第11話 落下物

「ケンジ…」


そうだ、そこには俺の親友、ケンジが立っていた。公園の静かな環境の中で、彼の疲れ切った目は懸念と疲労で満ちていた。


「リョウタ、どこでもお前を探していたんだ。」


彼の声には感情がこもっていた。


「お前に起きた噂を聞いたよ。逮捕されて刑務所に入れられたことを。」


思い出が押し寄せ、俺を絶望の波に飲み込もうとした。俺は自分が完全に崩壊する寸前だと感じた。


「でも、お前の話を聞きたいんだ。俺はお前を信じてるよ。お前がそんなことをするわけがないって。」


彼の言葉が、俺の心を包んでいた絶望の霧を切り裂いた。


信じてくれる?誰かが俺を信じてくれる?本当にケンジは俺を信じてくれるのだろうか?いや、それは許すことができない。俺は心の防御壁を築いており、もう一度の痛みを避けるためにそれを守りたいと思っていた。


ケンジの誠実な懇願にもかかわらず、俺は彼の言葉を信じることができなかった。裏切りの傷はまだ痛々しく、俺はその脆弱さから逃れ、必然的な失望を恐れていた。


俺が信頼することができない人物に、俺の信念を置くことは、ただ俺を砕き、壊れたままにするだけだということを、俺は辛酸をなめながら学んできた。


だからこそ、俺は沈黙を守り、重い沈黙が俺たちの間に広がった。ケンジの言葉が空気中に漂い、俺たちの間の隔たりを思い知らされた。


彼は手を差し伸べた、まるでその隔たりを埋めるかのように。しかし、俺は身を引き、彼が築いた壁を乗り越えさせることを許さなかった。


「話したくないとしても理解してるよ。ただ、俺はどんなときでもここにいるってことを知っておいて。」


彼の誠実さは心に突き刺さったナイフのようで、俺の防御を貫き、長い間埋めようとしていた感情をかき立てた。


しかし、彼の優しさに影響されることを許すことはできなかった。過去の裏切りの傷がまだ深く心を引き裂いていたからだ。


ケンジの俺に対する信念は暗闇の中での命綱かもしれないが、過去の傷跡がまだ深く心に残っている限り、彼を受け入れるリスクを冒すことはできなかった。


重い胸の内で、俺は背を向け、俺をさらなる痛みに陥れる可能性のある誰かから距離を置くことを決意した。


「リョウタ、待って!」


彼の声が俺を呼び止めた。


俺は立ち止まり、背中を彼に向けたまま、拳をこぶしに握ったままでした。


「もう一歩も近づかないで! お願い…」


俺は喉から声が出るのを感じながら、波立つ感情で声が震えました。


ケンジは立ち止まり、俺の境界を尊重しました。しかし、彼の言葉から俺への心配が伝わってきました。


「もう誰も俺の人生に入れない。 それは俺を傷つけるだけだ。」


俺は告白しました。押し殺された感情が急ぎ足で口からこぼれ出ました。


俺の胸は苦しみに閉じられ、過去の裏切りの記憶が俺を圧倒しようとしていました。


「これが本来の姿ではないとは分かっている。 しかし、それをどうすることができる? 父に追い出され、ハナに別れを告げられ、全てはユートによってポケットにナイフが仕掛けられたからだ。 俺はすべてを失った。」


俺が話すと、涙が目の角につきました。 俺の損失の痛みはまだ新鮮で、生々しいものでした。


「リョウタ、俺は--」


彼が続ける機会も与えず、俺はポケットをくまなく探し、しわくちゃの紙を見つけました。 震える手でそれを彼に投げつけ、その行動は挫折と絶望の混ざり合った感情によってエネルギーを与えられました。


