第19話

 十三魔神。遥か昔、その魔神たちが人間に魔法を教えたとされている。そんな魔神たちは魔法使いたちにとって最も親しみがあり最も尊い神と言える存在である。


「十三魔神は六柱の善神と六柱の悪神、そして一柱の中立神の十三柱がいるわ。その善神や悪神たちにも程度があり、悪よりの善神や善よりの悪神がいる。その中で善の極致とされているのが極善神シャーレル、悪の極致とされているのが極悪神エデルグ、そのちょうど真ん中の善でも悪でもない中立神がサリリ。それ以外の十柱の名前は」

「知ってる」

「知ってるのね」

「さすが祠マニアですね。祠に関することならなんでも知ってる」

「なんだ、祠マニアってのは」


 また変なことを言い出したな、とセイルはリフィに呆れるがとりあえず放置しておくことにしておく。


「じゃあ、魔物は魔神たちが生み出したと言うことも知ってるわね」

「ああ。魔物と言うのは魔法生物の略称だ」

「そうね。正解よ」


 魔物を生み出したのは魔神たちだ。彼らがその魔法を使用し原生生物を変化させたり魔法により新たに生み出した魔法生物、それが魔物である。


 生み出した理由は様々だ。自分の身や人間たちを守るため、善神に戦いを挑むため、イタズラ、嫌がらせ、興味本位、気まぐれと神話にはいくつもの魔神たちの逸話が残されている。


「その魔物を使役し世界を支配しようとしたのが魔王よ」


 魔物の軍勢を率いて人間と戦争を行った存在、それが魔王だ。彼はあらゆる魔物を使役する力を持ち、彼自身も強力な魔法使いだった。


「でもその魔王ってもういないんですよね?」

「まだ生きているとも言われてるわ。魔王を語る大馬鹿者もいる」


 この1000年の間に何度か魔王が復活したとされているが、その都度勇者に倒されている。その最後の戦いで魔王は完全に消滅したとされているが、その後も姿を現したという逸話もある。


 そのため魔王が生きているのか死んでいるのか定かではない。もしかしたら今もどこかで次の戦いのために牙を研いでいるかもしれない。


「今現在、魔王を語っている者は三人。まあ、強いことは強いらしいけれど、絶望的な強さじゃない。魔王を名乗ってはいるけれど魔王にしては力不足と言った感じね」


 一応、魔王を倒すのも勇者の務めのひとつとされている。だが今は時代が違う。現在、魔王を名乗っている三人はそれぞれ国を治めており、大勢の民を抱えた正真正銘の王なのだ。


 なのでその王を倒すとなるとかなり厄介だ。国のトップを殺すのだからいろいろと問題が出てくる。


 しかも彼らは魔王を名乗っているが他国に戦争をしかけようとしている気配はない。むしろかなりの善政を敷いているようで、魔王が統治するそれぞれの国はかなり豊からしい。


 らしい、と言うのは魔王の国は他国とほとんど国交がないからだ。なので内情を知るには魔王の国を出入りする商人か冒険者からもたらされる噂話ぐらいしかない。 


「力不足と言うのは実際に彼らの力が中途半端だから。今の魔王たちは特定の魔物を支配する力しか持っていない」

「天使の国とか悪魔の国があるんですよね?」

「そうよ。それと獣の国ね」


 天使や悪魔も魔物に分類される。天使は善の魔神が生み出した善の魔物、悪魔は悪の魔神が生み出した悪の魔物だ。そして、獣の国にはそのどちらの魔物も存在している、らしい。

 

「おそらく今の魔王たちはかつて存在した魔王の力の断片を何らかの方法で手に入れた存在だと思う。確かに脅威ではあるけれど、私としては積極的に戦いを挑むことには否定的ね。戦争なんてないほうがいいに決まってるもの」


