第7話 親友と信頼
「お、おはよう。七海」
「お、おはよう。和弘」
学校に登校するべく2人はいつも通り集合するのだがいつもと違いどこかぎこちない。
その理由はもちろん昨日の配信でのハグである。
あれから和弘は心臓の昂ぶりが止まらず夜もよく眠れていなかった。
でもなぜこうも心臓がうるさいのかはわかっていない。
「と、とりあえず学校行こうか」
「そ、そうだね」
2人で横並びに学校を目指すが心なしかいつもよりも口数が少ない。
それに間の距離もいつもより開いていた。
ロクに喋れないままいつの間にか教室に到着してしまう。
顔出し配信でプチバズリがあったものの世間全体で見ればそこまで大きいものではなくクラスで配信を知っている人はいない様子だった。
「じ、じゃあまた放課後に」
「う、うん。またね」
七海はクラスの友達グループのもとに歩いていき、和弘は自分の机に突っ伏す。
そして思うように七海と話すことができない現状に自分でも困惑していた。
授業もあまり集中できずあっという間に昼休みになる。
「よう、和弘。どうした?今日はあんまり集中できてなかったみたいだけど」
「千秋……俺は……」
和弘の様子に話しかけた千秋は苦笑する。
どうやら予想以上に参っているらしい、と。
「どうせ海本さんのことだろ?」
「っ!?なんでわかるの!?」
「お前らの朝からの様子を見てれば想像つくっての。相談乗ってやるから一緒に飯食おうぜ」
「千秋……!」
和弘にとってはまさに舞い降りた神。
こんなにもありがたい話はなかった。
2人は空いている教室に移動し椅子を持ってきて弁当を開く。
「で、海本さんと何があったん?」
「実は……」
和弘は正直に昨日あったことと今どうなっているかを話す。
千秋は笑ったりバカにしたりせず最後まで真剣に和弘の話を聞いていた。
そして話が終わると千秋は腕を組んで考え込む。
「うーん、原因と解決法はわかった」
「本当に!?じゃあ教えてほしい!」
「悪い。それはできない」
和弘はなんでだと理由を聞きたくなってしまうが千秋の表情に悪意やふざけはなく真剣そのものだった。
故に問い詰めることができなくなってしまう。
「俺が言ってしまうのは簡単だ。でも俺は言わずにお前に向き合ってほしいと思ってる」
「それが……千秋が一番良いと思える選択なんだよね?」
「ああ、そうだ」
「わかった。じゃあ俺はもう聞かないことにするよ」
「そうしてくれると助かる」
真剣なムードは消え2人は笑顔になる。
そして仲良く弁当を食べ始めた。
「その弁当は海本さんに作ってもらったのか?」
「ううん。これは俺が作ったものだよ。流石に弁当は平日毎日あるし七海に迷惑をかけるわけにはいかないからね」
「お前は相変わらずなんでもできるよな。できないこととかあるのか?」
「そりゃあ人間だしあるよ。ゲームだって七海に全然勝てないしね」
和弘が苦笑しながらいうと千秋は大笑いする。
七海のゲーム好きは千秋も知っているのだ。
「七海は本当にゲーム上手いからね。本当にびっくりしちゃうよ」
「意外だよなぁ……海本さんがゲーム好きなんて」
「そんなことないよ。七海だって一人の女の子だからどんな趣味があってもおかしくないし意外でもない」
「お前は本当に優しいよなぁ……」
千秋は優しい笑みを和弘に向けながら食べ終えた弁当をしまう。
和弘も弁当をしまいつつ首を横に振った。
「そんなことないさ。当たり前のことだよ」
「その当たり前のことができる奴が少ないんだよ。だからお前はいい奴なんだ」
突然親友から褒められ和弘は気恥ずかしくなる。
だが千秋からすればそうやって驕らない和弘の性格がなんとも好ましかった。
「一つお前にアドバイスするよ。自分が海本さんをどう思ってるのか、これからどうしたいのか。そんな自分の気持ちとしっかり向き合うんだ。自分の気持ちを、だぞ」
「……うん。わかった。一度しっかり考えてみるよ」
「ああ、そうしてくれ」
千秋は安心したように笑う。
そして千秋はスマホを開き和弘にも聞こえないくらい小さくつぶやいた。
「幸せになれよ。カズ、ナナミン」
その画面には自らが編集した和弘たちがプチバズリを起こしたきっかけとなった顔出し配信の動画が映っていた。
その男は誰よりも親友の幸せを願って笑ったのだった──
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