ライラの日課
ライラはただの精霊だった。大地に根付くどこにでもいる一般的な精霊だった。
ある時、ライラが宿っていた土地が毒に侵されてしまった。村や町は崩壊し、次々と人が死んでいった。
残されたのはライラだけだった。ライラはひとりぼっちでその地に残された。
ずっと助けを呼んでいた。けれどその声は誰にも届かなかった。
そして月日が流れ、毒に侵された土地は森に覆われ、その森に一人の少年が現れた。
その少年にライラの声が届いた。そして少年はあっという間に森をきれいにし、ライラをライラに作り変えた。
ただの精霊でしかなかったライラは森の守り神となった。神の一柱として生まれ変わった。
これが良いことなのか悪いことなのか正直判断がつかない。大地がきれいになったことは喜ばしいことなのだが、ライラはライラで大変なことになっていた。
「うっぷ……」
大地や森の浄化をライラも手伝った。その際、少年からとんでもない量の謎の力を流し込まれた。それにより激しい吐き気に襲われ、ゲロゲロと何かを吐き続けるほどに体調を崩してしまったのだ。
しかし、それも今は多少治まっている。治まってはいるが完全に良くなったわけではない。
「うう、ぎぼぢ悪い」
精霊から神になったことでだいぶ気分の悪さは治っていたが、時折吐き気に襲われる。どうやら少年に繋がっている神祖と言う神の縁を分割しライラの方にも接続したようで、今では直接神祖の力がライラに流れ込んでいる。そのせいで神になったのに気分の悪さが完治しないのだ。
そんな処理しきれない神祖の力を利用してライラはある物を生み出していた。
ライラが森の木に抱き着く。するとその木にいくつかの大きな実がなる。そしてその実が地面に落ちるとその実の中から生き物が生まれた。
「……ふう、楽になっただす」
生まれのは生き物だった。犬と猫とタヌキの獣人や見たこともない動物だ。
獣人たちは赤ん坊の姿で生まれた。そしてあっという間に10歳児ほどに成長し、元気に走り回り始めた。
人の姿をしていないモノもいた。普通の獣のように四足で走る、しかし普通とは言えない獣だ。四つの目を持つ牡牛ほどもある灰色の狼や、立派な角を持つ一角馬、五つの翼と三つの足を持つ白い大ガラスなどなどだ。
ライラはこうして毎日木から様々な生き物を生み出していた。こうすることで自分に流れ込んでくる神祖の力を処理し、森の住人を増やしていた。
すでに百人以上はいる獣人たちや不可思議な生き物たち。それを管理するのもライラの仕事だ。ライラはそれらと魔法で会話して意思疎通を図り、それらに役目を与え、森の維持管理や様々な作業を行っていた。
「さて、今日も頑張るだすよ」
着々と森の住人は増え続けている。ただ人間はまだ数えるほどしかいない。少年とその仲間たちだ。
「……あの方は本当に人間なんだすかなぁ」
あの方。少年。この森の主。セイルと言う名の10歳ほどの少年だ。そのセイルと言う名の少年がライラの主であり、この森の主人でもある。
一応、セイルは人間らしい。らしいが、疑わしい。
「まあ、なんでもいいだすな。それよりも、どうにかして神祖様の力を扱えるようにせんと」
セイルが本当に人間なのか。正直ライラにとってはそんなことなどどうでもいいことだった。セイルが何であろうと自分の主であることには変わりないからだ。
「なーんでこんなにドバドバ流し込んでくるかねぇ。まったく、神祖様ってのは何考えてんだか」
今日も元気にライラは仕事に励む。与えられた役目を果たすため森を巡る。
「おはようごぜえますだ、主様」
精霊だった神様は今日も働く。
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