それから、振り返ることなく、俺は公園から逃げました。 俺の足音が空虚な静寂の中で響いていました。


---


【ケンジの視点】


紙が俺の方に投げられ、しわくちゃになったまま俺の足元に落ちた。必死に逃げるリョウタの姿が、絶望と苦悩に満ちているのが目に焼き付いた。


「くそっ! くそっ、くそっ、くそっ!!!」


俺の中に渦巻く無力感と挫折が頂点に達し、溢れんばかりだった。


俺はひざまずき、地面を拳で叩き、押し殺された感情を解放しようと必死になったが、何の成果もなかった。


「一体どれだけ彼らがリョウタを傷つけたんだよっ!?」


俺の心は悲しみと挫折による重圧で溢れかえっていた。リョウタの苦悩の姿が、俺の父親の目に映った苦悶と鮮明に重なり、裏切りや不正の後遺症を思い知らされる。


その瞬間、リョウタの必死な逃走が俺の心を打ち震わせ、過去の記憶を呼び覚ました。


俺と父親の二人きりの暗い日々。そんな時、リョウタがいてくれた。俺の悲しみの深さを理解していなくても、俺の笑顔を取り戻そうと決意してくれた。


俺の気持ちを上げようと、ゲームをしたり、話をしたり、できる限りのことをしてくれた。


彼の母親が亡くなった時、俺はリョウタが感情的に不安定だと気付いていた。


俺の父親と同じ道を辿るのではないかと心配していた。だからこそ、俺は彼の優しさに報い、俺の父親と同じ運命にならないように彼を支えようと誓った。


...けれども、それはうまくいかなかった。


「リョウタ、ごめんな…」


地面に座っていると、涙が顔を伝い落ち、完全に無力さを感じた。リョウタの名誉を回復する方法も、彼の周りに散らばる彼の人生の破片を修復する方法もわからなかった。


公園の静寂の中、唯一の音は木々を通るそよ風の穏やかなざわめきだった。俺の内部に渦巻く感情の騒ぎとは対照的な光景だ。


感情を押し殺した後、リョウタが重要なことを言っていたことを思い出した。


「ユウトがポケットにナイフを仕掛けたせいで、すべてが起こったんだ。」


リョウタには決してナイフをポケットに入れるはずがないことを知っていた。


「でも、なぜユウトがそんなことをするんだろう?」


そして、リョウタとの会話を思い出した。彼がユウトと喧嘩をしたことを。


「なぜ彼らが喧嘩をしたのだろう?んー…ああ、それはハナのことだった!」


リョウタはユウトもハナのことが好きだと言っていた。でも、ナイフを仕掛けるのか?それはありえる。


しかし、ハナがリョウタと別れなければ、ユウトはハナと付き合うことができない。


「俺はあなたの最初の警告を無視してしまった後、色々考えたんだ。そして、その結果、傷ついた。もう二度とこの痛みを経験したくない...犯罪者と付き合いたくない」


「犯罪者とは付き合いたくない」...彼は彼女に何を警告したのか?


すべてのピースを組み合わせてみると、明らかだ。ユウトはすべてを仕組んだ。


しかし、それがリョウタの喧嘩にどう結びついたのか?


