第24話 大森林1
大森林の深部に向けて馬車を走らせる。
車輪が宙に浮いているだけあって振動も騒音もなくて快適だ。
本来ならこの馬車はもう少し先のドワーフに合うエピソードで作るんだけれどオレはゲームでやり尽くしているのですでにインベントリに入っていた。
パエリの着ている勇者の服だってゲーム終盤で入手できるものだし聖剣も同じ。
さすがは勇者でその装備ならレベルに関係なく装備できてしまう。
ポメじゃなくって...フェンリルはパエリにくっついていて、パエリがオレに近づこうとすると邪魔をする。
またオレがフェンリルをモフろうと手を伸ばすと「ゔー。」と低い声で唸って拒否する。
サーフラお嬢様が撫でるのはいいらしい。
目を細めてじっとしている。
こいつオレが嫌いなんか?
ちょっと圧をかけてやろうか。
するとさすがは神獣、圧をかけ返してくる。
オレとフェンリルは少しずつ魔力の圧を高めていく。
「ムール、いいかげんにしないとサーフラが目を回しているわよ。」
「ちっちゃいもん同士でなにを張り合っているのよ。」
オレが怒られた。
まあ、そうか。
ふっかけたのはオレか。
オレは黙って窓の外を見る。
飛ぶように走る馬車に沢山の鳥のようなものや、小さな魔獣、妖精や精霊がついてくる。
観光船からカモメの餌を食べさせていた時の光景を思い出す。
走っているもの、飛んでいるもの。
沢山のかわいいきれいなものが馬車のすぐ近くを並走している。
光と色彩がひらめいて幻想的だ。
森の深部は陽の光が届きにくい。
薄暗い街道を精霊や妖精のキラキラした光が美しい。
パエリがくっついていたフェンリルを少し動かして体を寄せてくる。
「ムール拗ねたの。」
そう言うパエリに車窓の外を指差す。
パエリは目を回しているサーフラを揺り起こす。
「サーフラ、起きて。すごくきれいだよ。」
目を覚ましたサーフラが車窓にくっついて「きれい。」と小さくつぶやく。
フェンリルがいるせいなのか沢山いるはずの強い魔獣などが襲撃してくることはなかった。
「ムール、お腹が空いた。おやつを出してよ。」
サーフラお嬢様がサッと車窓から離れてこっちを見る。
フェンリルもなにが出てくるのか期待しているみたいだ。
インベントリからビスケットやチョコレートやケーキを出して紅茶を入れた。
なんだかオレ、便利だよね。
「あの精霊達や鳥さんもビスケットとか食べるかしら。」
サーフラお嬢様が車窓を開けた。
「あーっ。ダメー。」
と言う間に客車の中に鳥や小さな動物が飛び込んで大騒ぎになった。
テーブルの上のお菓子はすぐになくなってしまい、物足りないのかよってたかってオレをこづき回す。
「あーっ、やめてやめて。誰か窓を閉めてー。」
パエリが窓を閉めようとすると小さな動物や妖精達は閉じ込められないようにと大急ぎで出て行った。
客室の中は羽毛や鱗のようなもので散らかってしまった。
でもこの羽や鱗は希少な錬金素材なんだよ。
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