国に対する天界人はいる。言語も勿論違うがそれは問題にならない、ここではね。」

「言語が違うのに伝わるっていうのか?」


 修子はローマ字しか知らないし、日本語以外の言語なんて習ったこともなかった。英語だってしゃべれるはずもなく。


「それも含めて、訓練の時に全てを話そう」

「訓練?」

「そのまま狩りにいっても逆に引き込まれてしまうだけだ。特に君は幽体出身だからね。下界でさまよっている奴らに誘われて飲まれてしまうかもしれないからね」


 相川という男が真剣な眼差しで説明した。さすがにこれには修子も顔を引き締めた。そんな深刻なムードをよそに一番右端の男が書類をめくりながら次の話に移ろうと呑気な口調で喋りだした。


「それから給料の話だけど」

「……貰えるのかよ、てか使うところがあるのか?」


 修子はまたかぱん、と驚いて口を開けてしまった。


「お金じゃないよ。あってもこんな所では役に立たない。欲しいものはほぼ支給されるし。で、色々なパターンがあるんだけどねぇ……うーん面倒くさい」

(ダルっ!?)


 男は書類を下界によくあるA4サイズの茶色い封筒に詰め込んだ。


「君のパートナーがよく知っているから彼に聞くといい」


 そうだな、と残りの二人も頷いた。


「パートナー?」

「基本的に二人一組で仕事だ。危険だからね。でもまぁ君のパートナーは腕がいいし大丈夫だろう。問題は彼の人格だけだしね」


 それは一番の問題じゃないのか?と修子は首をかしげた。相川もにっこり笑って頷いている。


「人格はともあれ、仕事の能力はすごく高い。それに天界の決まり事をよく知って要領よく動いているからね。ここでのことは彼に聞くのが一番いい」

「彼から説明を聞いて、望む報酬の形態をあとで教えてくれ」


 真ん中の男が付け加えた。


「お、押し付けてるような」


 修子はやれやれ、と肩を落とした。右端の男がダルそうに席を立ち、修子に茶封筒を手渡そうと差し出した。修子も慌てて立ち上がってその封筒を受け取る。


「じゃ、これ書類ね。中に規約とか色々入っているから読んでおいて。面接はこれで終わりだ。いい仕事をしてくれることを期待しているよ」

「採用おめでとう!」


 相川が満面の笑みで修子に拍手を送った。真ん中に座っていた男性も微笑みながら席を立ち、いそいそと部屋を出て行く。これで面接はお開きのようだ。




 こうして修子は晴れて天界の公務員となったのである。

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