何も思いつかなかった。俺が諦めようとしていると、しわくちゃの紙に気づいた。


「ああ、これはリョウタが俺に投げつけた紙だった。」


俺はしわくちゃの紙を拾い上げ、広げた。


「レシートか?」


とつぶやいた。リストに記載されている商品を調べるにつれ、混乱が増していった。


「キャンディやスナック。」


購入品のリストを見ながら。しかし、そのレシートの上部に押された日付に目が止まり、瞬時に何かがクリックした。


「待て! この購入は喧嘩が起こった時にされたものだ!だから、彼はその喧嘩に関与していなかったはずだ!」


この発見の重要性を理解し、希望の波が俺を駆け抜けた。これは小さながらも重要な証拠であり、彼の無実を証明するのに役立つ可能性がある。


「ユウトを有罪にするために必要な情報はすべて手に入れた。」


新たな決意を持ちながら、急いで持ち物をまとめ、リョウタがおやつを買ったコンビニエンスストアに向かった。


そこで、彼のアリバイを確認し、彼の名誉を回復するための証拠を提供してくれる誰かを見つけることを願っていた。


「リョウタ、必ず助けてみせる。君が昔、俺を助けてくれたように。」


---


ついにコンビニエンスストアに到着した時、焦燥感が俺を支配した。リョウタの名誉を回復するために必要な証拠を集めるためには、時間が命だということを知っていた。


中に入り、決意を持ってレジに近づき、期待に胸を躍らせながら声をかけた。レジ係は、30歳ほどのぽっちゃりした男性で、俺が近づくと顔を上げた。


「こんにちは。」


「こんにちは、何かお手伝いできますか?」


「質問があります。」


「もちろん、どうぞ。」


「リョウタ・ケンという人を知っていますか?」


彼がリョウタを知っていることを願っていた。


「リョウタ・ケン? はい、彼を知っています。何か?」


良かった、これで説明がしやすくなる。


「彼に関する噂を聞いたことはありますか?」


「彼が刑務所に入っていたことくらいですね。でも、正直に言うと、彼が刑務所に入るようなことをするとは信じがたいですよ。」


レジ係は考え深げな表情で認めた。


「それは彼が陥れられたからです。」


「え?」


「リョウタが刑務所にいたのは、その一因が喧嘩に巻き込まれたからです。」


「喧嘩?3週間前に起きた喧嘩のことですか?」


「はい、でもリョウタはその喧嘩に巻き込まれていないはずです。なぜなら、彼はここで買い物をしていたからです。」


「それをどうやって知っているんですか?」


「リョウタのレシートがあるんです。」


「彼のレシートをどうやって手に入れたんですか?」


「彼が俺に投げつけたんです。」


「?」


「それは置いておいて、リョウタが店に入店し、退店する様子の監視カメラの映像を見せてもらえますか?」


「それは問題ありません。」


レジ係がセキュリティカメラシステムに向かった。


数分後、映像を手に入れました。


「ありがとうございます。」


レジ係から映像を受け取った後、早速それをスキャンし、喧嘩が起こった時間帯にリョウタが店に入店したり退店したりする兆候を探しました。


ビデオを再生すると、リョウタが店に入店し、棚を見て回り、最終的にチェックアウトカウンターで購入を行っている様子が映し出されました。


映像のタイムスタンプが、彼が実際に喧嘩が起こった時に店にいたことを確認しました。


この証拠を手に入れたことで、ひと安心しました。リョウタが無実であることが示され、彼のアリバイが裏付けられたようです。レジ係に感謝の意を示しました。


コンビニエンスストアを出ると、冷えた夕方の空気が俺を迎え、日が沈むのが急速に近づいていることを思い出しました。映像を携帯電話に保存したまま、家に急ぎ足で歩き出しました。


---

部屋に入ると、迅速にデスクに向かい、ラップトップの電源を入れました。


携帯電話をラップトップに接続し、セキュリティカメラの映像が保存されているフォルダに移動しました。


注意深く関連するファイルを選択し、コピーのプロセスを開始しました。進行バーが満杯になるのを見守りながら待ちました。


完了したら、USBスティックをラップトップから取り外しました。


USBメモリを手に持ちながら、その重さがリョウタの無実の重みを帯びているように感じられました。


胸に燃える決意を抱きながら、この証拠を当局の注意に引き出す必要があると確信しました。


これはリョウタの名誉を回復し、正義を勝利させるための鍵でした。


俺はすぐに携帯電話を取り出し、地元の警察署の番号をダイヤルしました。指が震えながら、待っていました。


「もしもし、こちら警察署です。どのようなご用件でしょうか?」


当直の警官の声が返ってきました。


「こんにちは、俺の名前は田中健二です。重要な証拠があり、警察の方に注意を喚起する必要があると考えています。」


俺は自分の声を震えないように保とうとしました。


電話の向こうの警官は、俺が状況を説明し、リョウタの誤った逮捕と俺が持っている証拠が彼の無実を証明できる可能性について聞いてくれました。


「コンビニエンスストアからのセキュリティカメラの映像のコピーがあります。それによれば、リョウタが喧嘩が起きた時にその場にいたことが示されています。」


俺は熱心に言葉を続けました。


「この映像が彼のアリバイを確立し、彼を何も悪くないと証明するための重要な証拠となり得ると信じています。」


警官は返事する前に、電話の向こうで一瞬の沈黙がありました。興味をそそる声で、彼が応答しました。


「少々お待ちください、お客様。この件についてお手伝いできる方にお繋ぎします。」


俺は自分の心を助けてくれる誰かと話す機会に感謝しつつ、自分に頷きました。数分後、別の声が電話の向こうから聞こえ、今度はその声は事件の担当刑事でした。


「もしもし、こちら中村刑事です。私たちが調査している事件に関連する証拠を持っているとお聞きしましたが?」


電話越しに、中村刑事の声が鮮明でプロフェッショナルなトーンで聞こえました。


「はい、中村刑事。俺の名前は田中健二です。最近の事件で、リョウタ・ケンの無実を証明する証拠があります。」


俺の声は、俺の中を駆け巡る緊張感にも関わらず、安定していました。


俺は、セキュリティカメラの映像を詳細に説明し、事件当時のリョウタのコンビニエンスストアでの存在を強調し、その映像が彼のアリバイを確立する上での重要性を強調しました。


中村刑事は注意深く聞き入り、俺が持っている証拠の全体像を把握しようとする質問をしてきました。


「この情報をお知らせいただき、ありがとうございます、田中くん。」


中村刑事は最後にそう言いました。その声は、決意に満ちた厳粛なものでした。


「USBメモリを警察署に持参していただけますか?できるだけ早く。それを詳しく検証し、事件にどのように関連しているかを確認する必要があります。」


「もちろん、中村刑事。明日、学校が終わった後に警察署に向かいます。」


リョウタの名誉を回復する可能性に期待を抱きながら、俺は希望に満ちた高揚感を感じました。


「その上で、刑事、もう一つ重要な詳細があります。」


リョウタの所有物で見つかったスイッチブレードについて伝えるチャンスをつかみながら。


「リョウタ・ケンがスイッチブレードを持っていましたが、それは彼のものではありませんでした。誰かがそれを彼のポケットに仕込んだのです。俺はそれを仕込んだ容疑者がいます。」


「...その点についてもう少し情報が必要です。USBメモリを持参いただく際に、この件に関するいくつかの質問をさせていただけますか?」


「もちろんです、中村刑事。」


それで、俺たちの会話は終わり、俺は新たな目的感を感じました。


明日の準備をするにつれて、わくわく感が抜けませんでした。明日が来るのが待ち遠しい。正義が勝つように、俺は何でもやる覚悟ができていました。

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