 魔王。それは人間にとって恐怖でしかないが、今のところ人々の生活を脅かすような存在ではない。あくまで今のところではあるが。


「話が逸れてしまったわね。とりあえず、魔神の話はこれぐらいにしましょう。何かわかったかしら?」

「そう言えば、魔神の祠は掃除したことが無いな」

「気づいたのはそれですか」

「セイルらしいわね」


 セイルらしいと言えばらしいがそれでいいのかと言われると疑問である。


「とりあえず、祈りに行こうか」


 セイルたちは考えるのをいったんやめて魔神が祀ってあるという場所へ向かう。


「それにしても独特な造りの社ですよね」


 村にはいくつか神や精霊が祀られている場所がある。その中で一番大きな社が村の北側に置かれている。


 それが魔神が祀られている祠、と言うか社だ。大きく反り返った藁ぶき屋根が特徴的な高床式の立派な社である。その社の中に魔神が祀られているのだが中に入ることは出来ず、その社の前で鐘を鳴らして祈りを捧げるのがここのやり方だ。


 セイルたちもすでに参拝は済ませている。参拝はこれで三回目だ。


「うーん、やっぱりなんだか違うんだよなぁ」


 リフィたちと共に社の前で鐘を鳴らし祈りを捧げたセイルは眉根を寄せて頭をかく。何か気になることでもあるようだ。


「本当にここに魔神が祀られてるのか?」

「そうだという話だけれど」

「何か変なんですか?」

「うーん、なんというか、気配が薄いというか」

「確かに力が弱い気がするわ。気配は感じるのだけれど」


 三人は社の屋根を見上げる。本当に立派な社だが、なんだか見た目が立派なだけのような気がしてくる。


「他の場所にも行ってみるか」


 三人は北の社以外にも足を運ぶ。この村には森や畑の精霊も祀られている場所がある。これらは農業や狩猟を中心とする村で祀られている一般的な者たちだ。


「こっちは普通だな。普通の祠だ」


 セイルはいくつかの祠をまわって感覚を確かめるが、やはりあの社以外の祠は普通の祠だった。


 気になる。なのでセイルは村人にいろいろと聞いてみることにした。

 

 するとある事実がわかった。


「引っ越したのか」

「もともとは別の場所に祠があったんですね」


 魔神が祀られている祠はどうやら本来は別の場所にあったらしい。昔の祠は参拝するのに不便な場所にあったため、参拝しやすいように村の北側に新しい社を建ててそこに引っ越したのだという。


「もとの場所に行ってみよう」


 もともと魔神が祀られていた祠は村のさらに北にある森の中にあるらしい。セイルとリフィとエリッセルはその祠がある場所へ行ってみることにした。


「あの、ひとついいですか?」


 さて行こうかと意気込んでいたセイルに少し言いにくそうにリフィが口を開く。


「水を差すようで申し訳ないんですけど、これって意味かあるんですか? セイルさんが魔法を使えるようになるんですか?」


 ごもっともである。昔の魔神の祠がある場所に行って、何かセイルの力の手がかりが見付かるかというと疑問だ。セイルが魔法を使えるようになるとも思えない。


「まあいいじゃないか。息抜きだよ、息抜き」

「息を抜いてる暇があるの?」

「いや、まあ、あると思う、よ?」


 セイルは目を泳がせる。


「自分が行きたいだけでしよう?」

「行くだけよ。掃除はまた今度」

「わかったわかった。行くだけにしとくよ」


 三人は魔神がもともと祀られていた場合へと向かう。


「疲れたら言ってくださいね。おんぶしてあげますから」

「いらん。歩く」

「無理をしてはダメ。子供なんだから」

「大人だ」

「子供扱いするなですかぁ? かわいいですねぇ」

「年上をからかうな、まったく」


 三人は手をつないで歩く。二人に挟まれたセイルは手を振りほどきたくなるが、それこそダダをこねる子供のようでなんとなく嫌だった。なのでセイルは仕方なく二人と手をつないで目的地へと向かうのだった。

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