第25話 大森林2
「こんなに木が生い茂っていたらお屋敷を出す場所がないんじゃないの?」
パエリが残念そうに言う。
「どこでも出せるし、お風呂やベッドならこの馬車にもあるぞ。」
だって空間拡張とお屋敷との連結をしてしまえばいいんだろう?
「えーそうなのー。ムールなんでもありなのね。」
サーフラお嬢様も嬉しそうだ。
ゆっくりと大きなお風呂に入っていつものベッドで寝るのは大切だからね。
「そうとわかれば。」
「ムール、お腹が空いたわ。」
「やっぱり。」
インベントリからつくっておいたカレーの入った寸胴を出す。
この世界でもちゃんとお米を探してご飯も炊いておいたんだ。
インベントリの中は時間の経過がないから出来たてのホカホカだよ。
みんなでパクパク食べた。
森の中に馬車が止まっている。
普通こんな大森林の深部に入って来れる馬車なんかない。
馬車を取り囲むように魔獣や妖精、精霊が集まっている。
守っているようでもあり、あるいは結界でもあるのか一定の距離から近づけないようでもある。
このあたりはもうエルフの里の支配領域で隠蔽魔法で守られているのであの馬車がここにあるのは異常なことなのだけれど。
例外がある。
あの馬車に「碧の貴石」を持った勇者が乗っているか、聖獣様が乗っているかだ。
我々は少しずつ包囲を窄めていく。
木漏れ日のように差し込む2つの月の光を馬車を包む障壁結界が反射する。
かなり強い術者が張っているのだろう。
人族よりも遥かに強い魔力を持つ我々でも解く事が出来ない。
しばらくすると息を潜めて包囲している我々に気がついたのか馬車の昇降扉が開いて小さな子供が出てきた。
子供はくるりとこちらを見回すと障壁結界の出力を我々でも通れるぐらいまで落とした。
子供の後から同じくらいの女の子が出てくるのを見て我々も警戒を解く。
聖獣フェンリル様だ。
続いてやや大きな女の子が2人降りてくる。
1人は魔道具による魔力。
1人は勇者様特有の聖魔力。
いずれも人族ではあり得ない大きな魔力をもっている。
もう1人の小さな子供はもうなんだかよくわからない、かなり抑え込んでいるのがわかるがそれでもおかしい。
「子供、お前は何者だ?」
我々はエルフの里の自警団だが、そのリーダーのクフリスが子供に声をかける。
「エルフか?エルフは魔法に長けているのだな。」
子供は我々を見透かすように偉そうな口をきく。
「魔王様に匹敵する魔力を持つ子供よ、質問に答えて欲しいのだけれど?」
「オレ?オレはムール、賢者だよ。」
心配したのかパエリがオレを抱え上げる。
「この人達は誰?」
「エルフだわ。まだこんなに沢山いたのね。」
サーフラが言う。
「もう何百年も人族の世界ではその里を見かける事がないから伝説の存在になっているわ。」
「かなり複雑な隠蔽魔法で隠されているからね。この碧の貴石が無ければ近づく事も出来ないよ。」
いつの間にか馬車の前方は明るく開けた里の入り口が現れている。
「歓迎、勇者様御一行 。」
って垂れ幕が…。
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