国境の森の異変
イスト王国とリゲム王国の国境付近にパラテラ鉱山と言うすでに閉鎖された鉱山がある。そこはかつて両国が互いに所有権を争い血を流した場所である。
しかし、それは昔のことで今では互いに押し付け合っている状態だ。鉱山から流れ出た毒を持つスライムにより周辺が汚染され、人が住めなくなってしまったからだ。
毒に侵された土地など誰も欲しくない。しかも、その毒により周辺に被害が出た場合の責任も取りたくない。そのため両国ともに責任を押し付け合い続け、両国ともに所有権を放棄している状態だった。
しかも両国は毒性を持つスライムの変種であるポイズンマッドの討伐さえも押し付け合った。ポイズンマッドはかなり危険な魔物で、大量発生した場合は冒険者だけでなく国の軍隊も動員しなければ対処できないが、それすらも互いに責任を押し付け合い、手遅れになるまで放置していた。それが原因で周辺の村や町がいくつも壊滅し、そんな状況になってからやっと両国ともに対処を始めたという体たらくである。
そんな土地に変化が起きたのは3年ほど前だ。突然、パラテラ鉱山を含む周辺一帯がすべて赤い森に変わってしまったのだ。
魔樹ディオディオン。樹木の魔物が大繁殖し、パラテラ鉱山だけでなく周辺の村や町まで飲み込んでしまった。
そして、両国ともにまたも責任を押し付け合った。あそこはお前の土地だ、被害の責任はお前たちが取れ、魔樹の除去はお前たちがしろ、と互いに擦り付けあっていたのだ。
そんな忌まわしい場所にまた変化が起こった。
2ヶ月ほど前、森から毒がきれいさっぱり消え去った。赤かった葉が鮮やかな緑に変化し、水や空気さえもすべて浄化され、人の世とは思えない美しい森へと変わったのだ。
一体何が起きたのか。それを確認するために両国は調査団を送り込んだ。そして、信じられない物を見た。森に獣が住んでいたのだ。
ディオディオンが繁殖する以前は毒に侵された土地には獣も魔物も住み着いていなかった。住み着いていると言えばポイズンマッドぐらいで、それ以外は草の一本も生えていなかった。
ディオディオンが繁殖してからも同じようなものだった。ポイズンマッドも魔樹に毒を奪われて消滅し、生き物は全く生息していなかったはずだ。
そんな生き物が何もいなかった場所に何かが住み着いていた。それは人とも獣とも言えない、いわゆる獣人と呼ばれる者たちだった。
しかも一匹ではない。さらには一種類でもない。犬や猫、牛や馬、鳥やウサギのような特徴を持つ獣人や見たことのない獣などがいたと言う。
両国はさらに調査を進めた。森の内部に潜入し、詳しい状況を確かめた。
そして、内部を調査した調査隊はある物を持ち帰った。
それは一枚の大人の顔ほどもある大きな葉っぱだった。そしてその葉にはこう書かれていた。
『トート村、入村者募集中。お問い合わせはお近くの祠まで』
全く意味が分からなかった。一体内部で何が起こっているか。
謎は深まるばかり。これが良い変化なのか悪い変化なのかも判断できない。
両国はさらに調査を続けた。そして、冒険者ギルドにも調査の依頼を行った。
しかし成果は上がらなかった。何もわからないまま時間だけが過ぎていった。
突然現れた未解明の森。そこに次々と冒険者が集まって行く。謎を求めて、金になりそうな物を求めて、人々が集まり始めていた。
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