第5話 幼馴染と手つなぎ

夕方、和弘と七海はソワソワしながら配信部屋で時間を過ごしていた。

それもそのはず、まだ配信は始まっていないというのに見たこともない数の人たちが待機中になっている。


「な、なんか緊張するね……」


「そ、そうだね……こんな人数の前で配信なんてしたことないし……」


実感が湧かなくて地に足がついていないようなふわふわとした感覚がする。

しかし無情にも配信の時間はやってくる。

和弘は恐る恐るカメラをオンにした。


『来た!』


『待ってました!2人とも揃ってるね〜!』


『今日はどんなイチャイチャを見せてくれるんだい?』


カメラがついた瞬間コメント欄が動きまくる。

今までにない配信の始まり方に和弘も七海も動揺を隠せなかった。


「ど、どうも〜!ナナミンです!」


「カズです。今日はよろしくお願いします」


今日の企画は赤と緑のヒゲのおじさんを操作してコースをクリアしていく国民的ゲームをやる予定だった。

だが特に縛りプレイとか、他の配信者のように面白い何かがあるわけではないのにこんなに集まってもらってもいいのだろうか、という不安が2人の中にはあった。


「え、えーっと……ちょっと今から質問投げるから今日の配信何やってほしいか答えてほしいな」


今日の配信は何をやるかあらかじめ連絡していない。

ならばこのように直接視聴者に聞いてしまえばいいと暗黙の了解でアドリブで質問まで進めた。

そしてその結果が出る──


「えっ?雑談配信?みんな雑談配信がみたいの?」


Vチューバーとかならまだしも自分たちはゲーム実況者。

まさか雑談配信が第一位に来るとは思ってもみなかったのだ。

ちなみに第二位は昨日もやった野球ゲームの対戦だ。

これにより前半は雑談、後半は野球ゲームをすることに決める。


「えーっとそれじゃあ雑談しましょうか。ナナミン何かネタある?」


「いきなり私に全振りするの!?え、えーっと……どうしようかなぁ……」


残念ながらテレビに出ている芸能人たちのように突発的なおしゃべりに得意なわけではない。

いざなにか話せと言われても困ってしまう。

そんなとき一つのスパチャが届く。


『この雑談中は手を繋いでほしい!尊い2人を目に焼き付けたい〜!』


「「うえっ!?」」


スパチャの色はなんと赤。

高校生の2人にとってそれは高額であり断るわけにもいかない。

なんせ内容は手を繋ぐという幼稚園みたいな超健全なもの。

昨日のバックハグよりは遥かに見せても大丈夫な部類で2人は顔を見合わせて頷きあった。


「じゃ、じゃあ……」


「う、うん。手を繋ごうか」


恐る恐るゆっくりと手を出し手が握られる。

これくらいはなんともない接触──のはずだった。

そう思っていたはずなのにお互いの指先が触れた瞬間、思わず手を引っ込めてしまう。


「あ、あれ?おかしいな……?」


「も、もう一回やってみよう」


今度はお互いの指が触れても離れることはない。

ゆっくりと手を伸ばし掌を握るとお互いの体温がダイレクトに伝わってきて異性の自分とは違う手に戸惑いを隠せない。


『2人とも顔めっちゃ真っ赤じゃん』


『画面越しでもわかる赤さwww』


『さっきまで息ぴったりの夫婦みたいだったのに何だこの甘酸っぱい空気は笑』


こうなってしまっていた理由を2人はなんとなく理解していた。

普段はずっと一緒にいたりくっついたりもしているがそれは七海のおふざけやテンションが上がっているときがほとんど。

みんなが見ている前でこうして改めて何の目的もなくただ手を繋ぐというのが気恥ずかしかったのだ。

お互いが年の近いなのだと嫌でも感じてしまう。


「か、カズ大丈夫?顔真っ赤だけどドキドキしちゃってるんじゃないの?」


七海がニヤニヤしながら和弘をからかう。

それは照れ隠しを多分に含んでおり半分ヤケのようなものだった。


「そういうナナミンだってすっごい真っ赤だけど?付き合うのはあまり考えたこと無いって言ってなかった?」


「その言葉ブーメランだから!カズだって真っ赤なんだからそんなこと言えないでしょ!」


『なんか2人だけの世界を作り始めたんだがwww』


『おーい!俺達もいるよーー!置いて行かないでー!笑』


『初々しすぎん?これが青春かぁ……』


しばらく言い合っているとコメント欄が視界に入り我に返る。

そして2人ともさっきよりも顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。


「み、みんなからかわないで!わ、私とカズは本当にそんなんじゃないから!」


『まぁこの雰囲気なら付き合ってはない……のか?』


『普通に時間の問題やろ』


『この初々しさは狙って出せるもんじゃないから付き合ってはないんだろうな。でも何も感じない人相手に出せるもんでもないんだよなぁ』


「ざ、雑談しよう!ね?雑談!」


この流れはまずいと思ったのか七海が流れを変えに行く。

しかし視聴者はしたたかだった。


『え?今のままでもめちゃくちゃ楽しいよ?笑』


『最高です。悶えまくってます』


『若いお二人にはこれをあげよう。デート代でもプレゼント代でも好きに使ってね』


そう言って一人が赤スパを投げてくる。

すると連投の流れができあがってしまいどんどん止まらなくなってくる。

もはや金額がすごいことになり手に負えなくなったため雑談配信は早めに切り上げられるのだった──


────────────────

ヘタレちゃん改 様が七海の絵を描いてくださいました!

https://kakuyomu.jp/users/kansou001/news/16818093082116278635

まじで可愛いです笑

本当にありがとうございました!

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