第12話 ゲームの展開?
(一体どういうことだろうか?)
帰路につきながらミモザは思案した。
エオとロランの目撃情報のある街にゲームの攻略対象者がいた。それも領主の不正な税金徴収というゲームのイベントに繋がりそうな問題ももう起きているようである。
(エオもステラもゲーム通りに動いている……?)
しかし今のところステラの目撃情報はなく、ルークも会っていないようだ。
(エオは……)
彼はゲームを知っているのだろうか?
彼は本名をアイウエオ・タナカという。かつて150年前にこの世界に存在していたハナコ・タナカこと田中花子という日本からの転生者もしくは転移者とおぼしき日本の文化をこの世界に持ち込んだ人物の子孫である。
その田中花子が乙女ゲームのことをどこまで知っていたかは謎だ。しかし少なくとも彼女、もしくはエオは聖剣の封じられていた場所を見つけることはできてもその場所への入り方は知らなかったようだ。
エオの証言によると彼は花子の手記を手掛かりに聖剣の在処に辿り着いたらしい。つまり花子がゲームの知識をある程度持っていたことは確かだ。
しかし聖域への入り方は知らなかったことからすると、唯一聖剣の出現するモードであるイージーモードはプレイしたことがなかったことがわかる。
つまりエオはその花子の残した手記によってノーマルないしハードモードのゲームの知識を持っている可能性は高い。しかし続編の知識まで持っていたかはやはり謎である。
そして知っていたところでステラを脱獄させてゲームの展開をなぞることに一体どのようなメリットがあるのかもわからない。
以前にも考えたが、ミモザの知る限りにおいて今のこの世界ではエオとステラは出会うきっかけがなかったはずである。一周目の記憶のあるステラはエオのことを知っていた可能性が高いが、エオにしてみればせいぜいがご先祖の手記に書かれていた人物という程度の認識のはずなのだ。
(もしくはエオにも一周目の記憶があるとか?)
エオは保護研究会というこの世界のありとあらゆる知識や技術に精通しているらしい研究組織のそこそこ中心的な人物である。なんらかの手段で一周目の記憶を保持した可能性も……、とそこまで考えて、ミモザは首を振ってその考えを打ち消した。だとしたらエオが聖剣の取り出し方を知らないはずがない。ミモザの推測が正しければ聖剣を探しに行った先で二人は出会っているはずなのだ。よしんば取り出すところは見ていなかったとしても、ステラが手に入れることを知っていれば第6の塔を探すのではなくステラについて歩く方が聖剣を手に入れるには効率的だ。
(エオがステラに惚れてしまったとか?)
うーん、とうなる。
否定しきれないが肯定するにはなかなか度胸がいる説である。ミモザの知るエオは、なかなかに食えない人物という印象だった。
(惚れるかなぁ……?)
よくわからない。ミモザの知る限りではステラに純粋に好意を抱いている攻略対象者はアベルだけだ。
(魔法で好意を抱かせている可能性もなくはないけど……)
簡単に傷つけさせてくれる相手にも思えないし、解毒の手段くらい持っていそうだ。そのくらいなら純粋に惚れている説の方が可能性が高いような気がする。
うんうんと唸りながら歩いていると、いつの間にかカフェまで戻って来ていたようだ。
「あれ?」
その光景に思わずミモザは声を上げた。
「レオン様!」
そして慌てて駆け寄る。もう閉まったカフェのテラス席に腰掛けて、月明かりの下でレオンハルトは本を読んでいた。ミモザの声に彼は顔を上げる。
「帰ったか」
「すみません、えっと、」
一体こんなところで何をしているのか、と聞きかけてミモザはすんでのところで気づいて言葉を止めた。
周囲を見るともうすっかりと空は暗く、夜になってしまっている。
(遅くなり過ぎてしまった)
彼には夕食の前には戻ると軽く伝えていた。実際カークスへの依頼を済ませたらさっさと帰るつもりだったのだ。それが予想外にルークと遭遇してしまったために予定よりも随分と遅くなってしまっていた。
焦るミモザにレオンハルトは気にした風でもなく
「成果はあったか?」
と尋ねる。それにミモザは
「えーと、あるようなないような……」
と曖昧な返事をした。
「なんだそれは」
「……うーん」
一番後回しで良い案件がはかどって、優先しなければいけない件はあまり進展しませんでした。
とこれだけ遅く戻ってきておいて言うのは気まずい。
「ステラと恋愛するはずの相手に会いました」
結局ミモザは収穫の一部を提示した。それにレオンハルトはひょいと眉を上げる。
「例の『未来の記憶』のか」
「はい」
ミモザは簡単にルークのことを説明する。レオンハルトはしばらく何事かを考え込んでいる様子だったが、ややしてから
「そうか」
と頷いた。
「ここの領主である人物、レイド・ナサニエルは愛妻家で有名でね。ただここ数年は奥方の姿を見ないと王都でも噂になっていたが……。まぁ確かに、奥方のためならやりかねん男だ」
「そうなのですか」
「ああ。しかしステラ君と関わりがある人物がいるということはこの街に来たのは正解だったな」
そう言うと彼はゆっくりと立ち上がった。そしてミモザにゆるく微笑みかける。
「まぁ、立ち話もなんだ。どこか適当な店で食事でもとりながら話そう」
その言葉にミモザははっとする。確かにその通りだ。というよりも遅刻したミモザの方からそれは提案しなくてはならなかった。
「申し訳ありません。配慮が足りず……」
「ん? ああ、気にするな。強いて言うならば……」
金色の瞳が夜の中で月の光を受けて輝いた。三日月ようにその瞳がすぅと微笑みに細まる。
「あまり遅くならないように気をつけなさい。心配するからな」
「………申し訳ありません」
最後にもう一度謝ると、彼は許すようにミモザの頭を撫でた。
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