可哀想な異世界人
男は不運だった。
「ここ、どこだよ……」
駅のホームの階段から酔っ払いに突き落とされ、気が付くと知らない場所にいた。そこはどこかの遺跡のようで、周囲には誰もいなかった。
男はなんとか遺跡から這い出たが、外の景色を見て絶望した。そこは見渡す限りの荒野で人も動物も見当たらなかった。
男は叫んだ。誰かいないかと呼び掛けた。
けれどその声は誰にも届かなかった。
男は人を探して歩いた。歩いて、歩いて、3日間飲まず食わずで歩き続けて、力尽きて倒れてしまった。
そんな男を見つけた一団がいた。男はその一団に最後の力を振り絞って声をかけた。
男は不運だった。やっと出会えた一団は奴隷商人たちだった。死にかけていた男は奴隷商人に拾われ、奴隷として売り飛ばされた。
それから男の過酷な生活が続いた。劣悪な環境で家畜の方がまだマシと思えるような重労働を強いられた。
そんなあるとき、奴隷たちの反乱が起こった。男はそのどさくさに紛れて逃げ出し、辛い逃避行の末ある町に辿り着いた。
けれどそれで助かったわけでは無かった。
男は不細工だった。美形の両親の悪いところばかりを受け継ぎ、その容姿のせいでずっとイジメられてきた。
それは異世界に来ても変わらなかった。魔物と間違えられて殺されそうになったのだ。
男にはどこにも居場所がなかった。当てもなく彷徨い歩いた。
男はすべてを憎んでいた。すべてを憎み、恨み、呪っていた。それは自分自身もだ。彼は自分の不運を怨み抜いていた。
だが、それでも男は希望を捨てられなかった。いつか、いつか自分にも幸せがやってくるとそう考えてしまうのだ。
そんな男は放浪の末、ある村へ辿り着いた。そしてそこで奇妙な物を拾った。
拾ったのは一枚の大きな木の葉。それはとある村の入村者募集のチラシだった。それを拾った男は何かの声を聞いた。男は藁にもすがる思いでその声の方へと向かった。
「これは、なんだ? お地蔵様?」
声の方へと歩いて行くとそこには石の像が置かれていた。お堂の中に鎮座する優しい顔の石像だった。
「……あのう、村民募集を見て来たんですけど」
男は限界だった。普通なら石像に声をかけようなどとは思わないし、そんなことなどしないだろう。
「できれば、その、村に移住を」
「入村者希望者の方ですね。では、審査会場へ転送いたします」
「……へぇ?」
石像から返事がかえってきた。思いもしなかったことに男は驚き、驚いている間に移動していた。
「ようこそトート村へ。審査会場はこちらになります」
男は不運だった。本当に運が悪かった。
そして、それはこれからもあまり変わらない。
「では、お名前をどうぞ」
「神凪幸多郎、です」
幸多郎はトート村に辿り着いた。それか彼にとって新たな不運の始まりだとは知る由もなかった。
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