【KAC20247】モノクローム
とろり。
モノクローム
消さないで――
マリが部屋の明かりを消そうとすると、ヒナが慌てて声を上げた。
明かりが付いていようがいまいがマリの目に映る世界は白黒だった。だからヒナの声を少し鬱陶しく思った。
もう一度スイッチに手を伸ばす。
だからっ!――
ヒナもまたモノクロの世界に生きていた。1000万人に1人、もしくはそれ以下。その病は治ることはない。
寝ようよ
やだよ テレビ面白いじゃん
面白くないよ 白黒じゃん
でもさ なんとなく『色』が分かる気がしない?
そうかなあ
テレビに映るのもまた、白黒。全ては二色で染まっていた。
マリは生まれてすぐに『色』を失っていた。ヒナは6歳から徐々に世界の『色』を忘れていった。
「それではまた来週~!」
司会者がそう言うと派手な音楽とともにCMに変わった。
あ~あ 終わっちゃった
さ 寝よう
そうだね
目が見えない訳ではない。けれど、目が見えないに等しかった。『色』の無い世界ではもう、生きていけないくらいに――二人は死を意識していた。
日常の中の『色』が全て白黒。毎日毎日、朝に目を開くと変わり映えのない景色。何も無いような空間に一人閉じ込められた感じが、二人を襲っていた。
もう、さ
うん?
もう、いいかなって
何が?
生きなくても
ヒナもそう思ってたんだ
マリも?
うん
手術は失敗したし、もう、私には『色』は無い もう私には何も無いよ
私も、かな
モノクロの世界はつまらない
だよね
でも死ぬ勇気なんて無いんだよ 私はただ視界を失った人間の出来損ない
私も死ぬ勇気なんて無い けど
けど?
二人なら――
夜は更けていった。
闇の中を一羽のカラスが飛ぶ。全てが黒に染まったカラスが、黒い夜空を旋回していた。地上には、ぽつぽつと明かりが散見され、『白黒』のような世界だった。
そのカラスの目には『色』は存在しているのだろうか。1分程経って別のカラスが近寄り、二羽揃って海の向こうへと消えた。
浜辺を歩く二人。
月明かりさえもよく分からず、波の音の方へ向かう。
マリ
ヒナ
「「一緒だよ」」
水平線の向こうへ
月明かりが照らす先へ
二人は手を繋ぎ
海に消えた――
【KAC20247】モノクローム とろり。 @towanosakura
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます