第2話 色々と役不足な仲間たち

「か弱い女の子相手に3人掛かりでなぶり殺そうなんて、ひどい話なのです。漢字の『なぶ』るですら、男は2つなのに。これは助太刀すけだちしても良い案件あんけんですよね、世梨華さん?」

「ルサっ!」

 気が付くと目の前の男の首に、背後から死神の鎌が突きつけられていた。鎌の持ち主は腹ぺこ死神ルサ。身長130cm程度と小柄ながら、金髪きんぱつ碧眼へきがんの美少女で、十分な存在感を示している。

 ルサご自慢のオリリルギン・ミスハルコン製の鎌がギンギラギンにさりげなく輝きを放っていた。

 いつもは、闇にまぎれるような黒ずくめの本体の死神衣装に対し、何故こんなにもまぶしい武器を使用しているのかと不思議に思い、また、あきれていたのだが……。

 今はこのギンギラギンなさり気なさが心強い。頼りになる、頼りになり過ぎる仲間だ。

 ルサは左手で鎌を突きつけたまま、右手でチョコレートバーを取り出し、宙空ちゅうくうに固定したチョコレートバーの包装を右手だけで綺麗にがして食べ始めた。

 男が再び溶けるように消え……ようとしたが。

「無駄ですよ? 異次元時空を操るのは、私の最も得意な能力なんですからね?」

 こともなげに言うルサ。その言葉通り、男の能力は不発に終わった。

 他の四天王はというと。

「弱い者イジメとは楽しそうなことやってんな? アタイも弱い者イジメは大好きなんよね。ぜてもらおうかな。ま、イジメる相手はお前らだけれどな」

「貴様、何者?」

すみれ色爆撃姫ヴィオレット・ボンバーの通り名くらいは聞いたことあるやろ?」

「すみれいろ爆撃姫ばくげきき! すみれ色のイオナバイオレット・イオナか!」

「ご名答!」

 爆発呪文の名手、イオナも。そして、もう1人は……。


「美の女神は素肌すはだに真空のやいばまとう……。本作ヒロインにして、お色気部門担当、潮江南うしおえ みなみと申します。以後お見知りおきを」

 のんきにたわけた挨拶あいさつをしている南だった。

 この3人、いや正確には2人と一柱ひとはしらか、は、どう低く見積もっても、先程の四天王してんのう玄武げんぶと同等以上の実力を持つ。

 いや、これは過小評価し過ぎであろう。

 死を覚悟していた極度の緊張が一気に緩和してしまった。

「さっ、世梨華せりか様、どうぞこちらに。安全な場所まで避難ひなん致しましょう」

 そう声を掛けて来たのは、死神ルサの使い魔の黒猫、『ちゃがまる』である。

「逃がすか!」

と、目の前の男が言うが、

「空間に固定されて、指一本動かせないはずですが、どうやって追い掛けるのですか?」

 ルサはそう言うと、今度はポテトチップスの大袋を取り出すと、空間固定能力と右手を使って器用に袋を開け、大口を開けて上を向いて、袋の中身を一気に流し込む。

 ポテチの大袋をものの5秒で食べる人間……、いや、こいつは死神だ、は初めて見た。

「ここは本作ヒロインの、この潮江南さんが、華々しく退治する方向で良いと思うんだけれど? あたしの

シルフィ・シュバルツシルトスパスーパーローテーションロテで華麗に切り刻んじゃって良いかしら?」

「発動する度に、自分の着てる服切り刻んで、すっぽんぽんになる痴女ちじょ能力はやめるですよ! 南さんのすっぽんぽんなんて、見ても嬉しくもなんともありませんので」

「じゃあ、華々しく爆破しとく?」

「それよりも、世梨華さんの危機は脱したと思うので、早く焼肉食べ放題に行きましょう! しばらく何も食べてないので、おなかぺこなのです」

 『しばらく何も食べてない』? 今しがた召し上がられたチョコレートバーとポテトチップス大袋の立場はいったい……?

「ルサさ〜、焼肉バイキング、出禁できん食らってなかったっけ?」

「新しいお店を見つけたんですよ♪ 今度は出入り禁止にされないよう、腹八分目におさえますですから☆」

 もはや緊迫感の欠片もない。ルサ、イオナ、南の3人(正確には2人と一柱)にとっては、こいつら四天王の相手など役不足でしかない。いや、南は、そうでもないかもしれないけれど。

 四天王の方でも戦意喪失状態。この世界では最強クラスの超能力を持つ殺し屋達も、異世界の魔女イオナや上位死神をはるかにしのぐ実力を持つヒラの死神ルサとでは、役者が違いすぎる。

 ちなみに、ルサは上位死神試験を受け続けているのだが、試験に落ち続けているようだ。

 最終試験の暗殺ターゲットが、ルサを全く寄せ付けないためだ。そこは不運で可哀想だと言えるかもしれない。

「あのう……、私達、用事を思い出したので帰ってもよろしいでしょうか?」

 下手したてに出る四天王達。いかんともしがたい実力差があるのは、とうに気付いていよう。

「どうぞ、お帰り下さいませ、なのです。でも、次に私達を襲ってきたら、躊躇ちゅうちょなく殺すですよ?」

「襲うだなんて、そんな滅相めっそうもない! 失礼しました〜っ!」

 四天王達は脱兎だっとごとく、逃げるように空間に溶けていった。


 もうちょい続く

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