第6話 幼馴染と罰ゲーム
「は、はい雑談配信はもう終わり!みんなお金はもっと大切にしてね!?」
スパチャの連投から始まりコメント欄もカオスと化してきて収集がつかなくなってきたので無理やり雑談配信を終わらせる。
中々に機転の効いた行動だったと思う。
『なんかお金をあげてしまいたくなってまうんよな笑 孫ができたらこんな感じになるんだろうか笑』
『2人のデートの動画も上げてほしいです』
七海は連日からかわれて若干拗ねているのかコメント欄を無視して昨日と同じく野球ゲームを開く。
和弘も自分でもこの状況は収められないと理解しているので苦笑を浮かべながら七海の手伝いをした。
「それじゃあ今日は私と和弘の対戦で!」
「まあそれくらいしかないよね」
このゲームにはいろんなモードがあるが2人でできるものは存外多くない。
それゆえに自然と2人で対戦するのが多くなってしまうのだが今回は質問で多数決を取ってるしいつも通りでいいだろうとの判断だ。
「今日も絶対に負けないよ!」
「俺もただで負ける気はないさ」
チーム選択で七海は東京ドームが本拠地のチームを選び、カズは甲子園が本拠地のチームを選ぶ。
そしてカズがじゃんけんで後攻を選び甲子園球場で試合になった。
『ちょっ!2人ともなんでそのチーム選びなん!?笑』
『わざわざ犬猿の仲のチーム選ぶとか気が合うのか合わないのかwww』
『凹凸コンビじゃん!』
そう、2人が選んだチームは永遠のライバルでありファンどうしの仲もそこまでよろしくない。
だが2人とも好きなチームを選ぶとこうなってしまうのだ。
「今日こそカズにこのチームの良さを教えてあげるんだから!」
「その言葉そっくりそのまま返すよ。去年の優勝チームだよ?負けるわけ無いじゃん」
2人は別に喧嘩しているわけではない。
ただじゃれ合っているだけだ。
本人たちにその気は無いんだろうが第三者からすればお互いキャッキャウフフしているようにしか見えずなんとも微笑ましい気分になった。
「それじゃあ開始ね。どんどん打っちゃうよ〜!」
「ウチの投手陣は豊富だぞ?そう簡単に打たれるはずがない」
「うそ!?初球からそこ投げてくるの!?」
「はは、次はここかな?」
「それは甘いよ!」
「えっ!?今のコースでそんなに飛んでいくの!?」
初回からお互いの打球が飛び交う乱打戦にもつれ込む。
お互いの性格と配球を知りすぎているがゆえに抑えるのも難しい。
逆に打つときの癖も知られているため打つのも難しい。
2人の間では普通に友達と対戦するときよりも何倍も高度な頭脳戦と駆け引きが繰り広げられていた。
『なんだかんだ仲良いんよな』
『この世界って平和すぎん?なんか見てて疲れ取れるわ』
『っていうかCP相手に三振しまくったカズがナナミン相手なら打てるのワロタ』
「あはは、ナナミンとはずっと対戦してきてますからCPより打ちやすいんですよ」
そう言ってカズは再びヒットを放った。
その横でナナミンが悔しそうにカズを見ている。
なんとも平和すぎる世界だった。
そしてその平和な世界をぶち壊すスパチャが届く。
『お疲れ様です!負けたほうが勝ったほうにハグでお願いします!』
なんと罰ゲームの要求。
しかも内容はオーバーに過激とは言えず断れないタイプのスパチャだった。
個人情報とか運営にBANされそうなものは断る、というのが2人のルールなのだが今回のそれはそのルールに接触していないのである。
2人の気持ちは一つだった。
((ハグされてみたいけどハグするのは恥ずかしい……!))
点差は五分五分。
残りイニングも僅かで勝負がどう転んでもおかしくはなかった。
2人はより集中して画面に向かう。
そして気づけば……
『なんかこの試合激アツすぎん?普通に野球観戦してる気分なんだがwww』
『ビールが最高に美味いっす!おじさんたちには青春と野球の組み合わせは楽しすぎる!』
『最終回1点差で2アウト2、3塁とかおもしろすぎる笑』
コメントの通り和弘の最後の攻撃は2アウト2、3塁で更に二塁ランナーに代走を送りこの一打で試合を決めるつもりだった。
そして七海も外野を前に出して逆転だけは絶対にさせないという気合を感じる。
「これで終わりだよ……!いけっ!」
七海のチームの投手がモーションに入りボールを投げる。
そのボールはミットには吸い込まれず和弘のバッターが捉えた。
「よしっ!」
「嘘!?」
三塁ランナーが帰ってきて同点になる。
そして和弘はもうこのチャンスは二度と来ないと判断して二塁ランナーも回した。
打球は守備位置から多少ずれてはいるものの浅い。
帰ってこれるかは微妙なところだった。
そしてキャッチャーにボールが渡りランナーが滑り込む。
クロスプレーの判定は……セーフだった。
「よっしゃああ!!」
『うぉぉぉぉぉぉ!!!』
『カズが勝った!』
『熱すぎる試合だった!』
七海はその判定にがっくりとなる。
それくらいどっちの判定になってもおかしくないくらいギリギリのタイミングだった。
「うぅぅ……◯さんのレーザービームがぁ……」
『ってことはナナミンがカズにハグするってことかな?』
『いつもやってるっぽいしあんまり罰ゲームにならないんじゃね?笑』
コメント欄でそう言われハッとする七海。
みるみる顔が赤く染まっていった。
「え、えっと……無理しなくてもいいからね?」
「む、無理じゃないもん!カズとなら……別に嫌じゃないから……」
そう言って七海はギュッと和弘を抱きしめた。
七海の言葉とハグの組み合わせの威力は絶大で和弘も顔が赤くなるのがわかる。
お互いの心臓が跳ねる音が伝わっていた。
今まで以上にバクバクと心臓の音がうるさい。
「は、はい!おしまい!」
「あ、ああ……」
和弘は思わず力が抜けてその場に座り込む。
七海は恥ずかしいのか顔を手で覆っていたがその耳は取り繕いようもないほど赤く染まっていた。
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