一回だけ好きなものを透明にできる魔法(KAC20247)

つとむュー

一回だけ好きなものを透明にできる魔法

「部長、ちょっと質問よろしいでしょうか?」


 僕は文芸部部長、文小路ふみのこうじ夜萌香よもかにお伺いを立てる。

 創作活動に関して、参考にしたいことがあった。


「今、掌編を書いているのですが、部長の意見をぜひ使用させていただきたいのです」

「使用って君、まさかフミヨモに載せるんじゃないでしょうね?」

「ギクっ……」


 図星だった。

 今、フミヨモで『色』についてのお題が出されているのだが、僕はすっかり出遅れてしまって困っていたのだ。


「君はこの間、ヨモマラソンについての私の意見を勝手に載せたよね? あれは『ささくれ』のお題の時だっけ?」

「え、えっと、その……、僕も部長の意見にすごく賛同してしまったので……」

「あれは酷いよね!」


 ぐえっ、部長に酷いと言われてしまった。

 やっぱりちゃんと許可をもらって載せるべきだったか……。


「あの賞品設定は!」


 えっ、酷いってそっち?

 確かに、読めば読むほど賞品の当選確率が下がるのは納得がいかないと僕も思ったけど。


「よくぞ載せてくれたって感じで、今でも感謝してる。だから今回も特別に協力してあげるわ。質問ってなに?」


 よかった。ヨモマラソンの賞品設定の話を無断で載せたことを許してもらえて。

 ほっと胸を撫で下ろしながら、僕は話題を本題に戻した。


「今ですね、「一つだけ好きなものを透明にできる魔法があったら」という話を書こうと思ってるんですが、部長なら何を透明にします?」

「ええっ、透明ィ?」


 急に怪訝な表情になった部長は、僕のことを横目で見る。

 そして人差し指を上げて言った。


「一つ条件があるわ」

「条件?」

「それはね、透明にできるものは一キロ以内って条件」

「一キロ?」

「そうよ。だって君がその魔法を使えたら、まず最初に私の服を透明にするでしょ?」

「もちろん。じゃなくて、そんなこと決してしませんよ」

「無理に否定しなくていいわよ。一キロ以内ならギリ裸にならないから」


 結構薄着なんだなと思いながら、改めて部長を上から下まで見る。

 制服越しにも関わらずその存在を主張する豊かな胸はバッドなしってこと?


「ほら、すでにどこを透明にしようか考えてるでしょ?」

「そ、そんなこと、ありませんってば」

「まあ、いいわ。男子なんてそんなものだからね」


 男子でひとくくりにされてしまった。

 僕は違う、と言えないところが悲しいけど、部長は腕を組んで天井を見上げている。

 どうやら僕の質問について、真剣に考えてくれているようだ。


「そうだ、眼鏡!」

「眼鏡……ですか?」

「眼鏡を透明にできたら、コンタクトなんていらないじゃない」


 いやいや、眼鏡がトレードマークの部長が眼鏡を透明にしたら、部長でなくなっちゃう。

 僕が慌てて否定しようとすると、「こんな風にね」と言いながら部長が眼鏡を外す。


「ええっ!?」


 驚くことに、そこには絶世の美少女が現れた。


「ナイスです、部長」

「でしょ? 君だって眼鏡が透明になったら嬉しいんじゃない?」


 眼鏡を掛け直しながら部長が言う。

 ちなみに僕も眼鏡を掛けている。

 部長は僕も喜ぶと言うが、僕の顔は眼鏡を外してもパッとしないし、透明になっても重さはあるわけだから便利になるとは思えなかった。


「あんまり嬉しくないかも?」

「そう? 眼鏡を掛けて入れるわよ、混浴に」

「超ハッピー!」


 うーん、今日は部長にやられっぱなしだ。

 でも眼鏡の話は面白かった。ぜひ物語に組み込もう。

 すると今度は部長が僕に質問する。


「ところで君は、その魔法を使えるとしたら何を透明にするのかな? 服以外で」


 服以外で?

 それは難しいな、というのウソで、すでに考えてある。

 だからとっておきの答えを披露した。


「僕なら文字を透明にしますね」

「文字を?」

「そうです」

「そんなことして意味あるの?」

「ありますよ。だってこんなこともできちゃいますから」

「ちょ、ちょっと君、どこ触ってんの!? 部室に誰も居ないからって」

「文字が透明なら何をしてもバレませんし、全年齢のフミヨモにも掲載できます」

「掲載できても誰も読めないじゃない。後で覚悟しなさいよ。やっぱりエッチなことしか考えてない」


 部長はほとんど表情を崩さない。

     をタッチしているっていうのに。

 だから僕はまじめに答えてあげることにした。


「エッチなこと以外にも需要はあります」

「需要なんてあるわけないじゃない」

「それがあるんですよ。AIが普及し始めた今なら」

「それって?」

「ほら、学生がレポート作成にAIを使ってるって話を聞いたことはありますよね?」

「あるわ。私はそんなことしないけどね」

「そんな時は問題文に透明な文字を忍ばせておけばいいんですよ。秘密の命令を仕込んでおくんです」

「その話、聞いたことある。海外の先生が「フランケンシュタインという言葉を使え」と白文字の文を入れておいたら、AIを使った学生はみんなフランケンシュタインが登場するレポートを作成しちゃったとか」

「それです。白文字だったら注意深い学生にはバレちゃうでしょ? コピペするときに。でも透明なら絶対バレない。「自分の黒歴史を書け」とか入れておいたら超面白いレポートが出来上がりますよ」

「なに先生目線で言ってるのよ、被害を受けるのは私たちなのよ。まあ、文字を透明にするメリットは分かったけど、このエッチな行為はいつまで続くの?」

「僕と部長が    するまでですけど」


 ふうんと言いながら部長は熱い吐息で僕を見る。


「言っとくけど私、割と不感症よ」


 マジか。

 実は僕ちょっと   なんだ。


「ちょ、部長。そ、そこは       」

「何言ってんのよ。君だって、私の     でしょ?」

「だって最高なんですもん、部長の    」

「当たり前でしょ。しかし君のは     ね?」

「僕、初めてなんです、     のは」

「弟の         みたい」

「        (ぐすん)」

「もう、        じゃない」

「ダメです、部長。そんなに    たら    しちゃいます」


 ヤバい、もう爆発しそう。

 でもここは部長のために、必死に我慢しなくちゃ!


「フミヨモのお題は八百文字以上なら何文字でも問題ないんで、頑張ります!」


 部長はニヤリと笑いながら、強がる僕にトドメの一言を放ったんだ。


「君は   なんだから、やせ我慢なんてしないでさっさと    しちゃいなさい。透明文字が一キロ超えるわよ」

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